京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

エドアルド・レオ特集上映より 『わしら中年犯罪団』解説

「マリアーナ団にぞっこんさ」

このセリフから始まる予告編からもわかるとおり、主人公モレーノもぞっこんになる実在の犯罪組織マリアーナ団が、本作の大きなテーマです。今回は作中、ましてや字幕だけでは語り切れないマリアーナ団の魅力に迫りたいと思います。これを知っておけば、『わしら中年犯罪団』鑑賞が百倍楽しくなること間違いなし! ややこしいカタカナの固有名詞ばかり出てくるのですが、そこはごめんなさい!

 

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奥さんと別れ慰謝料支払いをめぐって紛糾するモレーノ、愛妻家で間が抜けているけれどどこか憎めないセバスティアーノ、義父の会社でいやいや働く気の弱いジュゼッペ。彼らは小学校からの付き合いで、ことあるごとに集まってはバカをやらかす仲良し中年三人組だ。今回集まったのは、マリアーナ団マニアのモレーノが、小金を稼ぐために、このギャング団ゆかりの地を巡る観光ツアーを企画したためだった。もちろん犯罪集団の犯行現場や元アジトを観光するツアーなど成立するはずもない。ところが、下見で訪れたマリアーナ団のたまり場だったバールの奥に入っていくと、謎の扉が怪しい光を放っているではないか。成り行きのまま扉をくぐると、1982年にタイムスリップしてしまう。サッカーのワールドカップでイタリアが歴史的優勝を果たしたその年は、マリアーナ団の勢力が最も大きかった時期でもある。バールでたむろするマリアーナ団構成員たちと鉢合わせてしまった三人組。危険な目に遭わないうちに、さっさと現代に帰りたがるセバスティアーノとジュゼッペをしり目に、モレーノはここでも金儲けに走るのだった……。

 

現実のマリアーナ団は、1977年頃、ローマ南西の郊外住宅地マリアーナで結成された。「鉛の時代」と呼ばれた当時のイタリアでは、爆破テロや要人の暗殺が横行し、そのいくつかにマリアーナ団が関わっていたことが指摘されている。例えば1980年のボローニャ駅爆破テロ、元首相アルド・モーロ誘拐事件の真相を究明しようとしたジャーナリストのミーノ・ペコレッリの殺害などなど。さらにそれを指示したのが当時の首相ジュリオ・アンドレオッティという説もある。つまり、マリアーナ団はきな臭い時代の未解決事件のカギを握る存在で、今もなお、野次馬根性たくましい現代史好きの興味を刺激し続けているのだ。その意味では、少し強引な比較になるが、日本でいうところの新選組と少し似ている。

かくしてマリアーナ団の関連本やドキュメンタリーは相当な数に上る。なかでも2000年代に入り注目を集めたのが『野良犬たちの掟』(Romanzo criminale)だ。もともとは、当時の事件に詳しい元判事ジャンカルロ・デ・カタルドが2004年に発表した小説で、それが映画化を経て、TVドラマ化されて大成功を収めた。尺が長い分、映画版よりもかなり濃厚なTVドラマ版”Romanzo criminale”は、登場人物が実名ではないものの、忠実にマリアーナ団の魅力を伝えている。そのあらすじを見てみよう。

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TVドラマ版"Romanzo criminale"の主人公3人。右からフレッド(ヴィニーチョ・マルキオーニ)、リバネーゼ(フランチェスコ・モンタナーリ)、ダンディ(アレッサンドロ・ローヤ)

 

マリアーナに住むチンピラのリバネーゼは、色男のダンディほか、地区の仲間たちといっしょに小さな盗みで手に入れた金で、銃を大量購入する。さらなる大金を手に入れるべく、銃を使ってローマの富豪ロセッリーニ伯爵を誘拐するつもりだ。ところが購入した銃を積んだ車が盗難に遭う。盗んだ相手は、別のチンピラ集団を取り仕切るフレッドだ。本来なら大事な車を盗んだ相手など、殴り倒してしまうリバネーゼだが、凄む彼を前に全く動じないフレッドを見て、ただ者ではないと悟り、伯爵の誘拐計画を持ちかけるのだった。

 こうして伯爵の誘拐が実行される。事件が起こった当初、当局は高をくくっていた。必ず失敗に終わる。なぜならローマには、チンピラの小集団がいくつも存在するだけで、これほど大きな犯罪をやり遂げられる統制のとれた組織など、ありえないからだ。それを覆したのが、リバネーゼとフレッドという二人のカリスマだった。決して馴れ合うことはないが互いを認め合う二人は、信頼できる仲間たちとともに、誘拐を遂行し、麻薬売買の元手となる大金を手に入れる。そこからさらにのし上がっていくのだが、あまりにも強大な力を手に入れリバネーゼは何者かによって暗殺され、仲間の密告によりフレッドは国外逃亡を余儀なくされる。彼らの趨勢を横目にボスの座に君臨したのが、リバネーゼの親友だった色男ダンディだ。

このあらすじは、やや脚色されている部分もあるが、事実をかなり忠実に再現している。麻薬の売買に参入する郊外地区のチンピラたちが、ナポリのカモッラやシチリアのマフィアと対等に渡り合う様は、まるで甲子園の強豪校と互角の勝負をする弱小公立高校の野球部といったところだ。

歴史好きから愛される新選組的な要素あり、野球漫画のような成長物語ありのマリアーナ団に情熱を注ぐマニアのひとりが、『わしら中年犯罪団』のモレーノというわけだ。そして1982年にタイムスリップした彼は、マリアーナ団のボスと対面する。その名はレナティーノことエンリコ・デ・ペーディス、”Romanzo criminale”のダンディだ。『わしら中年犯罪団』のなかでは、かなり乱暴なキャラクターとして描かれているが、娼婦の彼女に惚れ込んでいたり、教会に宝を隠していたりという設定は踏襲されており、マリアーナ団マニアの心をしっかりとくすぐるのであった。

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『わしら中年犯罪団』のレナティーノ(エドアルド・レオ)

 

『わしら中年犯罪団』も上映されるエドアルド・レオ特集上映@アップリンク京都の上映時間が公開されました! 一般のお客様のチケット予約も9月30日10時から可能になります。

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そしてイベント開催にあたり、難しい状況下でイベントの意義を汲み賛同してくださった協賛社さま、ありがとうございました! 

 

コンセプトは足元を主役にした大人の遊べるファンタジーシューズ。コーディネートに個性を演出できる新しいフットウェアスタイルを提案します。

 

POLPETTAのルーツはイタリア・パレルモにあります。パレルモから10kmも離れていない場所にMONDELLO(モンデッロ)という素晴らしいビーチがあります。別荘地としても知られるこの場所の時間の流れが大好きで、ここで仲間と靴作りをした経験がPOLPETTAのベースになっています。夏でも湿気のない清々しい空気が全ての色を変えてしまう。大人たちがお洒落をして夜の街に繰り出す。遊び心を忘れないパレルモっ子の気分です。

 

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