京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ワイルド・スピード ICE BREAK』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年5月5日放送分
『ワイルド・スピード ICE BREAK』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20170505155239j:plain

2000年の第1作『ワイルド・スピード』(原題:The Fast & The Furious)から始まった破天荒なカーアクション映画シリーズもこれで8作目。メインキャラのひとりブライアンを演じてきたポール・ウォーカーを前作「SKY MISSION」で失いながらも決してスピードを緩めることなく、いや、むしろさらにやり過ぎております。映画オリジナルのストーリーで、なおかつ興行収入も右肩上がり。B級も極めればA級になることを体現する稀有なシリーズです。

ワイルド・スピード SKY MISSION [DVD] 

愛するレティや仲間たちと固い絆で結ばれたファミリーを誰よりも大切にしてきたドムが、まさかの裏切り。極悪サイバーテロリストサイファーとタッグを組む。戸惑いを隠せないファミリーだったが、ドムを取り戻し、テロを防ぐため、アメリカ政府の秘密工作組織のトップであるミスター・ノーバディ、そしてファミリー最大の敵だったデッカードと力を合わせる。ドムはなぜ寝返ったのか? ファミリーと世界の命運やいかに。

ストレイト・アウタ・コンプトン (字幕版)  ミニミニ大作戦(字幕版)

ドム役のヴィン・ディーゼル他、ドウェイン・ジョンソンジェイソン・ステイサムのワイルド・マッスル・スキンヘッドが今回も大暴れしている他、シャーリーズ・セロン、そして意外な役柄でイギリスを代表する名女優ヘレン・ミレンが登場します。監督は、このシリーズ初となるF・ゲイリー・グレイ。ミュージックビデオ出身の監督として『ストレイト・アウタ・コンプトン』高く評価されましたが、実は僕の生まれた街イタリア・トリノを舞台にしたカーアクション映画『ミニミニ大作戦』のリメイクも手がけていました。
 
それでは、制限時間3分間。アクセルベタ踏みの映画短評。今週もいってみよう!

ポール・ウォーカーを「SKY MISSION」で文字通り失ってしまったので、どの段階でどの程度まで構想されていたのかはわかりませんが、今回から新たな三部作という位置づけで再始動ということがアナウンスされているってのを、もうオープニングのキューバのシーンから体現してくれます。PitbullのノリノリなHey Maをバックに、ラテンのイケイケなお姉ちゃんたちが水着以上に眩しいホットパンツを次々に見せつけるサービスシーンから、いきなりいとこの車を賭けたドムとキューバ人のカーレースが始まる。「レースで大事なのは、車の性能よりも、誰がハンドルを握るかだ」とか何とか言うんだけど、そこでドムはいきなりブライアン仕込みのテクを駆使するという憎い展開。このシリーズ、お話の規模がどんどん大きくなっているので忘れがちだけど、そもそもはドムとブライアン、そしてカーレースから始まってるわけで、原点を忘れないっていうあたりを開始10分くらいでいきなりフルスロットルで楽しませてくれるんです。
 
そこから、今回のストーリーの核となるドムの裏切りのきっかけが示されるんですが、ここ上手いなと思うのは、もちろんドムがそんな事するにはそれ相応の理由があるんだろうって誰もが思うわけじゃないですか。サイファーから「あるもの」をキューバの路上で見せられて、まんまと寝返るんだけど、その「あるもの」が何なのか、途中まで巧妙に伏せられているのみならず、これは終わってから振り返ってなるほどなと気づく部分なんだけど、このキューバパートでの些細な会話や人物がちゃんと後々思い出されるように伏線として機能させてあるんです。だから、僕らはファミリー以上に理由は知ってるけど、サイファーほどは知らないっていう、映画を楽しむには一番面白い情報量のまま先へ進んでいくんですよね。さらに言うと、この適切な情報の出し方のおかげで、裏切りのドラマがよりダイナミックかつエモーショナルに機能する。だって、途中であのドムが泣くからね! びっくりだよ。
 
こういうように、今回、僕は大味な映画に見えて、実は脚本の微調整が周到に施されてるんだと思っています。特にみんな主役級の濃いキャラクターたちの関係性には気を遣っているからこそ、メインから外れた枝葉のエピソードも生き生きとしてくる。
 
コミカルなシーンも多かったですね。なにしろ手数が多い! キャラ同士のキャッキャしたジョークの応酬。たとえば、ライバルであるホブスとデッカードがふたりで監獄で大暴れする場面なんて、筋肉バカがいがみ合いながら看守や罪人をなぎ倒していくんだけど、それぞれの特徴と関係性を逐一反映した丁寧な構図設定とカット割りで惚れ惚れしました。ホブスがゴム弾を胸筋で跳ね返すみたいな漫画なノリも、ここではOK! ホブスならできる!って思えるもの。
 
そして何より、もちろん、カーアクションですよ。今回も、そんなアホなの連発です。制作陣がツッコミ待ちしてるのが画面から伝わってくるよう。このシリーズ、いつも予告で見せ場を気持ちいいくらいネタバレしてるんだけど、どのシーンもアイデアがフレッシュで完全に振り切れてる、あるいは突き抜けてるから、分かってても「スゲー」「そんなアホな」って楽しめるんですよ。ある理由から氷の上で水上スキー状態になるところなんて、もう僕久しぶりに声を出して笑ってしまいました。最高です。
 
世界あちこちの景色。人種のミックス感。バカさ加減。もはや地球を救うレベルの規模感。騙し騙されのスパイものの魅力。これはもう、B級映画のテイストを残したままA級へとレーンチェンジした、アベンジャーズや007シリーズに匹敵する、エンタメ映画の最前線です。別に過去作観てなくてもいいから、ワイスピにあなたもライド・オンしてください。


さ〜て、次回、5月12日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『追憶』です。監督は降旗康男、カメラは木村大作。『鉄道員(ぽっぽや)』のコンビですね。高倉健の代わりに集った岡田准一小栗旬がどんな演技を見せてくれるのか。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

 

『美女と野獣』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年4月28日放送分
『美女と野獣』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20170428160901j:plain

冷たく追い払った醜い老婆が、実は魔女だった。呪いをかけられて野獣となった王子。元の美男子に戻るには、その外見のままで誰かと真実の愛で結ばれないといけない。魔女が残した一輪のバラの花びらがすべて散ってしまう前に。人々からすっかり忘れられた城には誰も寄り付かなくなっていたところ、美しい村娘ベルが現れ、互いはしだいに惹かれ合っていくのだが、そこにはたくさんの邪魔が入り…
 
これまで何度も映画になっている物語ですが、振り返れば、ディズニーアニメ第2の黄金時代と言われた90年前後の代表作のひとつ、91年発表のアニメ『美女と野獣』が決定版でしょう。それを今回はかなり忠実に実写映画化しています。監督はミュージカルの名手ビル・コンドン。主人公ベルには、「ハリー・ポッター」シリーズで誰もが知るエマ・ワトソンが扮する他、先週評した『T2 トレインスポッティング』のユアン・マクレガーが蝋燭立て、燭台に姿を変えられたルミエールを演じるなど、原作がフランスの民話ということもあるのか、ヨーロッパベースのキャスティングになっています。
 
それでは、バラの花が散るよりも短い、制限時間3分間の映画短評。今週もいってみよう!

人は外見で判断してはいけない。よく知られたこの物語の教訓ですが、ここ数年、リベラルな価値観を物語に植え付けてきたディズニーだけに、今わざわざ実写にするからには、あの戒めをアップデートするような思惑があるのだろうと想像して観に行ってきました。結果として、なるほどなと思えた部分も多い一方、ちょっとした不満もあるにはあるっていうのが、僕の見立てです。
 
まずは、なるほどの部分から。僕はこの手のロマンティックなものにそもそも眉をしかめるひねくれ者でもあるんで、美女と野獣が結ばれるのって、「要はギャップ萌えってことでしょ?」とか、心理学で言うところの一種のストックホルム症候群じゃないのって思っていたくらいなんだけど、今作は違いましたね。何って、ベルの内面です。今回の教訓は、見かけうんぬんよりも、未知のものでも気後れせずに接すれば世界は開けるってことじゃないでしょうかね。
 
ベルは前近代的で閉鎖的な村の中にあって(舞台が18世紀だから当たり前だけど)、超進歩的で、読書家だし、子どもたちに勉強も教えるし、好奇心に満ちている。教会の図書室から本を借りる時のウキウキした感じ、そして、まさかのロバを使った洗濯機を発明して、浮いた時間を使って読書したり子どもに読み書きを教えるところが僕はお気に入り。
 
ひとりずば抜けて賢いから、村人たちをバカにしているという見方もできるかもしれないけれど、冒険心旺盛なベルにとっては、女性はこうあるべきとか、狭い中で汲々とした偏狭な人たちに囲まれていることが、むしろ牢屋にも似た環境なのであって、これはそこからの解放の物語であり、王子との恋愛はその副産物くらいの位置づけなんじゃないかって気がするんですね。ベルは冒険の果てに、それこそ内面が野獣化して城へ攻め入る村人たちの心をも解き放つわけです。そういう進歩的・現代的な女性像と同時に、ガストンが体現するマッチョ的な価値観の否定が顕著だったのも印象的でした。
 
あと、魔女のアガットが実はずっと村にいて観察し続けていたっていう設定も、客観的な視点がひとつできて、僕はすごく気に入りました。
 
他にもよくトピックとして挙げられるのが、LGBT的なキャラクターの導入ですね。潔いレベルの悪役、俺様野郎ガストンの腰ぎんちゃくル・フーがはっきりゲイとして登場しました。ただ、ここからがちょっとした不満の要素ですけど、ル・フウって、役名だから仕方ないけど、フランス語だと普通名詞で、イカれた男くらいの意味なんですよ。ベルが名前からして、ビューティーって意味なのを考えると忍びなくて、イカれた男=ゲイっていう図式になってるのが、進歩とは言え、素直にはうなずけないってのと、あと、18世紀のフランスに黒人の貴族がわんさかいるっていう設定も、わかるんだけど、目配せしすぎっていう感じもします。
 
さらに、「それを言っちゃあおしまいよ」ってことだけど、やっぱりアニメの躍動感に比べると、ちょっとなあとも正直思っちゃいました。
 
とはいえ、この古めかしい題材を実によくまとめていて、絵面も洗練されている一級の作品であることは間違いありません。手堅い娯楽作として、あなたも劇場で、止まらないロマンティックに酔いしれてください。


さ〜て、次回、5月5日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ワイルド・スピード ICE BREAK』です。『T2 トレインスポッティング』『美女と野獣』と来て、「ワイスピ」。すごい流れになってます。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

『T2 トレインスポッティング』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年4月21日放送分
『T2 トレインスポッティング』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20170421152233j:plain

あのロクデナシたちが帰ってきた。20年前、麻薬の売買で大金をものにしたレントンは、仲間たちと山分けせずにトンズラ。逃亡先のアムステルダムから、スコットランドの故郷エディンバラの実家に戻ってみると、既に母親は亡くなり、父親がひとり暮らしをしていた。そして、悪友たちは相変わらず。親戚から継いだパブ経営もそこそこに、売春と恐喝で財を成すシック・ボーイ。麻薬から抜け出せずに家族から愛想を尽かされているスパッド。刑務所に服役中で復讐の鬼と化しているベグビー。彼らのすったもんだの再会を描く。

トレインスポッティング(字幕版)

あのカルト作の続編は、ダニー・ボイル監督も、ユアン・マクレガーなど主要キャストもそのまま続投という珍しいパターン。このふたりも、今でこそ押しも押されもしない映画人ですが、思い返せば『トレインスポッティング』がブレイクのきっかけでした。僕が高校3年生の秋に公開され、受験生ということで劇場に観に行く習慣がその頃は無かったんですが、大学に入ってからも、レンタルビデオ店や友達の下宿先で何年間もポスターを見にし続けるほどアイコン化していたことはよく覚えています。僕がそんな前作を観たのは、結局もっと後になってから。正直、熱狂したわけではないですが、ボイルの映像センスと実験精神にはやはりしびれました。
 
そんなわけで、後追いだし、別にフェイバリットというわけではない僕野村雅夫がどんな熱量でT2を観たのか。3分間の短評という名のショート・トリップ、今週もいってみよう!

これは同窓会映画です。同窓会って、昔話と近況報告、どちらの楽しみもあって、互いの空白を埋めるもの。なので、現役バリバリの頃を彷彿とさせるシーンをいかにうまく配合するかがポイントになるんですけど、その意味で、ダニー・ボイルの作戦は実にうまい。『トレインスポッティング』を思い出した時に、印象的なシーンってたくさんありますが、とにかくよく走ってたなって感じるんです。それを踏まえてのオープニングですよ。レントン、走ってますね。ただ、場所がストリートではなくて、ジムのランニングマシンの上っていう。当時を思い起こさせつつ、現実との落差を見せる。身体も重そうで、案の定、スピードについていけず、ずり落ちてしまうわけです。あの頃と違う俺。浮かぶ幼なじみの顔。そして、前作通りスタイリッシュなタイトルがボンと出て、同窓会スタート。
 
それぞれの再会は、どれも最初こそぎこちないものの、だんだん感覚を取り戻してきて、映画の中でまた走るようになるんだけど、それがもうランニングマシンの上とは違って、イキイキしてるんですよ。バカな事をやってればやってるほど、スピードも上がっていく。そして、ボイルの実験的な映像さばきにもエンジンがかかってくる。夜、逃走する車にプロジェクションマッピングを施したり、性懲りもなくおっぱじめられるドラッグでのトリップシーンも奮ってました。ガゼル達が駆け抜ける映像を反転させて壁一面に映したり。それから、全体的にストップモーション、要するに動画なのに急に静止画を挟む編集スタイルも効果的に使ってました。こいつらの傍から見た滑稽さ、プラス、こいつらの取る行動の刹那的・衝動的な要素を強調するようで。そして、止まるっていう意味では、音楽の寸止めな使い方も面白かったです。かかるかと思ったら、ここではかけへんのかい!っていうね。
 
要所要所でこういう「トレインスポッティングの続編を見ている〜!」という感覚を僕らに与えてくれる一方、やっぱ主人公たちがもう初老なんで、とんがりはそりゃマクレガーの体型同様、多少は丸まってます。逆に言えば、映画全体のまとまり、見やすさは格段にアップしてます。前作では、映画という列車が車両によって積み荷バラバラで、車両同士の連結も外れかけ。止まるべき駅もしょっちゅう飛ばしてしまっていたのに対し、今作は特急とは言わないけど、快速急行くらいの速さで、荷物も人もきっちり乗車整理して定時運行って感じ。だから、物語の行方がしっかり気になる。
 
そこで大事になるのが、今回のファム・ファタール、つまり運命の女、あるいは魔性の女というべき、シック・ボーイがかこってるブルガリア美女ヴェロニカですよ。きゃわいい~。僕、彼女大好き。バカっぽいけど、したたかでもある小悪魔ですね。この設定も、やっぱり20年経った今だからこそできるというか、エディンバラにもグローバル化の波が押し寄せているわけで、そのあたりの社会性は押さえてます。彼女は現代の象徴なんですね。前作もそうだけど、時代性と社会性をしっかり背景に透かせてあるから、映画がしまるんです。

f:id:djmasao:20170421154155j:plain

それが端的に出ていたのが、レントンがそのヴェロニカにぶつ演説です。前作でもキーワードになった”Choose life”。「人生を選べ」という、もともとは麻薬根絶キャンペーンの言葉(日本で言うなら、問題にもなった「覚醒剤やめますか。それとも、人間やめますか」ですね)。それを彼らはパロディーにして、昔も今も世の中をむしろ皮肉る。だけど、フレーズが20年経った今ならではなものになっていて、早口なレントンの台詞回しと矢継ぎ早な映像編集が絡み合い、僕は鳥肌モノの感動を覚えました。SNSやリベンジポルノ、リアリティ番組、労働環境、そして、教育… 考えてしまいますもの。
 
Choose life. Choose Facebook, Twitter, Instagram and hope that someone, somewhere cares. Choose looking up old flames, wishing you'd done it all differently. And choose watching history repeat itself. Choose your future. Choose reality TV, slut shaming, revenge porn. Choose a zero-hour contract, a two hour journey to work. And choose the same for your kids, only worse, and smother the pain with an unknown dose of an unknown drug made in somebody's kitchen. And then... take a deep breath. You're an addict. So be addicted, just be addicted to something else. Choose the ones you love. Choose your future. Choose life.
 
20年前に選んだ人生の結果としての今。選択肢はみるみる少なくなっている。淡くてもいい。しがみつける希望は見つかるのか。レコードはまた回り始めるのか。僕はわりと清々しくラストを迎えました。
 
これ1本だけでというよりは、やっぱり前作からの流れを踏まえてですけど、十分に満足のいく続編になっていると僕は思います。

さ〜て、次回、4月28日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『美女と野獣』です。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく! 

ドーナッツクラブpresents「映画で旅するイタリア2017」!

ドーナッツクラブがお贈りするイタリア映画の祭典「映画で旅するイタリア2017」!
毎回大きな反響をいただき、3年目の
今年は東京と京都、2都市での開催です。


映画で旅するイタリア2017予告編


ルパン三世』さながらの裏切りの応酬、最高の二人のバディ・ムービー『やつらって、誰?』
伝説の色男の死後、残された女たちが知る予想外の事実『ラテン・ラバー』
成功を夢見る二人、すれ違いながらも愛を深める二人の辿る結末は?『アラスカ』
いずれも必見の傑作イタリア映画3作品が、満を持して日本初公開!!

6月3日(土) - 9日(金) アップリンク渋谷
http://www.uplink.co.jp/
6月24日(土) - 30日(金) 京都シネマ
http://www.kyotocinema.jp/

【詳細】https://www.doughnutsclub.com/
※上映時間は決まり次第ホームページ、SNS等でお知らせします。

 

f:id:djmasao:20170421221902j:plain

 

主催:京都ドーナッツクラブ
共催:イタリア文化会館-大阪*
後援:イタリア文化会館
協賛:ディスク・ロード、JAPANISSIMO、キネプレ*、ロマンライフ*
(*=京都会場のみ)

『夜は短し歩けよ乙女』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年4月14日放送分
『夜は短し歩けよ乙女』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20170414215322j:plain

京都の大学で、バラ色キャンパスライフとは無縁の、悶々とした日々を送る「先輩」。彼は同じサークルの後輩「黒髪の乙女」に恋心を寄せ続けるものの、自意識が空回って外堀を埋めるばかりでなかなか距離は縮まらない。そんな先輩にとって千載一遇の好機とも言うべき夜がやってきたのだが、果たして恋の行方は。

太陽の塔 (新潮文庫) 四畳半神話大系 (角川文庫) 夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

太陽の塔』でデビューして以来、一貫して京都を書き続けてきた作家森見登美彦のベストセラー小説が原作。監督はこれが13年ぶりの長編となる湯浅政明。脚本はヨーロッパ企画上田誠。キャラクターデザインは中村佑介。主題歌はアジカン。この座組は、2010年にフジテレビ系列ノイタミナ枠で放送された『四畳半神話大系』とまったく同じ。さらにそこに、今回は星野源花澤香菜、そしてロバート秋山といった時の人が声優陣に加わり、一層華やかな顔ぶれになっています。
 
僕は森見作品の愛読者ということもあり、思い入れも一際なんで逆にやりにくいんだけど、それはともかく、3分間の短評、今週もいってみよう!

森見作品の大きな特徴に、人間関係とか、システムとか、運命的なものから抜け出せない、ある種の無間地獄的ループを描くっていうのがあると思います。それが色濃く出ていたのが、『四畳半神話大系』で、まさに今頃、大学に入ってから、どのサークルに入るべきかと思案している人も聞いてくれているかもしれません。これがきっと人生の分かれ道になるに違いない。そう思ってはいるんだけど、結局はどれを選んでも、大同小異で、主人公は自分、あるいは自意識の化身である四畳半の下宿から抜け出せない。この部屋でも、隣の部屋でも、そのまた隣の部屋でも同じこと。なんていう、ある種のホラー的要素を持った連作小説だったわけです。だから、毎回30分のTVアニメ枠とも相性が良かった。

四畳半神話大系 コンプリート ブルーレイBOX (全11話, 275分) 森見登美彦 アニメ [Blu-ray] [Import] [PAL, リージョンB, 再生環境をご確認ください, リージョンフリー又はPAL再生可のプレイヤーで再生する必要があります]

それが今回はどうか。原作では四季をめぐる物語だったものが、なんとたった一晩のお話に改変されている。僕はこれ、正解だったと思っています。だいたいタイトルが「夜は短し」なわけだし、こうすることによって、湯浅監督の持ち味であるドラッギーな絵作りと細部がやたら濃密な物語とが噛み合い、まるで闇鍋のような飛躍的な展開をストンとまとめることができているのではないかと。原作では、1年もの物語だから、「ああもうさっさと手を打たんかい!」という焦燥感が読者に湧いてきて焦らされるし、それが先輩が抜け出せなくなっている自意識問題の根深さを表していたのに対し、今回はこれでもかと怒涛の展開を見せる中でも「自分内会議」にクライマックスを持ってくることによって、スクリーンサイズのスペクタクルを担保しながら、その無間ループを彼が突破できるかどうかに焦点が合ってる。人の縁が強調されてましたが、時計とか車輪とか丸い円のモチーフもたくさんあって、先輩と乙女はグルっと巡った先で落ち合ってまた別の円を形成するという構成。なるほどな、と思いました。
 
今回も「四畳半」の時と同様、膨大なセリフ量を早口でまくし立てるスタイルは健在。サイズやフォルム、時間が目まぐるしく自在に変化してファンタジーが爆発する映像とあいまって、もう情報の洪水。多少の消化不良も何のその。だからこそ、ドラッギーなんですよね。ただ、これは原作もそうなんですけど、僕は「四畳半」の方が、実写とアニメを捏ねくり回したり、もっと実験的で、リアルな京都のぬるま湯的大学生活と橋渡しができていた気がして、より好みだったことが付け加えておきます。監督も語ってますが、「四畳半」が勢い重視だったのに対し、映画はもう少しシックにしたと。監督流のポップな着地でしょう。これが気に入ったって人は、よりぶっ飛んでる「四畳半」の鑑賞も強く勧めます。
 
今回は京都が舞台でありながら、その京都そのものの魅力は出し切れていなかったような気もします。これは木屋町先斗町の裏路地が入口となる「不思議の京のアリス」だと思うので、もっと京都らしさが絵に反映されても良かったような。
 
とはいえ、大好きな森見作品のファンがこれを機に一層増えるのは大いに歓迎すべき事態。この番組の聴取者諸賢なら一見の価値あり。観に行くべし。異議はありますか? なに? ある? それは却下だ!
 
ところで、リスナーのツイートに、『イエローサブマリン』的な絵、という言葉を見つけました。なるほどね。原色の大胆な使い方は似ているかも。


さ〜て、次回、4月21日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『T2 トレインスポッティング』です。来週もカルト作が来ましたね。20年後の奴らに会いに行くとしますか。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく! 

 

『ムーンライト』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年4月7日放送分
『ムーンライト』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20170407183408j:plain

あの『ラ・ラ・ランド』と一度間違えられた末に、という余計なエピソードがついて回るものの、誰が何と言おうと、第89回アカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚色賞を堂々獲得しました。
 
リトルというあだ名で呼ばれ、内気な性格から学校でいじめられっぱなしの黒人少年シャロン。麻薬常習者のシングルマザーや、親代わりとばかりに可愛がってくれる麻薬ディーラーのカップル。そして、唯一心を許せる同級生のケヴィン。フロリダ州マイアミの狭い黒人コミュニティーで生きていくシャロンの半生を、小学生、高校生、そして青年と3つのチャプターに分けて描写します。
 
エグゼクティブ・プロデューサーをブラッド・ピットが務めていますが、監督はまだ長編2作目という新鋭バリー・ジェンキンス、37歳。素人やまだ無名の役者3人が1人のシャロンを演じ分ける一方、ナオミ・ハリスマハーシャラ・アリ、そしてジャネール・モネイといった名のある俳優や歌手が脇を固めています。
 
それでは、3分間の短評、今週もいってみよう!

僕はほぼ知識ゼロでの鑑賞で、後日予告編を見たくらいなんですけど、驚いたのは、予告でほとんど話がわかるっていう作りになっていて、あのダイジェストで筋はほぼクリア。でも、僕はそれを悪いと言っているんではなくて、この作品はそれでも鑑賞を強く勧めたくなる物語以上の機微が詰まっていて、醍醐味はそれを観客がすくい取るってこと。つまり、観るにあたって、ある程度、集中力をもって味わうという意志を持たないとつまらなく感じるかもしれません。
 
というのも、基本的に説明は周到に省略されているんですね。まず主人公シャロンが内向的なので、セリフがとても少ない。父親が今どこで何をしているのかもわからない。こういう基本的な情報すら、観客の想像に委ねられているわけです。そんな潔い省略が最も発揮されるのが、3つのチャプターで構成される時間的なジャンプです。小学生から高校生、そして青年へ。しかも、目や仕草がよく似ているとは言え、同じシャロンをそれぞれ別人が演じているわけですから。フアンと出会って、親友ケヴィンが登場して、なんだかんだあってっていう、短い時間から、一気に10年くらいポンと飛んで、その間に何があったのか、何のフォローもない。僕らは会話や出で立ち、その言葉の端々から、「こういうことがあったのかな」と漠然と推察する他ないわけです。物語ってのは、省略の上手い下手でその出来栄えが左右されるって僕は常々思うんだけど、これは大胆かつ実験的にして、お見事という他ないさじ加減です。思い出したのは、このコーナーでも扱っているリチャード・リンクレイターの「ビフォア・シリーズ」とか『6歳のボクが、大人になるまで。』ですね。ただ、リンクレイターの場合は、実際に俳優がその時間分年を取るわけだけど、こちらはそれができない分、役者を変えて、それでも説得力を持たせる演出をしている。まだ名も無き役者たちもすごいけど、監督の誘導が凄まじい。

ビフォア・ミッドナイト [DVD] 6才のボクが、大人になるまで。(字幕版)

それから、ここぞというタイミングでのカメラワークも素晴らしかった。映画のスタート、フアンが登場するところなんてまさに典型だけど、カメラがグルッと回る円環ショットと言われる技法がとりわけ印象に残りました。ある程度の時間が経っても、シャロンはあのコミュニティーの論理と価値観からやっぱり抜けきれないんだとカメラでぐるりと線を引く用な演出。黒人しかいないあの社会では、貧困からドラッグディーラーがはびこり、お母さんのように麻薬に溺れる人がいて、育児放棄、売春や暴力が横行し、子どもたちもその社会の中でのピラミッド、スクールカーストを生み出す。そこでシャロンは、さらにセクシャルマイノリティーとして生きている。およそ僕が想像できる範囲でも下の下の下です。言わば、悪しきスパイラルからどう抜け出すのか、抜け出せないのか。
 
「どう生きるかを決めるのは自分自身。他人じゃない」ってセリフがありましたけど、ただでさえ弱い立場のシャロンにとって、それはたやすいことじゃない。これは、そんな彼がアイデンティティーを獲得する、もの静かで時間をかけた闘いの叙事詩です。それは誰しもが通る道でもある。ここまで壮絶かどうかは別にして。だから、苦労したなシャロン、と涙してしまう。
 
もう3幕目なんて、僕の目は常に潤んでました。鍛え上げた肉体と光る金歯で武装しても隠せないシャロンのピュアなやさしい瞳。その光は、あの浜辺で過ごした夜に輝いて辺りをブルーに染めていた月明かりにも似ているようで、実は画像処理も施してまで映画全体を染め抜いた青が、僕のまぶたの裏にしっかり焼き付きました。
 
これは断言できます。地味だけどすばらしい作品です。予算はたった150万ドルだから2億円弱。たとえば『アヴェンジャーズ』の制作費は250億円ですよ。ジャンルもあるけど、映画は金だけじゃない。当たり前だけど、少ない予算でも良いものは作れるってことですね。
 
☆☆☆
 
物語の大事な部分で音楽が重要な役割を果たすのも、音楽ファンとして嬉しいところ。しかも、いわゆるヒット曲の魅力でゴリゴリ押してくるんじゃなくて、しみじみと歌詞を味わわせる控えめな曲をジュークボックスから流すあの「引っ張り」は3幕の見せ場でした。
 
各映画サイトに似たような記事が出ていましたが、ジェンキンス監督は、20年前の名作、ウォン・カーウァイの『ブエノスアイレス』に感化されてオマージュを捧げているんだとか。僕は気づきませんでしたが(エッヘン!) 類似ショットもあるということなので、この機会に見直してみるのもまた一興。記事へのリンクを貼っておきますね。こちら


さ〜て、次回、4月14日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『夜は短し歩けよ乙女』です。僕は原作の森見登美彦フリークで、なおかつアニメ『四畳半神話大系』も大好きでした。今回はいかに! あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく! 

 

『キングコング:髑髏島の巨神』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年3月31日放送分
『キングコング:髑髏島の巨神』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20170331181131p:plain

1933年にオリジナルが作られたキングコング。その後、1962年、東宝の『キングコング対ゴジラ』も合わせれば、各時代の映像技術の見本市の様相を呈しながら、計8本作られてきました。どうやら今回は、新しく始まるシリーズの序章という位置づけで、ギャレス・エドワーズ版の『GODZILLA/ゴジラ』と絡み合いながら、同じ世界感を共有する「モンスター・バース」という、まるでマーヴェルのような流れが予定されています。
 
時は1973年。ヴェトナム戦争からアメリカが撤退する年です。南太平洋に浮かぶ道の島、髑髏島。地質学的な調査という目的のもと、学者、カメラマン、傭兵、米軍で構成された遠征隊が島へ。島を人の手から遠ざけてきた嵐を抜けて侵入した彼らは、そこはキングコングをはじめ、恐ろしい怪物たちが住む場所だった。
 
戦場カメラマンのヒロイン、ウィーバーを、『ルーム』でマサデミー賞主演女優賞ノミネートしている『フリー・ラーソン』。米軍の士官をサミュエル・L・ジャクソン。遠征隊を守る傭兵コンラッドを、マーヴェルの『マイティ・ソー』のロキ役でおなじみトム・ヒドルストンが演じています。

f:id:djmasao:20170331181303j:plain

監督は、デイミアン・チャゼル並に若い32歳のジョーダン・ボート。胸まである長い髭を伸ばしているエキセントリックな外見で、日本好きでもあります。この規模のハリウッド大作は初メガホンです。
 
それでは、3分間の短評、今週もいってみよう!

僕は怪獣映画にそれほど思い入れはないんですが、今回の「キングコング」は、そんな僕ごとき映画好きのちっぽけな映画体験など超越してきました。まず一言、感想を叫ぶなら、「スゲー!」ですね。最初こそ、いつものように分析してやろうという、ある種斜に構えたスタンスで観ていたんですが、物語が進むに連れて、もうただただ唖然とするばかり。あの密林の中で、僕のなけなしの冷静な審美眼は捻り潰されたので、鑑賞後も血湧き肉躍って沸騰した頭脳をクールダウンさせるのが大変でした。
 
魅力は3つです。ひとつは、モンド映画っていう、かつてあった猟奇系のモキュメンタリーのジャンル映画にも似た、未知なる世界を覗く探検ものの味わい。もうひとつは、映画ファンなら誰もが思い浮かべる、コッポラ『地獄の黙示録』的戦争映画のルックとギミック。そして最後は、もちろん怪獣映画ならではの次から次へとスクリーンに登場するモンスターたちのおどろおどろしさ。普通なら、このひとつひとつで十分に映画が撮れるほどの魅力を全部ぶっこんだうえで、しっかりバランスも保っている。すごいです。

世界残酷物語 [DVD] 地獄の黙示録 特別完全版 [DVD]

時代設定が、脚本のうえでも、演出のうえでも、肝でした。1973年と言えば、ベトナム戦争からアメリカが初めて撤退をした年。事実上、アメリカ史上初の負け戦と言ってもいい。泥沼のゲリラ戦で満身創痍の米軍の中には、だんだん自分が何のために戦っているのかわからなくなる兵士も多くいて、今の言葉でいうPTSDを描いた映画も結構あるわけです。この作品だと、パッカード士官ですね。戦争でのカタルシスを得られなかった徒労感から心がもぬけの殻になり、むしろ戦地に留まりたいという欲求が芽生えて、「やった!」まだ戦えるとばかりに髑髏島へ喜び勇んでいく。でも、そんな士官と故郷が恋しい部下だけだと、心理的な厚みが弱いんですよ。そこに、傭兵、つまりは軍隊に属さない民兵という外部の視点があり、戦場カメラマンで反戦運動に身を投じてきたヒロインもいる。島を衛星写真で見つけたアメリカ政府特殊研究機関に所属する地質学者もいる。70年代はさらに、あのミュージシャン雅(MIYAVI)も実はいきなりプロローグで登場します。日本兵小野田寛郎(おのだひろお)がフィリピンから帰国したのが1974年なんですけど、そのことを髣髴とさせるようなエピソードとキャラクターも用意されていて、それぞれ立場も思惑も熱量も違って、人間描写がきっちりできている。こういう奥行きをすべて入れられるのが、70年代なんですよ。『シン・ゴジラ』もそうでしたけど、怪獣を通して、あの場合は現代日本を語るという。こちらは、アメリカです。

シン・ゴジラ

でも、怪獣映画だから、そんな人間の話はたくさん要らないんだけどなと思っているあなた! 大丈夫です。今言ったような、そこそこ人数も多くてややこしいお話の前提を、ボート監督はサックサク処理していきます。この辺の手際こそ褒められるべきですね。下手な人がやると、30分は尺が伸びますよ。アクションと最小限のセリフで、さっさと島へ潜入です。ここでヘリ登場です。これがもう決定的に『地獄の黙示録』ですよ。僕はいつ「ワルキューレの騎行」が鳴り出すかと思ったくらい。あのヘリは、ベトナム戦争で実際に活躍したヒューイというモデルなんですけど、音響チームは、ヒューイが展示されている博物館まで出かけていって、そのプロペラの音をサンプリングしたっていうんだから驚きですよ。逐一挙げないけど、こういうオタク的なマニアックすぎる小道具大道具へのこだわりがわんさとあります。ロケ地もしっかりしていて、秘境を探検しているおっかなびっくり感はバリバリ出てました。コングをはじめ、怪物たちこそCGですけど、コングの毛並みなんて、『スター・ウォーズ』を手掛けたことで知られるILM社が1年かけて作り上げた、実は手作り感あふれるVFXなんだとか。気が遠くなりそうな手間!
 
でも、こういう制作意図や背景をすっかり忘れさせて夢中にしてくれるのが、怪物たちの存在感です。種類が多いのがまた嬉しいんですよ。とにかくみんなデカい。キモい。おっかない。ここで大事なのは、彼らには彼らの生態系というか食物連鎖のような秩序があって、そこにコングも含まれてるってことです。だから、怪獣同士もバリバリ戦うんだけど、そこは人間は指を加えて見ているしかないんです。映画のコピーにもあるように、人間なんて最弱です。ちょこちょこ動き回って、ある程度はベトナム戦争時の武器を駆使して立ち向かうんだけど、健闘むなしくというか、まったく思い通りにはなりません。
 
このコントロールできない自然の猛威と人間の関わりは、やっぱり出ました、宮﨑駿でしょう。島をいつも囲んでる低気圧はラピュタの「龍の巣」を思い出すし、コングのまさに神のような存在感とか、現地での慎ましやかなあの人達とか、自然と人間の本来の調和とそれを乱す要因なんかは、これまた出ました『もののけ姫』を思い出してしまいます。そもそも、コングが史上一番デカくて迫力満点。109シネマズ大阪エキスポシティのあのIMAXの倍くらい身長ありますから。そして、まだ1作目だからなのかもしれないけど、こいつ人を見てるなっていうか、人間の心を見通してるなっていうのが態度に出てるのがいい。あんまり出しちゃうと、もはやコミカルになっちゃうだろうし。
 
とまぁ、キングコング好き、怪獣映画好きなら狂喜乱舞する細かいネタや、『地獄の黙示録』的戦争映画のマッドな領域が好きな人もどっぷり入っていける要素満載なのに、ボート監督はめっぽうバランス感覚のある人なんですよ。能ある鷹は爪を隠すで、ドヤ顔をせずにサラッと進めていく。でも、よく見れば、手が込みまくってる。プロローグの演出が抽象化しすぎじゃないかとか、ヘリの数おかしくないですかとか、島のサイズ感が伝わってきませんとか、知らない間に囲まれすぎじゃないかとか、つっこむ人もいるでしょう。でも、そんなのは、丸ごとコングが投げ捨てちゃいますんで、とにかく安心して劇場へ行って、あなたも「スゲー!」って叫んじゃってください。

さ〜て、次回、4月7日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ムーンライト』です。マサデミー賞発表翌週に、アカデミー賞作品賞を短評するという流れ。悪くないですね。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!