京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『疾風ロンド』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年12月2日放送分

『疾風ロンド』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20161208005819j:plain

大学の研究所から盗み出された違法な生物兵器K-55。犯人は研究員で、国民を危険に晒したくなければ3億円を用意しろという要求を所長にするものの、あえなく交通事故死。K-55の存在を世間に知られたくない所長は、研究主任の栗林に秘密裏の回収を指示するのだが、犯人がK-55を隠したのは、日本最大級のスキー場だった。

白銀ジャック (実業之日本社文庫) 雪煙チェイス (実業之日本社文庫)

スキー場を舞台にした東野圭吾のシリーズ2作目を単発の作品としてコミカルに映画化。監督・脚本は、あまちゃんサラリーマンNEOの演出で知られる吉田照幸。栗林研究主任を阿部寛、パトロール隊員には関ジャニ∞大倉忠義スノーボードの選手で捜索に協力する女性を大島優子。他に、ムロツヨシ柄本明生瀬勝久など個性派俳優が参加しています。
 
それでは、いつものように3分間の短評、いってみよう。

最近、似たような設定の映画をこのコーナーで扱いましたね。生物兵器がどこかに隠される。犯人は映画の冒頭で死亡する。主人公は降って湧いた災難に巻き込まれる形で必死に兵器を捜索する。そう、『インフェルノ』です。そういう骨格は似ているけれど、アプローチはまったく違う。『インフェルノ』が、シリアスなムードで緊迫感を持って演出していたのに対して(人類がどっさり死んじゃうっていうんだから当たり前ですけど)、この作品はコミカル時々人情噺。『インフェルノ』が予算をふんだんに使って世界遺産ロケを敢行する観光映画で、ラングドン教授が切れ者だったのに対し、こちらは場所はほぼ野沢温泉です。ほぼ動きません。そして、主人公栗林はもともとしがないという枕詞を付けたくなるような中間管理職の研究者だから、推理も何もなくて行き当たりばったりの素人探偵。こういう違いを踏まえて、吉田監督がテレビで培った演出術をベースに脚本も手がけて笑いを取りにいったということはわかるんです。コメディーに思いっきり振るっていうこと自体は、僕も悪くないと思うんです。

インフェルノ(上) (角川文庫)

ただですね、今回ばかりは吉田さんの手腕がうまく機能しているとはとても言えないんです。まず原作からの改変で恐らく最も大きなものは主人公をすげ替えたということですね。原作ではパトロール隊員の大倉忠義スノーボーダー大島優子のバディーものシリーズであって、東野圭吾作品によく登場する「うだつの上がらない男、栗林」が主役ではない。ところが今回は単発での映画化だから、思い切って、目指すコメディー要素の強い栗林を格上げして、あくまで彼を軸にお話を再構成した。これも、実は悪くないと思うんです。
 
僕が問題として指摘しておきたいのは、「だったら、それに合わせて、全体をもっと剪定しなきゃ」ってこと。今振り返ると、K-55の騒動を幹にして、色んな話が同時進行するんですね。栗林と息子、シングルファーザーと反抗期の息子のぎくしゃく。スキー場地元中学校のインフルエンザに端を発する噂と娘を亡くしたヒュッテのおかみさん。パトロール隊員とボーダー、オリンピックという夢と恋の行方。もうね、要素が多すぎる! 要素が多いと映像だけで説明しきれなくなって、登場人物はみんな思ってることを全部言葉にして説明してしまう。つまり、映画的な喜びが大きく減退してしまう。
 
もう、みんな、とりあえず炭疽菌をちゃんと探して! この辺りのエピソードを整理してスリム化しておかないから、話が脱線ばかりしてしまう。ちゃんとゲレンデにいて! お話のシュプールをきれいに描いて!
 
お話がツギハギでシーン同士がスムーズに有機的につながって見えないのは、もうひとつ演出的な理由があります。それは、笑いです。吉田監督の得意分野なんだけど、作りがコントなんですよね。シーンごとに笑いを構成しているから、通してみると、テレビみたくコント集みたいになっちゃう。せっかくこれだけの役者を呼んできてるのに、そこはもったいない。キャスティングもね、もちろん悪くないんだけど、あえて言うと、阿部寛ムロツヨシを筆頭に、みんなそれっぽいことをスクリーンでする。はまり役すぎると突き抜けないんだなってことを再確認する結果となりました。
 
もう、ひとつひとつのエピソードのほころびは言うまい。なんで偽造パスポートなんだよ! とか、これは『インフェルノ』もそうだったけど、犯人の動機づけが弱くないか? とか、言うまい。
 
とまあ、なんだかんだ厳しく分析してしまいましたが、観終わった後にはしっかりスキーがしたくなってスキー板をスマホで調べて選び始めるぐらいにはテンションが上がったことは付け加えておきます。
 
☆☆☆
 
あの中学生の行動はギョッとしてしまいました。思っただけでもダメだろって僕は審判を下してしまいましたよ。

疾風ロンド (実業之日本社文庫)

栗林は確かにうだつが上がらないけど、いい父親なんじゃないでしょうか。ていうか、人情噺を作るために原作から改変してシングルファーザーってことにしないで。お母さんを殺さないで!


さ〜て、次回、12月9日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様から授かったお告げ」は、『マダム・フローレンス! 夢みるふたり』です。あなたも鑑賞したら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年11月25日放送分

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20161201213745j:plain

あの「ハリー・ポッター」シリーズのおよそ70年前、ロンドンではなく、1920年代のニューヨークを舞台にした新シリーズ。ハリポタからファンタビへ。時代は遡り、物語も子ども向けというより大人向けになりました。そして、初めて原作が未発売のまま映画が公開されるという流れ、なおかつJ・K・ローリングが脚本にもがっつり参加しています。

幻の動物とその生息地(静山社ペガサス文庫) (ハリー・ポッター) ハリー・ポッターと賢者の石 (吹替版)

90年代にハリー・ポッターが使うことになるホグワーツ魔法魔術学校の教科書『幻の動物とその生息地』を編纂した魔法動物学者ニュート・スキャマンダーの冒険譚。この第一作を皮切りにした5部作になることが発表されています。監督はハリポタシリーズでもおなじみのデヴィッド・イェーツ。主役は、オスカー俳優エディ・レッドメイン
 
アメリカではもちろん公開初週から首位。日本でも上位に食い込むでしょう。一昨日の公開初日、初回を109シネマズ大阪エキスポシティIMAX3Dで鑑賞してきました。妙ちきりんな魔法動物がたくさん出てきますから、3D効果もプラスアルファとして楽しめましたよ。

ポケモンGOを思い出さずにはいられない魔法動物の数々。1920年代のニューヨークという舞台設定の妙。そして、役者たちの名演技。以上の3点を根拠に、僕はこのファンタビ1作目を高めに評価しています。正直なところ、期待を越えてきました。

 

まず、魔法動物たちの魅力。ポケモンGOしかり、ドラクエしかり、ジブリしかり、成功しているファンタジーに登場する生き物たちの共通点って、バランスがうまいってことだと思うんです。地球上にいそうでいない。「なんじゃこりゃ。見たことない」ではダメなんですよ。魔法使いたちも、魔法が使える以外はほとんど人間と一緒じゃないですか。動物たちも、奇想天外な能力が備わってるけど、それ以外は、「あ、こんなのいるかも〜」だけど、実際にはいないというバランスになってる。世界中の妖怪、もののけの類、そして実在する動植物のリサーチを徹底的にしたからこそ生まれる「ファンタジックなリアリティ」が上出来。

 

たとえば、最初にニュートのトランクから脱走するニフラー。あの、モグラとカモノハシを足して2で割ったみたいなやつ。手に負えないいたずらっ子だけど、かわいいじゃないですか。「そのちっぽけなお腹は4次元ポケットか!」ってくらいにお金やら光り物やら集めていく様子なんて思わず笑っちゃう。「こいつ、そんな虫を食べるんかい〜!」っていう意外性のあるビーストもいましたね。あの害虫をスローモーションでスクリーンにわざわざ映し出すっていうバカっぽさ、笑うわ〜。こうした愛着が観客ごとに湧いて、それぞれの推しキャラが生まれてくるという理想的な展開ですね。

 

これまでのハリポタと大きく違うのは、現実世界と魔法世界をはっきり分けるんではなくて、魔法動物も動物も魔法使いも普通の人間(ヨーロッパではマグル、アメリカではノーマジと呼ばれている)も、交錯してしまうというんです。表と裏でなく、表裏一体なんです。そこで、1920年代のニューヨークという設定が効いてくる。第一次大戦が終わって好景気。自由の女神がそびえる港には、世界のあちこちから移民がやって来る。今回のノーマジの重要な人物コワルスキーもそうですね。今につながる消費主義社会の幕開け。良くも悪くもです。アメリカンドリームと言えば聞こえはいいけれど、格差も生まれる。人種が入り混じって、極端なレイシズムファシズムが出てくる。禁酒法のような大衆の締め付けが闇社会を肥やした。
 
優れたファンタジーは、必ず現実のメタファーとして機能します。ファンタビが大人向けだと言われるのは、登場人物が大人だからってことじゃなくて、人間の現代史と魔法使いの物語をミックスさせることで、よりこのメタファー、置き換えがはっきりしているから、読み解きがいがあるからだと思います。
 
最後に、役者陣の演技。エディ・レッドメインのニュートははまり役ですね。20年代のファッションが似合うし、知性はずば抜けてるけど、うっかり屋さん。特にあの姿勢ね。傾いてるでしょ。伏し目がち。自信がないんだよね。コミュニケーションが下手。オタクっぽい。この性格はむしろ現代的なんですよ。ただ、僕がもっと気に入ったのは、コワルスキーです。コメディアンのダン・フォグラー、間違いなく出世作でしょう。基本的にどんくさい太っちょ。コメディ要素を彼が一手に引き受けていて、しかも、ラストなんてこの上なくチャーミング。苦くて甘い。彼だけがノンマジ、普通の人でしょ? 彼のリアクションがうまくないと、物語が締まらないんですよ。ダン・フォグラーは、その点、最高でした。
 
ハリポタ弱者でも入りやすく、この作品単体でも一応完結させ、なおかつ次作以降へのフリもしっかり入れる。こんな難解な方程式をよく解いたよ。さすがはJ.K.ローリング。
 
ただ、なんじゃそりゃ~っていうツッコミどころ、ほころびもあるっちゃある。まず、「ニュート、とにかくお前のせいだかんな〜!」ってくらいに、スキャマンダーのうっかり具合にも程がある。もうトランクから目を話すな! ブレンドしてる分、現実と魔法世界の区別が、わりとわかりにくい。クライマックスのあいつの不気味な姿がアメコミっぽい既視感。魔法世界の死刑システムが謎。この辺は、変に今っぽくて浮いちゃってる。そして、これが一番!
 
物語的に都合の良すぎる魔法がある。僕はね、人間の記憶をなかったことにする忘れ薬的なオブリビエイトはまだいいと思ってるんだけど、レパロっていう壊れたものを建物から車から何でも直す魔法については、何回か劇場でつぶやきましたね。「それがありだったらさ〜」。あと、どこまで直るのかよくわかんないんだよ。
 
でも、とにかく、早くも次作が楽しみなシリーズの始まり。トランプが大統領になり、世界各地で排他主義が幅を利かせる中、異なる者同士が共存する社会のメタファーとしてファンタビが展開されるのか、それともそんなのは理想だとハリポタ同様にダークな方向に流れていくのか、いずれにしても今から楽しみです。

さ〜て、次回、12月2日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様から授かったお告げ」は、『疾風ロンド』です。最近、邦画コメディーであまりちゃんと笑えてないんだけど、大丈夫か? スベっているのはゲレンデだけにしてくれと願いつつ、あなたも鑑賞したら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年11月18日放送分
『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20161118223026j:plain

作家リー・チャイルドが1997年からスタートさせた原作シリーズ。かつてアメリカ陸軍の憲兵隊(軍の警察です)捜査官だったが、今は軍を離れて一匹狼の流れ者となっている男、ジャック・リーチャーを主人公に、これまで19年間で21冊出版されてロングヒット。『ミッション・インポッシブル』という人気シリーズと並行して進める新シリーズとして、トム・クルーズが製作も務め、2012年に邦題『アウトロー』が映画化。今作はその2本目です。

新装版 キリング・フロアー 上 (講談社文庫) 61時間(上) (講談社文庫) アウトロー (字幕版)

今回のリーチャーは、陸軍内部調査部という、自分の古巣の女性少佐ターナーが、見に覚えのない罪を着せられて逮捕されたことを知ります。彼女を救い出して真相を探ろうとするものの、リーチャーが過去に関係を持った女性が産んだという15歳の娘が加わり、3人は疑似家族状態で軍の闇を暴くために追いつ追われつ…
 
主演はもちろんトム・クルーズ、54歳。そして、監督・脚本は前回のクリストファー・マッカリーから、『ラスト・サムライ』のエドワード・ズウィックへと交代しています。
 
今週も109シネマズ大阪エキスポシティのIMAX次世代レーザーで鑑賞してきました。このシリーズは、とにかくトム・クルーズを鑑賞するためのものでもあるので、より大画面でトムの飾らない魅力、そして今作であれば全力疾走をIMAXで堪能ください。
 
それでは、いつものように3分間の短評、いってみよう。

観に行ったその日に802で何人かのスタッフから感想を聞かれたんです。「結構楽しめたよ。僕は『アウトロー』がかなり好きだったんで、満足満足。1本目との関係はほぼないし、今回はより一般受けする作りにしてるんじゃないかな」みたいなことを言ったんですね。ただ、そこから記憶をたどって、気になったことをメモして頭の中を整理していくと、あのフレッシュな状態での感想、トム・クルーズ堪能仕立てホヤホヤの僕の感想が、評価のピークでしたね。今となっては、製作の間違いと言わざるをえない点がそこそこ引っかかってくるということが判明いたしましたので、今日はその思考の流れも含めてご報告です。
 
アウトロー』の時は、トム・クルーズが「ミッション・インポッシブル」のイーサン・ハントとまったく違うアプローチで、同じく超人ではあるんだけど、年齢を重ねたスターならではの簡単に言えば渋みを強みとするようなシリーズにしたいんだなっていう方向性が極めてはっきりしてました。マッカリー監督は『ミッション・インポッシブル ローグ・ネーション』も手がけているがゆえに、違いはもう鮮明で、ジャック・リーチャーの場合は70年代アクション映画風の、もっと言うと様式としては西部劇風の、古式ゆかしい演出を蘇らせていました。ただ、それはつまりまったくもって2010年代の映画的流行とは相容れなかったがために、興行的にはそこまで奮わなかったですけど、「俺達はこれがやりたいんだよ。俺達はこれがかっこいいと思ってんだよ」っていうのが伝わってきたから、その気概も込みで好きな作品でした。

ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション [DVD] ラスト サムライ (字幕版)

それだけに、今回はマッカリーからエドワード・ズウィックへの交代が心配だったし、その心配通り、2作目にして路線変更しすぎだよな、となってます。
 
予告にも出てるオープニングは最高でした。テキサスのしけたダイナー。表には男たちがバタバタ倒れてる。そこに警察到着。リーチャーは逮捕されかけるんだけど、「90秒後にそこの電話が鳴る。そしてお前は逮捕される」っていう逆転劇が起こる。かっけー!!! よ、待ってました。
 
おかえリーチャー!!
 
となるんですが… そこから、リーチャーは今回のヒロイン、電話でしか話したことのないターナー少佐に会いにワシントンまでヒッチハイクでのこのこ出かけていくんですね。しかも、あろうことか、「恋」してるムードなんですよ。この違和感!
 
リーチャーは女にあっさり恋するタイプじゃないんですよ。お前はどの面下げてノコノコ会いに行ってんだ! そもそも、リーチャーは携帯電話を持たないから、何度も公衆電話から誘い文句のラブコール。前作からの彼らしい時代遅れ感と良いテンポ感にごまかされてたけど、リーチャーは一匹狼で女にすりよったりしないの!
 
しかも、行ってみたら、そのターナーが逮捕されたと。おかしいなってことで独自に調査を始めようとしたら、向こうの弁護士から「リーチャー、あんた、娘がいるぞ」みたいなことになって、隠し子疑惑にちょいとうろたえるっていう。うわ、ますますリーチャーっぽくない。

f:id:djmasao:20161118224122j:plain

アウトロー』の時のロザムンド・パイクみたいな(↑)、ヒロインと付かず離れずじゃなくて、今回はずっと一緒。しかも、小娘までひっついてくる。さらに、これ大事な要素ですよ。推理と捜査に基づく解決じゃなくて、何から何まで「たまたま、偶然」ばかり。
 
あれだけ嫌っていたスマホをあっさり手にしてしまっている。カット割りのせいか編集のせいか、何度かアクションシーンで「今何が起こったの?」ってな具合によくわからないことがある。敵もリーチャーも何度か迂闊すぎるミスをするのが解せない。
 
しかも、絵作りとか編集の演出アプローチもかなり変わっちゃった結果、この「ネバーゴーバック」は2000年代の普通の映画になってるんです。ネットカフェで検索したら組織から逆探知されたとか、ジェームズ・ボーンか! クライマックスのハロウィンパレードって、あれは「007 スペクター」のオープニングか! このシリーズにそんなの求めてないから。何を他のシリーズに似せに行ってるんだと。
 
インタビューを読んでたら、エドワード・ズウィックはリーチャーの意外性を出してみたかったみたいなこと言っていて、意図はわかるけど、それって、シリーズ5作目くらいですることじゃないんですかね? 確かに原作もそうなってるんだろうけど、原作シリーズでは、これが18冊目だから、映画の2本目としてこれを選ぶこと自体が、僕はどうだったのかなと思います。そして、さっきも言ったように、脚本にいくらなんでもアラがありすぎでした。最後の一騎打ちなんて、もはやただの場外乱闘にしか見えないですよ、あれじゃ。アメリカでも日本でも結構評判悪いです。
 
だが、しかし、僕は嫌いではない。むしろ、かばいたくもある。このシリーズ、30年にわたってハリウッドの第一線を走り続けている彼自身超人と言える男トム・クルーズのしわもむくみもむき出しの魅力を味わえるのが最大の魅力だと思うんです。それは達成してますから。
 
もちろん、いいところもあるし、普通の映画になってるけど、まあ、普通におもしろいです。なんなら、ツッコミながら見てください。60代のトムが演じるイーサン・ハントより、ジャック・リーチャーが見たいんです、僕は。僕はマッカリーで3作目が観たいんだ! シリーズを続けさせてくれ〜
 
☆追記☆
 
で、マッカリーは何をやってんだよと思って調べてみたら、宇宙戦艦ヤマトの実写版を作ってました。いいよ、ヤマトは。リーチャーの演出に次回はカムバック、いや、ゴーバックしてほしいところです。

さ〜て、次回、11月25日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「またまた新しい映画の女神あおいさんから授かったお告げ」は、『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』です。「ハリー・ポッター」に正直なところ疎い僕でもついていけるのか!? 23日(水)公開なので気をつけてくださいね。鑑賞したら、あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく!
 

『ボクの妻と結婚してください。』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年11月11日放送分
『ボクの妻と結婚してください。』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20161111220541j:plain

引きのあるタイトルで話題となった放送作家樋口卓治の同名小説が原作。ウッチャンナンチャン内村光良主演で舞台化、テレビドラマ化されていた物語を、今回は織田裕二を主演に迎えて映画化。監督は、関西テレビの社員にして2011年の『阪急電車 片道15分の奇跡』で初メガホンを取った三宅喜重

ボクの妻と結婚してください。 (講談社文庫) ボクの妻と結婚してください。DVD-BOX

末期のガンで余命半年と宣告されたバラエティー番組の放送作家、三村修治。世の中のできごと・現象を「楽しい」に変えてきた自分の職業経験を活かし、やがて残されることになる家族を想った結果、自分の代わりに愛する妻と息子を支えてくれる新しい夫・父を選ぶことはできないかと動き始めるのだが…
 
修治の妻を吉田羊、修治が見込んだ男を原田泰造が演じています。
 
109シネマズ大阪エキスポシティで月曜日の夜に観てきましたよ。清潔感のある劇場、スクリーンで気持ち良く鑑賞。若いカップルが多かった印象ですが、とにかく泣きっぱなしの人もいました。すすり泣きが漏れ聞こえる中、僕がどんな風に映画を観たのか、それでは、いつものように3分間の短評、いってみよう。

小説、芝居、テレビドラマとかえすがえす語られているわけなので当然ながら魅力があるわけだし、物語そのものを僕がとやかく言うつもりはないんですが、結論から言えば、少なくとも1本の映画としては僕は感心しなかったので、今回はその理由を脚本と演出に絞って説明しますね。
 
文庫で288ページあるし、ドラマでもNHKで6回やってるんで、エピソードには事欠かないはずですね。オリジナル要素を入れるというよりは削っているんでしょう。尺は114分。今思い返してみても、ストーリーは脇道にそれたりすることなく進むんです。無駄はないはずなのに、僕にはとても長く感じられました。事前に読んでいた粗筋から想像できることしか起こらないからです。
 
スタートはこんなシーンでした。スイカの表面、緑の皮と白い部分が大工道具のカンナでみるみる削られて、赤い玉に様変わりしたスイカに女の子が「夢のようだ」とカブリつく。これ、修治の考えたおもしろ企画がバラエティー番組でオンエアされているのを妻と息子が家のテレビで見てるってことなんですけど、こういう放送作家ならではの発想の転換とかウィット、ユーモアをもっと見たかったんですよ、僕は。だって、最大の思いつきはタイトルで言っちゃってるし、未来の夫探しの方法も、まあ想定の範囲内だから、こちらの興味を引っ張っていってくれないんです。
 
特に前半はコメディータッチなんだけど、「タッチ」であるだけで、脚本上のヒネリ、つまりできる放送作家ならではのエピソードがひとつもなくて、むしろ、いい人、いや、人懐っこい人ってことが強調されてるんですね。その弊害として、彼がむしろ、ちょっとどん臭い人にすら見えてしまってるんです。ミス、多すぎませんか、一世一代の企画で。キャリア20年の凄みが見えてこないのは残念でした。
 
あと、エピソードの選択という意味で納得のいかなかったのは、恐らくは夫婦の絆を描きたかったからだろう、若き日のとある苦境ですね。極貧生活を経験していたようなんだけど、息子の年齢から逆算すると、10年経ってないんですよ。どうやって今のハイクオリティーな生活に至ったんですかね? あの後、一切示されないから、すごい気になりました。それ入れるんだったら、きっと面白いに違いない夫婦の苦労話を、ハイライト形式でもいいから見せて欲しかったなあ。
 
生活の話になりましたけど、修治が劇中で結婚生活のすばらしさを説くところがあります。結婚は理想じゃない。生活という現実なんだ、みたいな。ここから演出の問題点ですけど、修治の考えの真逆になってる気がするんです。はっきり言って、生活が描けてません。モデルルームみたいなマンション。ものないなぁ。家具少ないなあ。どう見ても作りものなんです。
 
夫婦が大げんかをする場面を思い出してください。あんなことになってるのに、息子はどこにいるんですか? 寝てても起きるでしょ? 僕なら、絶対に息子が自分の部屋で怯えながら布団にくるまるか、ドアに耳を当てているカットを挟みますけどね。
 
要は、リアリティを出そうという意図がないんです。修治もなんか痩せないし、やつれないし。これは寓話だからファンタジックに描いているって擁護することもできないと思うんです。それならそれで、もっと驚く映像的仕掛けを入れるでしょ。ないです。
 
むしろ、すべてを絵で説明してます。これは脚本演出双方の問題ですが、1から10を通り越して、15くらいまで全部口で喋る。そこに書いてあることすら、読み上げる。だから、映像が言葉に支配されちゃってるんですよ。ラジオドラマじゃないんだから。
 
そして、絵づくりもコメディー演出も、セットもロケ地選びも、そこはかとなくトレンディドラマとまではいかないけど、一昔前のドラマ風なんですよ。そういう意味ではファンタジックではありましたけどね。
 
その結果として、そもそもの夫婦愛のあり方そのものが、はっきり言って、今時どうなんだっていう、何だか古めかしいものにも見えてしまっているのが失点だと思います。
 
終盤でいかにも美談な脚本上のどんでん返しがあるんだけど、あれも「やさしい嘘」というより、「見ていてやるせなくなる嘘」でした。あれじゃ、どこまで行っても修治のひとりよがりに周りが付き合わされてるという解釈だって成り立っちゃうんですよ。
 
命は重いテーマですよね。笑いでくるむなら、『ライフ・イズ・ビューティフル』という傑作があるので勉強してほしいなあ。あと、リアリティー演出だと、日本にも『愛妻物語』とか、スゴいのがあります。

ライフ・イズ・ビューティフル(字幕版) 愛妻物語 [DVD]

かなり辛い評論になりましたが、ぜひご覧いただいて、真偽の程をあなたも確かめてください。同じ純愛テーマで『湯を沸かすほどの熱い愛』と見比べるのもいいでしょう。109シネマズへ観に行こう!
 
☆追記☆
 
これは僕の好みの問題ですけど、大声で誰かを呼び止めて振り返らせて大事なセリフを言う、みたいな演出が昔から見てられないんです。これまで主に日本のドラマで何度繰り返されてきたことか。今回だとビルを出てきた原田泰造織田裕二が呼び止めますね。そこでまさかのセリフでした。
 
「僕は死にます!!!」
 
いやいやいや、武田鉄矢じゃないんだから。しかも、そんなとんでもないことをオフィスビルで言ってる割には、後ろの方に映ってるエキストラの視線をこちらに向けることもしないんだよなぁ…
 
とまあ、とにかく今回は本当にキツめの評でした。ラジオでは話しませんでしたが、今年の春、身内に似たようなことが実はありまして、もちろんこういうのって千差万別だってことはわかるんだけど、とにかくこの映画みたいに甘いもんじゃないだろってまず感じたのが率直なところ。「これって美談じゃないですか?」っていう見せ方が辛かったです。

さ〜て、次回、11月18日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「新しい映画の女神メイミさんから授かったお告げ」は、『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』です。4DXにするか、IMAXにするか、マジ迷い中。鑑賞したら、あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

『インフェルノ』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年11月4日放送分
『インフェルノ』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20161106131848j:plain

ダン・ブラウンの原作を映画化した2006年の『ダ・ヴィンチ・コード』、2009年の『天使と悪魔』に続く、壇蜜が定義するところの「インテリ版ダイ・ハード」、トム・ハンクス演じるラングドン教授シリーズの第3弾。ラングドンは、アメリカの大富豪にして生化学者のゾブリストから挑戦状を突きつけられます。地球規模の人口増加問題を解決する手段として彼が生み出した人口を半減させるウィルス。そのありかが、イタリアの詩人ダンテの叙事詩『新曲』地獄篇インフェルノをモチーフにしたボッティチェリの絵画に隠された暗号によって示される。フィレンツェヴェネツィアイスタンブールの3都市を巡るうち、ラングドン教授は予想だにしない真実を知ることになる。

ダ・ヴィンチ・コード (字幕版) 天使と悪魔 [SPE BEST] [DVD]

監督はいつものロン・ハワード。ラングドンと冒険を共にする美しき相棒シエーナを、僕もぞっこんフェリシティ・ジョーンズが演じています。
 
この作品、先日、109シネマズ大阪エキスポシティのIMAXで番組主催の試写会を実施しまして、僕もそこで思う存分堪能しました。予告にも出てくるゾブリストがフィレンツェの塔から飛び降りる場面なんて、IMAXのあまりの迫力に、座ってるのに僕も足元がすくみましたよ。
 
それでは、いつものように3分間の短評、いってみよう。

一応、前2作は観ているものの、僕はダン・ブラウンの原作は読んでいません。それでもわかるのは、このシリーズはまず脚本が超大事ってことです。だって、『インフェルノ』も原作は文庫にして上中下巻、計1000ページです。ストーリーの枝葉を刈り込み、映画向きのエピソードとそうでないものを取捨選択し、生まれた「ほつれ」を映画オリジナルのキャラクターや展開で整えないといけない。至難の業です。実際のところ、原作ではひとつ前の物語『ロスト・シンボル』は映画化が脚本の問題で座礁に乗り上げてますから。

インフェルノ(角川文庫 上中下合本版) ロスト・シンボル(上中下合本版)<ロスト・シンボル(上中下合本版)> (角川文庫)

その意味で、今回脚本がうまく機能しているなと思ったのは序盤のフィレンツェです。ラングドン教授、いきなり病室にいるんですよね。ここはどこ? 私は誰? 短期記憶がスコッと抜けた状態。しかも、現代の僕らも知るキリスト教の地獄を克明に表現したダンテの神曲地獄篇さながらの幻覚を見る。まるでホラー映画です。会う人会う人、誰が敵で誰が味方かよくわからない。しかも、冒頭で追われて塔から飛び降りたゾブリストの人口抑制対策の必要性を説く過激なプレゼンをネット映像で見る。そうこうしている間にも、あちこちから追っ手がラングドンに迫る。何だかよくわからないままに逃げながらも謎を解かないといけない。とりあえず信じられそうなのは、病院から辛くも助け出してくれた女医のシエナのみ。
 
とにかくこの序盤の作り込みが凄い。3つの組織の思惑と、絶えず変化するその三角形の力学の中で右往左往するラングドン。中盤以降のどんでん返しへの布石をすべてぶちこんであって、とんでもないスピードで話が進む。ポイントはゾブリストの主張というか、そのプレゼンです。うますぎて、それなりに説得力があるせいで、殺人ウィルスという絶対ダメな解決方法とは言え、絶対的な悪だと思えない。こういう観客のミスリードがあちこちに仕掛けてあるし、ラングドンも記憶障害のせいで「おいおい大丈夫か」と言いたくなるし、他の組織も正義なのか悪なのかグレーだしってことで、謎が謎を呼び絡まりあって進んでいくから、シリーズ最高レベルにハラハラします。
 
そして、これまでと大きく違うのは、キリスト教の歴史のダークサイドに光を当てるんではなく、キリスト教的な価値観と文化はあくまで謎解きというか、簡単に言えば宝探しゲームのモチーフにしているだけで、あくまでテーマは人口増加問題という人類の来し方行く末なんで、日本に住む僕らにとっても身近に感じられるんです。だから、なおのこと、シリーズでは最も入り込みやすい。
 
ただし、観終わってみると、ゾブリストはなぜこんな面倒くさい方法でウィルスをばらまく必要があるんだという謎は残ってしまうんですよね。僕だけかな。脚本がうまいから、とりあえず始まったら終わりまでブレーキがかかることなく進むし、極端な話、追いかけているものが別にウィルスでなくても成立するような、映画の神様ヒッチコックが言うところの「マクガフィン」のような「映画の中ではとても重要なものだけれど、別にそれは何でもいい」みたいなものなんで、いいっちゃいいんだけど。冷静になると、ゾブリストの思惑がよくわからなくなる。
 
で、原作ですよ。どうやら、ウィルスそのものの設定が映画では改変されてる。だから、エンディングも違う。シエナの役柄も他の登場人物との関係性も結構違う。ただ、それをそのまま映画にすると、どうしても2時間では収まらないし、映画的カタルシスに欠ける展開になってしまうということでしょう。
 
結果として、ポップコーンの似合うハリウッド大作としては正解のエンターテイメントなんだけど、物語的深みはやはり原作のほうが遥かにありそうで、ああ、原作をどっぷり味わいたい欲求が抑えきれなくなっています。それも含めて、映画化としては成功なのかもしれないですけどね。
 
☆☆☆
 
それにしても、ドローンって、あんなに早く飛べるんですか!? ボーボリ庭園でのドローンとの追いつ追われつは、たまらなく怖かったです。あれに銃器積まれた日にゃあ、あなた…
 
劇中でキーワードのひとつとなる、チェルカ・トローヴァ、英語にするとSeek and find.で、確か「探し求めよ」みたいに訳されてたように思うんですが、現在のイタリア語だと、頭にwhoにあたる言葉をひっつけて、Chi cerca trova.(キ・チェルカ・トローヴァ)と諺っぽく使われることが多いです。直訳すれば「探す者は見つける」で、「努力すれば報いられる」というニュアンスになります。よく忘れ物をして探しものをしていた僕に、イタリア人の母がむしろ文字通りの意味で「探さないと見つからないわよ」とこの言葉を言い放っていた記憶があります。

さ〜て、次回、11月11日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神ミホさんから授かったお告げ」は、『ボクの妻と結婚してください』です。好みからすればまず観に行かない作品ですが、そんな僕がどう批評するのか。鑑賞したら、あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

『スター・トレック BEYOND』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年10月28日放送分
『スター・トレック BEYOND』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20161102130525j:plain

シリーズ誕生から今年で50年。2009年にJ.J.エイブラムス監督がスタートさせたリブート(仕切り直し)の3作目。23世紀の宇宙を舞台に、地球を含めた平和な惑星連邦から飛び立った宇宙探査船U.S.S.エンタープライズの冒険を描いています。今回は、未知の星に不時着した宇宙船を救出するミッションに出たところで、謎の異星人クラールが率いる無数の飛行物体に襲われ、エンタープライズ号が大破。仲間が散り散りになってしまいます。

スター・ウォーズ/フォースの覚醒 (字幕版) ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT (字幕版)

J.J.エイブラムスは『スター・ウォーズ フォースの覚醒』で忙しかったということで、今回からは「ワイルド・スピード」を手がける香港出身のジャスティン・リンが監督をすることに。

スター・トレック (字幕版) スター・トレック イントゥ・ダークネス (字幕版)

僕は熱心なトレッカーでも何でもないんですが、今回のリブート版『スター・トレック』を観直し、観落としていた『スター・トレック イントゥ・ダークネス』を観てから、109シネマズ大阪エキスポシティのIMAX 3Dで鑑賞してきました。エンタープライズ号が実物大に感じられるスクリーンのサイズ感はたまらないものがありましたが、109シネマズ大阪エキスポシティは4DXも対応してるので、今回のBEYONDはそちらでの鑑賞もいいでしょうね。
 
それでは、いつものように3分間の短評、いってみよう。

テレビドラマ版が計5つ、28シーズン、テレビアニメ版、劇場版が今回で13本あるわけですよ。あまりにも膨大だし、トレッキーとかトレッカーとか言われるマニアもいるもんだから、おいそれとは入り難いというか、敷居が高いのは間違いないですよね。僕もTVシリーズなんて、たまたまやってるのをチラッと観たことがあるくらいで、そもそも日本では視聴環境がアメリカほど整ってなかったので、今回お告げが下るまでは、ほとんど門外漢だったんですが、この1週間ですっかりファンになってしまいました。『スター・ウォーズ』よりもハマってるかも。

スター・トレック/宇宙大作戦 50周年記念TV&劇場版Blu-rayコンプリート・コレクション(初回生産限定)

簡単に言うと、異文化交流なんですよ。僕らの想像を超えるような、僕らの価値観からすれば変な生き物が出てくる未来の話なんだけど、オリジネータージーン・ロッデンベリーさんの思惑通り、そのカルチャーギャップによる摩擦や交流には、現代の地球が抱えている様々な問題が投影されているので、僕らはそのドラマを自分たちのものとして観ることができる。考えることができる。すごく進歩的で、なおかつ、すごく現代的。僕らの未来のある種の理想像を提示してくれている。だから、本来は細部まで含め、ドラマでゆっくり、一話簡潔で観続けるのがいいんです。そんなとっつきにくいスタートレックをJ.J.はどうしたかって言うと、語弊を恐れずに言えば『スター・ウォーズ』化してるんだと思います。ドラマよりもアクション。スピーディーな娯楽活劇になってる。もちろん、スタートレック本来のテーマにも目配せはしてあるから、スタートレックという宇宙への入門としては、2016年現在はやはりここっていう感じ。
 
前置きが長くなりました。そんなリブート3作目の一番の特徴は、クルーたちのキャラクターを引き立たせたこと。これまでの2作は、やっぱりカークとスポックのバディーものの側面が強かったんだけれど、なにせエンタープライズ号がコウモリ、あるいはイナゴみたいな小型宇宙船の大群に撃破されて、クルーが散り散りになるので、知らない星でまた皆ひとつのチームに集まらないといけないわけです。そこで、これまでにはなかった意外な組み合わせを実現させることで、キャラクターをより立体的に見せている。たとえば、スポックとマッコイ医師の掛け合いは漫才みたいでしたね。新キャラの異星人ジェイラも加わり、拠り所であるエンタープライズを失ったからこそ試されたクルーの絆が、また強くなっていく友情物語という、鉄板、王道な展開。敵であるクラールが抱える悲しみも含め、間違いないっていう感じ。
 
ジャスティン・リン監督は、ファンだったスター・トレック初参加でプレッシャーもかなりあったようですが、手堅くまとめていました。予算もこの手の作品にしてはそう多くなかったらしいので、知恵を絞ったようです。もしかすると、脚本にスコッティ役のサイモン・ペッグが参加しているのが大きいのかなとも思うんですが、敵を撹乱させるために使う道具がとてもアナログで笑いましたね。意外だし、いいバランスだったと思います。ラジオは、僕は当然アガりました。選曲もグッド。
 
ただ、全体としてはあまりにも王道・直球だったので、スター・トレックシリーズのデザイン性の弱さは浮き彫りになっちゃったかな。まあ、これはこのリブート全体に言えることだけど。
 
たとえば、今回も敵があまりにも敵っぽいんだよな。冒頭の和平協定を結ぶ時、化物みたいな異星人、カメラを引いたら、すげぇちっちゃい、みたいな、ああいう意外性、面白みをもう少し全体に散りばめて欲しかった。
 
とはいえ、今回はクルーの絆がメインテーマ。そこはきっちり表現されたアクション娯楽大作王道として、間違いなくのんきに楽しめる1本です。
 
良質なSF、あるいは宇宙という舞台で展開される知的生命体の理想を目指すドラマ、実は人間の本質を語っている金字塔スタートレックは、ONE PIECEが好きな人とか間違いなくハマると思います。これをきっかけに触れてみては? 僕はとりあえず、最初のシリーズ「宇宙大作戦」のDVDをポチッと買ってしまいましたよ。
 
☆☆☆
 
ロシア訛りの英語を喋る操縦士チェコフを演じるアントン・イェルチンが、事故で27歳の若さで亡くなったんですよね。撮影後ですけど。カークとマッコイが、チェコフが隠し持っていたお酒を飲むシーンありましたね。あれは、追加で撮影されたようです。イェルチンを思っての、映画クルーの弔いと考えれば、今回のテーマと合わせてグッと来ますね。

f:id:djmasao:20161102131448j:plain

さ〜て、次回、11月4日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神ミホさんから授かったお告げ」は、『インフェルノです。番組ではIMAXでの試写会も実施しましたが、鑑賞したら、あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく! 

『何者』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年10月21日放送分
『何者』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20161024094233p:plain

近年の日本映画の傑作『桐島、部活やめるってよ』の原作者、朝井リョウ直木賞受賞作を、『愛の渦』で人間関係の変化を活写した劇団ポツドール三浦大輔監督が映画化。企画・プロデュースは、今や日本映画の屋台骨、川村元気。今年だけでも、『世界から猫が消えたなら』『君の名は。』『怒り』『何者』、これ全部川村元気の手掛けた作品ですよ。すげー。まんまと全部観てる…

世界から猫が消えたなら (小学館文庫) 世界から猫が消えたなら DVD 通常版

キャストには、若手実力派が揃いました。佐藤健有村架純菅田将暉二階堂ふみ岡田将生。22才の5人が同じ部屋に集い、そこを就活対策本部として情報交換していくのだが、それぞれのスタンスの違いがだんだん露呈してきて、やがて内定を手にする者が出始めると、関係性がギクシャクしてくる。就活というダンジョンを彼らは抜けることができるのか。
 
それでは、佐藤健演じる主人公拓人ばりに映画を観察・分析している男、野村雅夫が3分間で『何者』を短評。いってみよう!
 
☆☆☆
 
あらすじを読んだときから気になっていたんですけど、5人とも22歳という設定が絶妙です。つまり、留学やサークル活動で、みんな1年は寄り道をしてるんですよ。ストレートじゃない。だから、余計に就活に対して構えてるし、考える時間があった分、見事にこじらせてる。そういう背景がキャラ造形に映えていました。お話のメインとしては、主人公の拓人が他の4人を分析する様子が大事になってくるんですが、実は拓人にとって大事な登場人物が他にふたりいて、映画全体ではそのふたりが鍵になっていると僕は見ています。
 
拓人はこれまで演劇に打ち込んでいて、烏丸ギンジという、作・演出のパートナーがいたんですね。でも、烏丸は就活はせずに新しい劇団を旗揚げして、どんどん公演を打っている。そんな烏丸のことを、拓人は就活の合間に、ずっとネットで追い続けるんです。芝居にも未練がある拓人は、烏丸を妬む一方、アマチュア演劇の掲示板で烏丸の芝居がこき下ろされているのを見ては「やっぱりな」と見下してみたり。自意識を制御できずにぐらんぐらんな状態なんですね。
 
もうひとり、拓人にとって大事なのは、唯一「年上の人」である、演劇の先輩、理系の大学院生、山田孝之演じるサワさん。彼の大学院生っぷりったら、元腐れ大学院生の僕が首が痛いほどうなずける「こういう人いるわ〜」っていうリアルな存在感だったんですが、それは置いといて、そんなサワさんを慕っている拓人が、サワさんに何度か打ちのめされるんです。本質を言い当てられるというか。それでまた余計にぐらんぐらんですよ。就活対策本部のみんなといる時には、「拓人やっぱりデキる男だよな」と既に「何者かになりかけている男」として見られているし、拓人もそれを良しとしているだけれど、その輪の外のふたりによって、実は拓人は他人のことばかりを気にしている「まったく何者にもなりきれていないモラトリアム男」であることが僕ら観客に提示される。
 
と、この辺りのことは、原作小説でも共通していることでしょうけど、クライマックスの一連の展開は、もう映画ならではでして、朝井リョウ原作の映画化として、演劇畑の三浦大輔を監督に迎えて大正解だと唸るところ。「実はあの時こうでした」的な、Twitterのつぶやきを軸にしたフラッシュバックが不意に始まるんですね。こうした時間の操作がもう桐島っぽいんだけど、今回は映画じゃなくて演劇モチーフでしょ。フラッシュバックという映画技法を、演劇的な、つまり同じ空間で見せていき、なおかつカメラを引いていくと、5人がいつの間にか芝居の舞台にいたっていう、とてもダイナミックな畳み掛け(映画演劇リミックス)みたいな、実にスリリングな演出なんです。まいりました。就活においては、誰もが自分を演じているんだってこと、そしてそのひとり拓人の芝居を僕らは観ているんだってことをこの上ないほど端的に表現していました。
 
物語としては、ある種のオープンエンディングです。それぞれ内定が出たか出てないかが明らかになる着地ではない。だけど、最後の最後、拓人の顔が清々しいというか、凛々しいというか、何者かになったわけじゃないけど、一皮むけた顔をしてるんですよね。ずっと「受け」だった彼が「攻める」顔になってる。佐藤健あっぱれですよ。
 
つまり、こういうことです。受験にしろ、就活にしろ、なんなら結婚にしろ、僕らはそれによって「何者になるか」が決まると思い込んでいるけれど、実はそうじゃない。特に日本は職業で何から何まで規定しようとする傾向が強いけれど、人間ってのは就職面接の1分間で表現できるほど一面的なものじゃないし、そもそも仕事だけが人生じゃない。それがわかるってのが一皮むけるってことでしょう。人間のドロドロした内面が3Dのようにこちらに吹き出してくる映画でしたが、鑑賞後に爽やかな気持ちになれたのは、そういうメッセージを受け取れたからだと僕は思います。
 
☆☆☆
 
NANIMONOの歌詞は米津玄師が書いてるわけですけど、それこそ前前前世ばりに映画を言い表してると思いましたよ。

最後まで烏丸ギンジの顔を映さないという演出上の選択は、「桐島」の桐島とも共通するところでした。そっくり同じ効果とは言わないけど、面白い類似点なので、誰か考えて〜(苦笑)
 
関東と関西という違いはあれど、僕も学生時代から小演劇に携わる友だちがいるのでそれなりにわかるんだけど、ドキュメンタリー風に揺れるカメラとクロースアップで映し出される劇団の様子(役者たちの振る舞いや、あの規模の演劇にありそうな舞台装置や演出技法)は、それはもう「リアル」でした。
 
一方で、演劇も映画も演出していて「間」のことも熟知しているであろう三浦大輔にしては、「はて?」と首をひねってしまう、文字通り「間の抜けた」場面に何度か出くわしてしまったことも記しておきます。居心地の悪い間を演出しようとしているのではなく、ただ単に妙な間になっていたような… ついでながら、時にセリフ先行が耳についてしまうことや、見せ場のための見せ場のような場面も、特に後半見受けられて、あの凄まじいクライマックスがあるだけに、ちょっとチグハグにも感じられました。
 
とはいえ、ラジオで3分間で話すなら、こんなの端折っていいレベルだと僕は判断したので、こうしてDJ'カット版のブログだけに書くというやり口は主人公の拓人っぽいですかね(笑)
 
最後に、放送でもチラッと触れましたが、常連リスナーのつぶやきにこういうのがありました。
 
「一向に広がっていかない映画の世界観には共感出来ませんでした。あの描き方だと現実と理想の両方をバカにしているようにしか思えません」
 
言わんとすることはよくわかるのですが、「一向に広がっていかない世界観」こそ、少なくとも映画に出てくる彼ら若者のビジョンなんじゃないでしょうか。慣れないスーツを着て、一見すると広がっていきそうだけれど、その実、相変わらず窮屈な世界で彼らは自意識とばかりやり合ってる。それが「これは本当に広がりそうだ」と感じられるラストが僕は好きでした。

さ〜て、次回、10月28日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神ミホさんから授かったお告げ」は、『スタートレック BEYOND』です。鑑賞したら、あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく! ああ、早く宇宙へ飛び立たなくっちゃいけないのに、朝井リョウの『何様』が気になってkindleで買ってしまった僕です。もう!!

何様