京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

エドアルド・レオ特集上映より 『俺たちとジュリア』解説

短い短いストローのささった熱い熱いコカコーラ。

これがなにかというと、トスカーナ方言の特徴を紹介するときのおもしろフレーズだ。イタリア語で書くと、La coca cola calda calda con la cannuccia corta corta.となる。前回のカタカナ表記のジレンマをいったん忘れて、発音を表記すると「ラ・コカコーラ・カルダカルダ、コン・ラ・カンヌッチャ・コルタコルタ」だ。ところがトスカーナ方言では母音にはさまれたcはhに変わるという法則がある。つまり上記のフレーズのcのほとんどがhに変わって「ラ・ホハホーラ・ハルダハルダ、ホン・ラ・ハンヌッチャ・ホルタホルタ」となるのである。だからどうしたと問われればそれまでだが、初めてトスカーナの人に会ったときは、本当にcをhで発音している!と感動したものだ。

さて、耳のいい視聴者諸賢は、『俺たちとジュリア』のなかに、トスカーナ方言でしゃべっている登場人物がいるのに気づかれるだろうか。刺青妊婦のエリーザである。

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刺青妊婦エリーザ!役のアンナ・フォリエッタ

 

エリーザを演じたアンナ・フォリエッタは1979年にローマ生まれ。十代のころから劇の舞台に立ち、27歳で映画デビュー。代表作はイタリア映画祭でも話題になった『元カノ/カレ』『みんなフロイトのせい』など。プライベートでは三人の子育てにいそしむ彼女は、最近ではTVドラマ版『マフィアは夏しか殺らない』など母親役が増えた。つまりトスカーナとは無縁の彼女なのだが、エドアルド・レオのインタビューによると、トスカーナ人の設定はフォリエッタが勝手に持ちこんできたらしい。後に『おとなの事情』やレオ監督作『どうってことないさ』でレオと共演するフォリエッタは、彼の意図を汲む能力に長けていたのかもしれない。

というのは、この作品にはトスカーナ方言だけでなく、様々な方言を使う登場人物が出てくる。エドアルド・レオ演じるうさん臭い通販番組の司会者ファウストはローマ弁、ルカ・アルジェンテーロ演じる内気な自動車セールスマンのディエゴはトリノ弁、そしてもちろん舞台である田舎の方言を、カモッラたちがしゃべりたてる。作中では明確に言及されていないが、撮影が行われたのは、バジリカータ州の洞窟都市で有名なマテーラに近いポマーリコとモンテスカリオーゾ。ゆえに彼らが話すのはナポリ弁といよりは、もっと最南端の方言かもしれない。

つまりレオは舞台となるファームホテルを、様々な人種の集まるメルティング・ポットにしたかったのだ。さらには、ガーナから移住してきたアブーや共産主義に傾倒していたセルジョも加わり、物語が進むにつれて人種と思想のごった煮感がどんどん増していく。

様々な方言を操り、異なる価値観を持った彼らが一堂に会する状況がここに生まれる。映画のタイトルでそんな彼らを指す一人称複数形の「俺たち」(Noi)は、もしかするとイタリア人全体を指しているのではないだろうか。となると、ジュリアは必然的にイタリアと言い換えることができる。地下に埋められて美しい音楽を奏で、そして最後には掘り起こされて、なんとか皆を助ける奇跡の車だ。エミール・クストリッツァユーゴスラヴィアの比喩として、外界と接触を断たれ地下で武器をつくり続ける『アンダーグラウンド』をつくったが、エドアルド・レオはイタリアの比喩として、人生につまずいた中年男たちと地下に埋められたクラシックカーの話をコメディーで描いた。そう考えてみると、『俺たちとジュリア』のなかに、もう一つの大きな物語が見えてくる。

  

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協賛社の一般社団法人日本ツーリストガイド・アシスタント協会さまが、素敵なオンラインセミナーを企画してくれました! ゼロカルカーレはローマ弁ですね。それもRoma Nord-Estの!

 

「イタリア語翻訳の魅力:漫画家ゼロカルカーレ」

今年の9月にゼロカルカーレ『コバニ・コーリング』の邦訳が出ました。イタリア国内で絶大な人気を誇る漫画家ゼロカルカーレ初の邦訳です。この作品の何が面白いかというと、シリア‐トルコ国境地帯の旅を描いたルポルタージュでありながら、その旅の主人公が、ローマ郊外に住む方言ばりばりの神経質な青年ゼロカルカーレというところです。本セミナーでは、時にイタリア特有の文化的知識がないと理解しがたいゼロの独白をいかに日本語に変換するかという翻訳の難しさと楽しさについて、3人の講演者に語ってもらいます。

特別協力:花伝社

◆日時:11月28日(土)10時~12時 

セミナーは、ZOOMを使用しておこないます。ZOOMIDは、お申込後メールにてお伝えいたします。

セミナー参加費:2,000円(税込)協会会員は無料となります。

セミナー内容

栗原俊秀さんによる『コバニ・コーリング』について(30分・日本語)

野村雅夫さんによる映画『アルマジロの予言』について(30分・日本語)

ジョヴァンニ・ガッロによるイタリア人から見たゼロカルカーレ(30分・イタリア語)

質疑応答、みんなでおしゃべり(20分程度)

 

お申込&お問合せ

メール:info@guidaprimavera.com

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