京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『トスカーナの幸せレシピ』レビュー

どうも、僕です。野村雅夫です。今月11日にYEBIS GARDEN CINEMAで封切られ、現在全国順次公開中のイタリア映画『トスカーナの幸せレシピ』。また1本、こうしてイタリアの作品が日本に紹介されたことを記念して、京都ドーナッツクラブでは2本のレビューを順次こちらで綴ります。まずは、関東在住で、メンバーの中ではいち早く鑑賞したココナツくにこによる文章を、オフィシャルサイトから引用したあらすじに続いてどうぞ。(セサミあゆみによる2本目のレビューは、11月6日にアップしました)

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海外の超一流店で料理の腕を磨き、開業したレストランも成功させた人気シェフのアルトゥーロ(ヴィニーチョ・マルキオーニ)。しかし、共同経営者に店の権利を奪われたことで暴力事件を起こし、順風満帆だった人生から転落。地位も名誉も信頼も失った彼は、社会奉仕活動を命じられ、自立支援施設「サン・ドナート園」でアスペルガー症候群の若者たちに料理を教えることになった。 無邪気な生徒たちと、少々荒っぽい気質の料理人の間には、初日からギクシャクした空気が流れる。だがそんな生徒のなかに、ほんの少し味見をしただけで食材やスパイスを完璧に言い当てられる「絶対味覚」を持つ天才青年グイードルイージ・フェデーレ)がいた。祖父母に育てられたグイードが料理人として自立できれば、家族も安心するだろうと考えた施設で働く自立支援者のアンナ(ヴァレリア・ソラリーノ)の後押しもあり、グイードは「若手料理人コンテスト」へ出場することになった。アルトゥーロを運転手にして、グイードは祖父母のオンボロ自動車に乗り込み、コンテストが開催されるトスカーナまでの奇妙な二人旅が始まる。

 

監督:フランチェスコ・ファラスキ

脚本:フィリッポ・ボローニャ、ウーゴ・キーティ、フランチェスコ・ファラスキ

出演:ヴィニーチョ・マルキオーニ、ヴァレリア・ソラリーノ、ルイージ・フェデーレ

原題:Quanto basta

配給:ハーク

2018年、92分

短気な元一流シェフのアルトゥーロと、アスペルガー症候群の青年、グイードが料理を通じて友情を育む物語。トスカーナの美しい景色を背景に、笑いや感動をQtanto basta(程々)に織り込んだイタリアらしい、心温まる映画である。

 

傷害罪で逮捕されたアルトゥーロは減刑の条件として社会奉仕活動を命じられ、障害者支援センターで料理を教えることになる。そこで出会ったのが僅かな味見で食材と調味料を全て言い当てることのできる、絶対味覚の持ち主グイード。そんな彼がトスカーナで開催される若手料理コンテストに出場することになり、指導役のアルトゥーロと共に初めての旅行に出発するが…

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全体的に物語がうまく行き過ぎている感じがするが、意外にも深みのある映画である。アスペルガー症候群とは、知的障害を伴わない自閉症の一つで近年、年齢を問わず拡大している障害の一種。見た目では判断しにくく、世間の認知度も低いため、いじめやトラブルになることが多い。そんな中、口が悪く怒りっぽい中年男と世間知らずで融通の利かない青年が感化し合うのが新鮮だ。付添人のはずが、逆に主人公が人間性を取り戻していく様に、観客は胸が熱くなる。そのほか恋愛面においてもQuanto basta(程々)を上手に効かせるあたり、さすがはアモーレ(愛)の国、イタリアである。近頃発達障害者の社会適応が問題になる中、本作品がアスペルガーを知るきっかけとなり、一つの生き方に囚われない多様性を理解する社会になって欲しいと思う。

 

とはいえ世間にはどうしても理解し合えない人達もいるわけで… その辺りの演出も見事だった。また脇役陣も素晴らしく、旅する2人を大きな愛で見守る自立支援責任者兼心理学者のアンナや、アルトゥーロの師である伝説の料理人チェルソも良い味を出していた。本作は、日頃生きづらさを感じている人、人生の意味を見い出したい人に特にお勧めである。きっと誰もが鑑賞後に、何らかのヒントを得られることだろう。

 

最後に欲を言うならタイトルにもうひと工夫欲しかった。さすがに邦題で「適量」あるいは「程々」の漢字二文字は厳しかったのかもしれないが、『トスカーナの幸せレシピ』だとどうも違和感を感じるのは私だけなのだろうか。

 

文:ココナツくにこ