京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

『来る』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2018年12月13日放送分
映画『来る』短評のDJ's カット版です。

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関西のとある山間の出身で、現在は東京暮らし。絵に描いたような幸せな新婚生活を送る会社員の秀樹。ある日、勤務先にアポなしの来客があり、受付に出向いてみたものの、その姿が見えません。取り次いでくれた後輩は、「用事は知沙さんの件だ」と話していたと言うけれど、それは妻が身ごもっている、まだ秀樹と専業主婦の妻以外は誰も知らないはずの名前でした。その頃から、彼の身の回りでは不可解なできごとが起こるようになります。それでも、家族生活を謳歌しようとする秀樹は、イクメンを自称して育児ブログを開設。日々、その更新に勤しむのですが、2年後、超常現象に恐れをなした彼は、親友の民俗学者に相談し、オカルト系のライター野崎を訪問。紹介してもらったのは、霊媒師の血を引くというキャバ嬢の真琴。調査してもらったところ、秀樹に取り憑いている「何か」は、想像を絶するほど強大な力を持っていることがわかる。

ぼぎわんが、来る (角川ホラー文庫) 

原作は、第22回ホラー小説大賞をデビュー作で獲得した、沢村伊智の『ぼぎわんが、来る』。監督は、『告白』や『渇き』で知られる中島哲也。企画とプロデュースは、東宝のヒットメーカー川村元気。会社員秀樹を妻夫木聡、その妻を黒木華、オカルト系のライター野崎を岡田准一が演じる他、小松菜奈松たか子柴田理恵伊集院光などが強い存在感を示しています。
 
それでは、制限時間3分の映画短評、今週もそろそろいってみよう!

先にホラー映画苦手な人に伝えておきます。全然大丈夫です。突然大きな音がしたり、画面に恐ろしいものが大写しになったりということは、ないわけではないですが、そのシーンでひっくり返って「もうやだ!」みたいなお化け屋敷的怖さを心配している人は、とりあえず杞憂です。むしろ、この映画はお化けやもののけよりも、人間の闇を描こうとしていて、僕はそこにこそこの作品が原作から化けきれていない理由がるとみています。
 
全体は3幕構成で、プロローグとエピローグがそれぞれ付きます。プロローグは、秀樹がまだ結婚前の妻を紹介がてら実家の法要に連れてくるというくだり。そこで示されるのは、かつて彼が小さな子どもだった頃、仲の良かった女の子が行方不明になったこと。その子から、彼は山の中に誘われ、そこで嘘つき呼ばわりされたこと。僕らは、その女の子が、やがて「来る」「何か」と密接に関わるのだろうと考えることになります。ホームページのあらすじにもあるように、その「何か」は声や姿形を自在に変えるらしいので、あるいはその女の子も、何かの化身なのか、それとも、何かの元凶なのか。どうしたって、想像してしまいますね。ところが、そのシーンで描かれるメインは、どちらかというと、金田一耕助的な、田舎の閉鎖的でこじれた人間関係や価値観に辟易する秀樹の彼女と、それを笑ってスルーする秀樹の姿。つまり、人間の醜態なんです。
 
で、1幕では秀樹が結婚して娘を授かり、2歳を迎えるまでの様子を彼よりの視点で見せるんですが、ここでも、超常現象は起こるものの、そしてそれは確かに不気味なものの、もっと印象が強いのは、秀樹という人間の醜悪さです。このあたり、中島監督の『乾き』でもそうでしたけど、妻夫木聡は好演してます。さらに、彼の周りにも、まあろくなやついねえなっていう、人間の表裏をまざまざと見せつける、現実版魑魅魍魎の世界。そうこうするうち、ある決定的な出来事がおこり、2幕では視点が別の人物に移りつつ、それまで脇役に見えた人をグイグイ巻き込みながら、3幕で大団円へとなだれ込む。

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当然、最終的にはその何かと対決ってことになるんだけど、原作はホラー小説なので、賞をもらってるぐらいだから、その何かについては源泉を遡るわけですよ。ところが、映画はですね、ものすごく予算をかけた対決シーンをお膳立てするのはするんですが、結構多くの人がポカンとする着地になっているんですね。もやもやする。すっきりしない。そういう声は僕の周りでも聞きました。そして、エピローグで美しいし悪くないんだけど、もうひとつ根拠の弱い着地をしてみせます。なんでこうなったんだろう。
 
監督のオフィシャルのインタビューに、こういう趣旨の発言があります。映画化のきっかけについて。「原作の登場人物が面白かったことに尽きる。ホラー映画を作ったんだという感覚は、正直自分にはあんまりない」。なるほど〜。これで合点がいきました。監督は、ホラー的な味付けこそすれど、ホラー映画にするつもりはない。対して、製作側としては、宣伝を見ればわかる通り、クリスマスに上映するホラーを狙っている。これは明らかに監督とプロデュース側のミスマッチかすり合わせ不足だと言わざるを得ないです。
 
監督のやりたかったテーマは、こういうことでしょう。昔も今も、子供たちがいかに大人たちからぞんざいにあつかわれているのか。その証拠に、それぞれの登場人物に、何かしら子供に対する原作上の強い負い目を与えています。それ自体は悪くないんですよ。虐待、育児放棄、また家族を支える社会の不寛容や無関心を描いた部分はそれなりに評価していますが、それをやりたいなら、はっきり言ってこの企画でなくてもいい。たとえは古いけど、どいつもこいつも笑うセールスマンにどーーーーーん!なんて喰らうっていうブラックユーモアでも成立するじゃないですか、お化け出さなくても。 

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結果として、ホラー部分がどうしても副次的に見えてしまうし、作品としてホラー演出に落とし前がつけられなくなった、いびつな作品になっていると僕は考えています。
 
ただ、見どころ、笑いどころ、考えどころ、痛々しさ、など、いいシーンもたくさんあるので、あなたもどうぞ、劇場でご確認ください。僕は原作を読みたくなりました。
放送では、挿入歌となっていたButterfly / 木村カエラをオンエア。この曲がかかっていたシーンも含め、CM出身の中島監督は、あの手のキラキラしているけれど、それが虚飾に満ちているのだと感じさせる描写が特にうまいです。そして、とにかく岡田准一のカッコ良さよ。僕は好きなんですよ、岡田さん。今回はビビりまくる演技という新しい側面も拝むことができて眼福でした。


さ〜て、次回、12月20日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『グリンチ』です。「クリスマスなんて大嫌い」な彼が、最後にはクレイジーケンバンドばりに「なんちゃって」と言えるのか、チェックしてきます。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!