京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 11月1日放送分

とある中堅広告代理店の月曜の朝。大事なプレゼン資料作成で会社に泊まり込んでいた、小さな部署の社員たち。部長が出勤してきます。「モーニン! 会社に泊まったの? 若いね〜」なんて言ってます。プレゼンに行かないと。慌てる主人公の女性に、後輩2人が報告します。「僕たち、同じ一週間を繰り返しています」。にわかには信じられないことなんでスルーするのですが、月曜日がやって来るたびに、確かにループしているのかもしれないと主人公も思いはじめて…

 

この映画作りの中心人物はふたり。You Tube短編映画『ハロー!ブランニューワールド』が国内外で5000万回以上再生され、去年の青春映画『14歳の栞』もSNSで話題となってロングヒットした竹林亮監督。同じく『ハロー!ブランニューワールド』で共同脚本を務めた作家・脚本家、ライターの夏生(なつお)さえり。このふたりが組んだストーリーチームTAKE Cの作品という位置づけなんですね。主人公の吉川を円井(まるい)わん、部長をマキタスポーツがそれぞれ演じています。
 
僕は先週金曜日の朝に、TOHOシネマズ二条で鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

ブルーマンデー症候群という考えがありますね。これは1月の第3月曜日を1年で最も憂鬱な日とするもので、とあるイギリス人が打ち出したもの。決して科学的なものではありませんが、それが独り歩きして、なんなら毎週月曜は憂鬱です、となり、日本だとそれがさらに進んで、日曜の夕方、サザエさんの時間から憂鬱です、という、サザエさん症候群なるワードが登場して久しいわけです。この映画は、そんな日本に顕著なマインドセットを利用したタイムループものであり、風刺をきかせたコメディーでもあります。
 
同じ時間を繰り返すタイムループものっていうのは、その原因をどう見せるか、キャラクターがどう自覚するか、そしてどう打破するのかというのが脚本家の腕の見せ所でもあり、矛盾を生じさせないように描くには綿密な計算が必要なことから技術的にも難しいものでしょう。そのうえで、僕が興味深かったのは、繰り返されるのが1週間であるというその単位と、ループ現象に気づいていくキャラクターの順番です。

(C) CHOCOLATE Inc.
朝起きたら、また同じ日になっていたという設定にも、もちろん辛いものがありますが、月曜日に会社で目を覚ましたら、また同じ1週間を繰り返すことになるというのは、社畜なんていうワードが飛び交うほどワーク・ライフ・バランスがうまく取れない日本の労働者にとって、かなりキツイですよね。比較的低予算という作品の台所事情もあっただろうし、登場人物と撮影場所をひとつのオフィスにほぼ限定してしまうのなら、これがベストに効果的という時間の単位でした。なおかつ、お湯をかけたら炭酸の味噌汁になるという珍奇なタブレットを売り出すCMのキャッチコピーを提案しなけりゃいけないという、なかなかに愛着を持ちづらい案件の締め切りまでの1週間です。最悪ですよ。地獄ですよ。土日の休みもそっちのけで取り組んで、やった〜! できた〜!と思ったら、また同じことを繰り返すわけですから。
 
そして、ループを自覚する順番が技ありでした。部長を頂点とするあの小さな部署の若手社員から順番に気づいていくんですよね。主人公の女性、吉川も最初は気づいていなかったところに、若手の男性2人から教えられてもすぐには信じられないまま何周かループしてようやく、きみたちの言っていることはどうやら本当だとなるわけです。この時点でまた面白いのが、若手ふたりは既にこのループをしっかり分析していて、タイムループものにありがちな原因の特定を済ませていること。これがしっかり、このジャンルへのメタ的な批評になっているんですよね。彼らは原因は部長にあると考えている。それを知った吉川は、じゃあすぐに部長に直訴すればいいじゃんとなるわけですが、実行に移してあっさり失敗します。なぜか。日本の組織の特性上、部下の要求や提案を通すには、ひとつ上の上司から、そのまたひとつ上の上司へと、それぞれに許可を得ていかないとボスにまで訴えが届かないことを実感する瞬間です。おいおい、この調子だとあと何回1週間をやらないといけないんだと、さらなる地獄がその口を開けます。ワンランクごとに仲間は増えるけれど、文字通りのラスボスを攻略するのは大変という企業戦士RPGみたいになるわけです。

(C) CHOCOLATE Inc.
サブタイトルにある通り、物語はラスボスたる部長に向けて、巡り巡りながらも突き進んでいくわけですが、たった82分という尺の中に、ゲームのたとえを続けるなら裏面、SIDE-Bが用意されているから、さあ大変です。そのあたりのからくりは劇場で確認いただくとして、これが風刺の効いたブラック・コメディとして機能する理由は、多かれ少なかれ、僕たちひとりひとりだって、判で押したような1週間を過ごした経験をくすぐられたり、組織の歯がゆさや理不尽さ、個人としての力の無さを思い出させられるシニカルな展開やセリフが不意に訪れるように構成されているからです。笑えないけど笑ってしまうというブラック・コメディの特徴を備えています。

(C) CHOCOLATE Inc.
一方で、気になるところもあります。特に後半の部長の秘密が唐突であること。全体の着地がそれでいいのかという曖昧なもので、それまでのシニカルな視点が突き抜けることなく萎えてしまっているから、どうしても鑑賞後のインパクトが弱くなっていること。
 
それでも、TAKE-Cの竹林・夏生コンビのポテンシャルは十分に感じられる1本です。今後、もっと予算もついてくるんじゃないですかね。そこでこのふたりがどんなことをしてくれるのか楽しみになってきたことも収穫となった1本でした。と、はい、ここで9年間毎週続けている映画短評のループがまたひとつ、ぐるりと巡ったことをご報告します。
 
女性たちのラップグループlyrical school。曲の歌詞が物語にリンクする部分もある主題歌です。

さ〜て、次回2022年11月8日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『天間荘の三姉妹』です。映画館で予告を観ていると、誰の目にも明らかなほどにCGが多用された映像が気になっていたんです。大丈夫かしらって。でも、ここんところ死生観について考えさせる作品を何本か扱ったところに、もう1本来たって感じ。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!