京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

エドアルド・レオ特集上映 字幕翻訳者が語る『わしら中年犯罪団』

最近は観光ガイドの仕事がなくて、YouTubeばかり見ている。いままで見てこなかった総合格闘家YouTubeチャンネルなどを見ている。これが面白い。めちゃくちゃ面白い。いろんな切り口で面白さを語ることができるのだが、何より格闘技が語学に通じているところが面白い。共通点としては、まず両者ともに日々の鍛錬が必要ということ。来るべき試合(仕事)のために、日々練習をして筋力をつけたり、試合勘を磨いたりしなければならない。スパーリングはさながら語学を用いたフリートークだ。相手が母国語話者となると、おのずとトップレベルの格闘家と一戦交えているような気分になる。そんな考えを巡らせながらYouTubeチャンネルを視聴するのが楽しいのだ。

なかでも感銘を受けたのが朝倉未来とボクシングのWBA世界ライトフライ級スーパー王者の京口紘人がコラボレーションした動画である。総合格闘家の朝倉とボクサーの京口が、ボクシングのルールでスパーリングをする。スパーリング終了後に京口が朝倉のセンスをほめちぎるのだが、こう釘をさしもするのだ。「総合の選手がボクシングのパンチの打ち方を覚えるとマイナスに働くこともあると思う」。同じ格闘技であっても、総合格闘技とボクシングでは、セオリーがまったく違う。関連性はありながらも、ボクシングで学んだことが、そのまま別ジャンルの格闘技に活かせるというわけではない。逆もまた然りである。

このコメントを聞いた私は興奮した。文芸翻訳と字幕翻訳の関係とまったく同じではないか。文字のみで表現する文芸書の翻訳は、原文の細やかなニュアンスや語調、字面を気にしながら、時には訳注もつけながら仕事を進める。ところが次々と映像が流れていく字幕翻訳では、そうはいかない。可能な限り文字数を削って簡潔さを心がける。そこに訳注など入ろうはずもないし、ある程度は手ぶりや話者の口調で理解してもらえることを想定する。だから文芸と字幕では、同じ翻訳であっても完全に別物なのだ。今回の特集上映で久しぶりに字幕翻訳に触れて、それを痛感した。

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『わしら中年犯罪団』のヒロイン役ローマ弁女優サブリーナイレニア・パルトレッリ。現代のアンナ・マニャーニか。

 

特に『わしら中年犯罪団』のような、登場人物の掛け合いが多く、方言や固有名詞や言葉遊びがふんだんに盛り込まれている作品となると、ウルトラC的な技を繰り出さなければならない。その技量がないときはどうすればいいか。少々せこい気もするが、英語字幕を確認するのだ。イタリア語字幕をつける際に使う映像素材には、たいてい英語字幕がすでについている。ウルトラCの技を繰り出せずに悩んでいるときは、ひとまず英語字幕を参考にする。格闘技でも、強敵と戦う前は、相手の過去の試合を見て研究するのが定石だろう。そんなわけで、今回も英語字幕を折に触れ参考にしつつ作業していたら、偶然にも、ウルトラCではなく、この英語訳は反則ではなかろうか……という箇所を発見してしまった。まずは下記の動画で疑惑の場面を確認してほしい。


NON CI RESTA CHE IL CRIMINE - Clip - Tanti auguri a me

 

自宅でひとり寂しく「ハッピーバースデートゥーユー」を歌うサブリーナ。そこに彼女に盗まれた結婚指輪を取り返すため、セバスティアーノがやってくる。まずはご機嫌を取ろうと、誕生日プレゼントとして、彼女にライターを渡す。このライターは、セバスティアーノ含む、現代から1982年にタイムスリップしてきた主人公の中年三人組が、現代で企画していた「マリアーナ団ゆかりの地ツアー」の販促アイテムである。ライターの表面に「ローマを占領」(Pijamoce Roma)の文字がでかでかとプリントされている。これは作中に登場する実在の犯罪組織マリアーナ団のボスが発した名言だ。だが実際には、ボスの名言がプリントされたライターなど、この時代にあるはずがない。うまく読めないサブリーナが「英語かしら?」とたずねると、本当のことが言うに言えないセバスティアーノは、話を合わせて「英語だよ」と答える。

コミカルな場面だが、なんとここの英語字幕が「フランス語かしら?」(French?)となっているのだ。真意はわからないが、おそらくは英語圏の映画鑑賞者を想定して、英語を笑いのネタにするのはまずいという判断で、「英語」を「フランス語」に差し替えたのではないだろうか。イタリア語でははっきりと「英語」(inglese)としゃべっているのに。この反則技は、イタリアとアメリカ、またはイギリスとの関係性をよく表していると思う。配給会社か字幕翻訳者か、誰かが英米に忖度しているのではないか。大金持ちのアメリカ人クライアントを前にもみ手をするイタリア人の姿が脳裏に浮かぶ。それにしても、フランス語にしてみれば、とんだとばっちりだ。

そもそも作品になる前の素材での話なので、実際にアメリカで上映された”All you need is crime”(『わしら中年犯罪団』の英題)で、この訳が採用されているかは知らない。このままだとすれば、何かしらの力が働いた意図的な誤訳、つまり八百長試合と言えるのではないだろうか。今回の字幕翻訳は、純粋に言葉遊びや会話の応酬などでたいへん苦労したが、このような予想外の発見もあった。なんともつらく、楽しい字幕翻訳作業だった。

 

2020年10月30日~11月7日『わしら中年犯罪団』はオンライン上映会で鑑賞できます。

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そしてイベント開催にあたり、難しい状況下でイベントの意義を汲み賛同してくださった協賛社さま、ありがとうございました! 今回は、イタリア産のワインとフードの輸入を手がける日欧商事をご紹介。

 

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