京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

映画『天間荘の三姉妹』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 11月8日放送分
映画『天間荘の三姉妹』短評のDJ'sカット版です。

天界と地上の間にある街、三ツ瀬という場所が舞台です。老舗旅館「天間荘」を切り盛りする若女将の天間のぞみ。妹のかなえは、近くの水族館でイルカのトレーナーとして働いています。大女将の母恵子は、家を出た夫を恨み続けています。そんな女性たちのもとに、ある日、小川たまえという若い女性が客としてやって来ます。なんと、のぞみとかなえの腹違いの妹だというんですね。地上では天涯孤独の実だったたまえは、交通事故で臨死状態に陥りました。彼女は天界へ旅立つのか、それとも現世に戻るのか、やがて決断を迫られることになります。

天間荘の三姉妹 スカイハイ 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

漫画家、髙橋ツトムの代表作である『スカイハイ』のスピンオフ作品を実写映画化したもので、監督は北村龍平。脚本は嶋田うれ葉。三姉妹を演じるのは、長女から大島優子門脇麦、そして主役ののん。母親を寺島しのぶ。この4人を中心に、街の人、宿泊客などとして、高良健吾柳葉敏郎中村雅俊三田佳子永瀬正敏、それから柴咲コウなどが出演しています。
 
僕は先週金曜日の朝に、MOVIX京都で鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

原作漫画を読んでいた人や、ドラマ版の『スカイハイ』を観ていた人なら、すんなり入っていける設定なのかも知れませんが、僕みたいな予備知識ゼロの人間が面食らうし、同時にユニークだなと思ったのは、いわゆる死後の世界である三ツ瀬を、特に強調することなく、あくまで現実の日本の田舎町としてそのまんまロケしていることです。僕らの見慣れた景色となんら変わりはない。美しい海を見下ろす立派な老舗旅館ですよ天間荘は。冒頭から、ワンカット風(実際にはヒッチコックが『ロープ』でやったように、人物の背中にカメラが寄った瞬間にショットを切り替えている)のシーンで旅館の中をカメラが動き回ります。メインとなる人物紹介とそれぞれの関係性をサクサク提示してしまうのと同時に、「三ツ瀬は現実とまるで一緒なんです」ということを強調する意味合いもあったのでしょう。ただ、女将のぞみと次女のかなえが玄関で待ち受ける、腹違いの妹、のん演じるたまえが乗るタクシーだけは様子が変です。運転手はマスクにサングラス。助手席の女は黒で固めて浮世離れした雰囲気。車内では、謎の女がたまえに状況を説明します。あなたは現世で交通事故に遭い、現在臨死状態にある。生きるか死ぬかは、今向かっている旅館に滞在している間に落ち着いて考えなさい、とこうなるわけです。そりゃ、たまえも驚くし、ピンときていません。だって、見えている景色は現実そのものなのだから。旅館に着くと、腹違いの自分の姉ふたりに自己紹介されて、これまた面食らいます。だって、現世では会ったこともなかったし、これは明示されていなかったと思いますが、おそらくは存在すら知らなかった姉たちにいきなり出迎えられるわけですから。

(C)2022 髙橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会
かくして、現実とまんま同じなんだけど、実は現実ではない世界での暮らしが始まります。この描写の仕方が本作の演出面での最大の特徴です。もちろん、ずっとそのまんまというわけではなく、それをベースにキタムラ監督はバリエーションをつけていきます。美しいなと思ったのは、たとえば、高良健吾演じる魚屋さんが水揚げされた魚をさばいている場面。お父さんが柳葉敏郎で、ふたりは寡黙に作業を続けるんだけれど、パッとショットが切り替わると、柳葉敏郎の姿がない。なぜなら、彼は現実の世界をまだ生きているから。逆に、現実の世界では、柳葉敏郎は亡くなった息子の遺影の前に、さばいた刺し身を置いている描写が入る。これ、どちらも特にCGや撮り方を変えていないがゆえに、ふたりのいる世界の違いが際立つ名場面です。

(C)2022 髙橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会
ただ、ここで僕はわからなくもなりました。あれ? 息子の遺影があったけど、高良健吾演じる彼は、もう死んでるの? 三ツ瀬の人たちは完全に亡くなっちゃってるわけ? 前提となる設定への疑問が湧いたあたりから、僕はかなり混乱しました。しかも、そこからは、やれ走馬灯だなんだと、使わないのが良いなと思っていたCGがわんさか出てくるようになり、ますますファンタジーとしての設定がわかりづらくなります。
 
この映画、大衆的な感動大作ということをずいぶん意識した売り出しになっていて、別にそれはそれでいいんですが、僕が問題だと思うのは、作り手も間口を広げるためなのかなんなのか、せっかくのファンタジーだというのに、観客に想像する余地を与える隙間なく、最初から最後までとにかくみんながみんなよく喋るのです。心の動きは絶えず言葉で説明され、ちょくちょく言葉は感情に任せて大声となり、劇伴もそのセリフを補強することのみを目的に流されます。せっかく名撮影監督柳島克己さんを迎えているのに、そして名優たちをたくさん迎えているのに、あんなに喋らせなくても、映像と俳優の動きでもっと表現できるはずなんですけどね。そんな中で異彩を放っていたのは、比較的寡黙なキャラ設定だった柳葉敏郎さんと、原作漫画の段階から「当て書き」されていたというのんの存在です。特にのんが演じたたまえの天真爛漫さはのんでなければ演じきれないでしょう。のんだからこそ、現実と三ツ瀬を橋渡しできるというのは説得力がありました。

(C)2022 髙橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会
設定が突飛なだけに、それを実写映画としてあえて現実的に描くという演出のしかけが当初こそあったものの、途中からそれがなんだかよくわからなくなり、大勢がそれぞれの事情を喋れば喋るほど、ディテールはわかっても、肝心の生き死にの決断の理由についてはなぜかよくわからず、さらに三ツ瀬全体の謎が明らかになるくだりも感動的なのに、なぜそうなっているのかはわからず、とにかく説明されればされるほどモヤモヤわからなくなってしまったのが残念でした。話としては『リメンバー・ミー』に通じるメッセージだし、死後の魂の物語としては是枝裕和『ワンダフル・ライフ』に通じる映画のはずなんですが、僕は振り落とされてしまった格好です。
とはいえ、役者はそれぞれ奮闘していたし、さっき触れたように見どころもあったし、主題歌もすばらしかった。

さ〜て、次回2022年11月15日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『チケット・トゥ・パラダイス』です。待ってました、このご両人。ジョージ・クルーニージュリア・ロバーツが元夫婦役ですよ! しかも、自分の子どもの結婚に納得いってなくて、仲違いした夫婦がここでは一致団結するって、どう転んでも面白そうじゃないですか。しかも、バリ島が舞台でリゾート気分も味わえるってことで、楽しみ楽しみ。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!