京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

『ボス・ベイビー』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2018年3月30日放送分
『ボス・ベイビー』短評のDJ's カット版です。

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優しいお父さんとお母さんの愛情を一身に受けて育てられてきた7歳のティムの元に、ある日弟が誕生。というか、タクシーに乗ってやって来た。しかも、黒いスーツに黒いネクタイ、目にはサングラス、腕には高級腕時計、そして手にはアタッシェケースをぶら下げて。どう考えても、おかしいだろ、こいつ。怪訝そうなティムを尻目に、両親は赤ちゃんに構ってばかり。徐々に苛立ちと疑惑を募らせるティムが調査をしてみると、そいつは何と大人のように話すことができるばかりか、口が悪くて人使いのめっぽう荒い、ボス・ベイビーだった。問いただしてみたところ、ボス・ベイビーには秘密の任務があるのだとか…

カンフー・パンダ (字幕版) シュレック (字幕版)

カンフー・パンダ』や『シュレック』で知られるドリームワークス・アニメーション。2年前に買収されてユニバーサル・グループの一員となって初めての長編アニメーション映画となります。日本での公開がアメリカから丸1年も遅くなった経緯については、リアルサウンド映画部の宇野維正さんの「興行ランキング一刀両断!」3月28日付けの記事に詳しいので、スタジオや配給の裏事情について興味のある方はそちらをどうぞ。

あかちゃん社長がやってきた (講談社の翻訳絵本)

原作はマーラ・フレイジーの絵本『あかちゃん社長がやってきた』で、講談社から翻訳が出ています。監督は「マダガスカル」シリーズのトム・マクグラス。僕は吹替版で鑑賞しましたが、ボス・ベイビームロツヨシ、ティムを芳根京子が、そしてお母さんを乙葉、お父さんをNON STYLE石田彰が演じる他、宮野真守山寺宏一といった豪華声優陣も脇を固めています。
 
それでは、3分の映画短評、今週もそろそろいってみよう!

このコーナーでドリームワークスの作品を扱うのは初めてです。はっきりとした特徴を、スタジオが言葉にしているので、まずはお耳に入れておきましょう。「ディズニーは、子供と、大人の中にある子供心に向けて映画を作るが、ドリームワークスは大人と、子どもの中にある大人心に向けて映画を作る」。これは元々ディズニーの幹部で94年にスピルバーグと一緒にスタジオを設立した1人、ジェフリー・カッツェンバーグの発言なので、余計にディズニーとの差別化が分かりやすいんですが、この『ボス・ベイビー』はなんと、3月21日に公開したところ、プリキュアはもちろん、日本最強のどらえもんも、そしてなんと『リメンバー・ミー』も抜いて、先週末の観客動員1位を獲得しました。すごい。
 
とまあ、この快進撃には驚いたのでお伝えしましたが、さっきの言葉が鍵です。「子供の中にある大人心」を描くのがドリームワークスである。ティムを思い出してください。彼はいつも背伸びした冒険を夢見る男の子ですよね。そして、ボス・ベイビーは、赤ん坊の皮を被った中間管理職です。これはそんなふたりのバディー・ムービーとして展開する。つまり、ドリームワークス的なるものをそのまま形にしたような作品なんです。だから、下ネタもバンバン放り込んでくるし、それは子供には絶対にわからんだろうっていう映画パロディーとかプレスリーのネタとか、特に説明もなく入れてくる。そして、そもそもの設定も下手すると振り落とされる人が出てくるくらいにぶっ飛んでます。あらすじで書いてるサイトもあるくらいなんで、ここまではいいだろうっていう設定部分を補足しますね。
 
天上界には、この世に生まれてくる赤ちゃんは家族向きか経営向きかで分別され、経営向きとされたベイビーたちはそのまま天上界に残り、ベイビー株式会社で赤ん坊の管理が任される。ところが、最近はどうも赤ちゃんよりもワンちゃんの方が人気があるようで、このままでは赤ちゃんが減ってしまう。何とかしなければ。しかも、地上のワンワン株式会社は人間誰しも夢中になってしまうような愛らしくてたまらない犬の新商品を発売するらしく、ボス・ベイビーはその情報を事前に仕入れるための産業スパイとして送り込まれてきた… なんじゃ、その飲み込みにくい設定は!

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ビジネスマンでゴリゴリの合理主義者たるボス・ベイビーは、愛情なんてものに興味はなく、考えているのは出世です。なんなら社畜です。僕も含め、映画館へ行っている人は、赤ん坊なのにスーツという外見のギャップに興味を惹かれているわけで、そのバリエーションとして、赤ん坊なのに社畜っていう内面のギャップでも楽しませてくれる。でもね、その一点張りのゴリ押しかとも観ながら思ってしまったのも事実です。やっぱり設定が突飛すぎるよって思ったし、その割に、お母さんの妊娠の件はどうなってるのかなとか、説明不足が気になって途中で興味がそがれそうにもなっていたんです。だいたい、画作りにしたって、今動員を争っている『リメンバー・ミー』と比べたらかなわないっていうか、同じ土俵ですらない気もします。
 
ところが、ですよ! まさかの逆転満塁ホームランに、油断していた僕の涙腺は久々に決壊しましたね。これはさすがに口が裂けても言えないけど、終盤でそれまでの物語を大きく括弧でくくるような展開が不意にやって来るんです。そこで明らかになるのは、この作品が実はワーク・ライフ・バランスと兄弟を持つ喜びを大真面目にテーマにしたものだということ。実際に兄がいる監督は、「50年分の僕から兄へのラブレター」だと、この作品に個人的な想いを込めたことを明かしてもいるんですね。
 
さんざっぱら、兄弟なんていない方がいいとばかりの流れからのっていう脚本の構成に参ってしまいました。と同時に、これは大人向けだと確信しました。連れてった子供には、表面的なギャップの部分で通り一遍に笑わせておいてください。で、大人はその笑いの後に、本気でジンと来てください。
 
技術的、そして多少の脚本のアラは置いておいて… 愛情は相対的なものではないということ、そして他者を受け入れることで未知の扉が開くこと、さらにはワーク・ライフ・バランスの問題も含め、アメリカもそうですけど、今の日本でも絶対に観られるべきテーマを扱った作品だという意味で、結果的に、僕は強くオススメしたい1本となりました。僕は一人っ子で、何度か兄弟がほしいと思ったことはあるけど、この映画を観て、やっぱりいいもんだなって思えました。

これまで5年間、毎週金曜午後にお送りしてきたFM802 Ciao! MUSICA。枠組みを多少変えながらも、ずっと続けてきた3分間の映画短評におつきあいいただき、ありがとうございました。

 

僕が担当する新番組FM802 Ciao Amici!(月ー木、17ー19時)でも、この短評は継続します。皆さんのおかげです。これからは毎週木曜日17時台、109シネマズDolce Vitaとしてリニューアルはしますが、システムは基本的に同じ。「映画の女神様からのお告げ」も続きますよ。初回4月5日(木)に扱うのは、『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』。まだ先行上映中ということで、少し観るチャンスを選ばせる格好で申し訳ないですが、鑑賞したら、新しくなったハッシュタグ #まちゃお802を付けてのTweetをよろしく!