京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

『8年越しの花嫁 奇跡の実話』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年12月29日放送分
『8年越しの花嫁 奇跡の実話』短評のDJ's カット版です。

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結婚式場のスタッフが撮影したYouTube動画をきっかけに話題となり、2年前、本人たちのペンによって書籍化された実話の映画化です。自動車修理工場で働く尚志と、料理人として働く麻衣。飲み会の席で知り合って急接近した20代の2人は、やがて婚約。しかし、結婚式の3ヶ月前に、麻衣は原因不明の病に倒れ、昏睡状態に。尚志は出勤前に毎朝、片道1時間ほどの距離を原付バイクで移動して病院に通い、彼女の回復を祈る。数年後、麻衣は意識を取り戻すものの、記憶障害が残り、尚志との思い出を忘れてしまっていた…
 
メガホンを取ったのは、瀬々敬久。ピンク映画やテレビのドキュメンタリーを多く手がけてきた作家で、2010年の『ヘヴンズ ストーリー』でキネマ旬報ベストテン3位を獲得するなど芸術的に高い評価を獲得。その手腕を買われ、最近では『ストレイヤーズ・クロニクル』や、このコーナーでも扱った『64-ロクヨン-』など、大型商業映画にも進出しています。

ヘヴンズ ストーリー Blu-ray 64-ロクヨン-後編

主演は佐藤健と土屋太鳳。他に、北村一輝、浜野謙太、中村ゆり堀部圭亮古舘寛治薬師丸ひろ子などが脇を固めています。
 
映画館で予告編を観た時から、正直なところあまり期待はしていませんでした。だいたいタイトルでもう物語の内容はわかるし、「これはきっと感動の押し売りになるんじゃないか」と鼻白んでいました。同様の理由から、観るのを躊躇している人は映画ファンにこそ多いような気がします。結論から言えば、僕の予断は間違いでした。
 
それでは、3分ごしの映画短評、今週もいってみよう!

予告でピンと来ないのは、ある意味当然で、この作品の魅力は、麻衣が病気から回復したという「奇跡」そのものにあるのではなく、むしろ登場人物たちの辛抱強い行動と葛藤の丹念な描写の積み重ねにあるんです。プロセスにこそ味わいがあるので、結果だけを抽出して要約すると、途端に魅力が削がれてしまうわけです。とはいえ、8年もの時間が物語に流れるわけだから、当たり前だけど、省略が必要。このあたりの脚本上の取捨選択が、お見事でした。
 
特に出会いから病の発症、そして昏睡から目を覚ますまで、ひとつひとつのシーンのタイトな尺とキビキビしたつなぎがどれも的確で無駄がない。こんなにあっさりしていていいのかというくらいに、テキパキ進めるんですね。場所も時間も矢継ぎ早に切り替えて、ふたりの体験を積み上げていく。できるだけ色んな場所を見せる。できるだけ移動させる。画面分割とか、早回しとか、こういうリアリズムの映画では使いづらい突飛な手法を取り入れてでもシーンの尺じゃなくてシーンの数を増やしているのは、それが観客にとっても、ふたりの記憶になるからです。身も蓋もない言い方をすれば伏線ですね。そう、実はこの映画化において最も重視されているのは、麻衣の記憶の回復なんですね。
彼女が一命を取り留めることは、もうタイトルの時点でネタバレしてます。そして、この作品には悪役はいません。映画に最大の緊張をもたらすのは、麻衣が尚志の記憶を取り戻せるのかなんです。ここで目を見張るのは、売れっ子の土屋太鳳を本気で病人に仕立て上げる容赦ない演出とそれに応える演技ですね。ずっと眠り姫だったら、それは嘘じゃないですか。顔はむくむし、視点は定まらない。
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そんな麻衣が、家族や尚志の懸命で辛抱強い懸命なサポートによって、身体と脳のリハビリを進めていく。でも、ここも間延びはさせません。丁寧だけれど、尺はタイト。そんな一環として、いきものがかりがテレビで歌っている映像を挟んだのは良かったですね。テロップを入れずとも、ヒット曲でおおよその年、つまり時間経過がわかるし、何より、麻衣が吉岡聖恵の歌を耳にして、無意識に一緒に口ずさむことによって、またひとつ記憶を取り戻していることが伝わる。そう、音楽にはそんな力もあるんだと。
 
ただ、こうしたリハビリはとにかく時間がかかる。その待つしんどさを尚志の仕事仲間や結婚式場のスタッフがうまく浮き彫りにしていました。あいつらがいたから尚志はやっていけた部分もある。サポートのサポートもあるんだ。そんな人間関係の豊かなつながりをさりげなく見せてくれる。
 
こういう蓄積があるからこそ、昏睡状態に入ってしばらくしてからは、どっかで号泣というより、観客の目頭はずっと熱いまんまですよ。僕はね、薬師丸ひろ子演じる麻衣の母親が尚志に「ありがとう」って言った瞬間から、ずっと目が潤いっぱなしでした。

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具体例をひとつ挙げます。後半、麻衣がいくら努力しても尚志のことを思い出せないという展開の中で、普通ならいかにもお涙ちょうだいになるシーンがあるんです。ひとり車を運転する尚志。絶望して泣き出してしまう。凡百な演出なら、尚志の涙を長々と大写しにするところを、この映画の場合、カメラは車の外に出て、夜、ハザードランプを出して路肩に止まっている車をただ見つめる。しばらくすると、ハザードが方向指示器に変わる。それだけ。このスタンスですよ。全体を通して、クロースアップとロングショットの使い分けが絶妙でしたが、それが端的に出ている場面でした。
 
そして、これは実話にはない、尚志の自撮りビデオメッセージですけど、これも使い所がうまかった。どのきっかけで麻衣が気づくのか。そのきっかけたるや! ここはフィクションだけど、さりげないフリが効いていたのと、全体が抑えたトーンだっただけに、一気に感動が花開いて、クライマックスにうまくつながっていく。
 
そして、最終的なメッセージも清々しかったですね。過去の蓄積が人間を作るのは間違いないんだけど、現在もどんどん過去になっていくわけであって、つまりは現在の積み重ねがまた将来の人間関係を形作っていくんだ。そんなテーマが演出ともピタリと重なっていたから、この映画が難病ものとして出色の出来になったんだと思います。
 
この種の作品は首を傾げたくなる安易な演出が多いから、映画ファンほど毛嫌いするわけだけど、感動を呼びやすい、企画として成立しやすいものだからこそ、安っぽくならないようにしたい。実話だからこそ、敬意と節度をもって語りたい。作り手のそんな意気込みが詰まったすばらしい作品でした。

back numberによる主題歌『瞬き』は映画の物語にうまく寄り添っていて、こちらも良かったですよ。昨日28日、FM802 Radio Crazyのステージでは、ライブ初披露してくれました。「この曲とは長いつきあいになりそうです」という清水依与吏くんのMCにも大いに頷いた僕でした。

さ〜て、次回、1月5日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『カンフー・ヨガ』です。ジャッキー・チェンの身体と笑いのキレはいかに!? あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!