京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『オリエント急行殺人事件』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年12月15日放送分
『オリエント急行殺人事件』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20171215173618j:plain

イスタンブールからイギリスのカレーへ。ヨーロッパを駆け抜ける豪華寝台列車オリエント急行で、アメリカの大富豪ラチェットが刺し殺された。乗り合わせていたベルギーの名探偵ポワロは、大雪で列車が立ち往生する中、目的地以外に共通点のない乗客と車掌あわせて13人を容疑者として尋問していく。
 
ポワロ以外にも、ミス・マープルなど人気シリーズを生み出し、ミステリーの女王と呼ばれるアガサ・クリスティー。彼女が1934年に発表した原作小説はミステリーでも最も有名な結末のひとつでしょう。世界各地で翻訳されています。映画化は、まず74年。イングリッド・バーグマンショーン・コネリーなどの豪華キャストを起用して大ヒット。アカデミー賞6部門ノミネート。名作の誉れ高い1本でした。さらには、NHKで放送されて日本でもお茶の間で人気だったイギリスのドラマシリーズの映像化も忘れがたいものがあります。どちらも簡単にレンタルできるので、見比べてみるのもいいでしょう。

 

オリエント急行殺人事件 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD] 名探偵ポワロ 全巻DVD-SET

そして、今回はケネス・ブラナーが製作、監督、そしてポワロの三役を務めます。他に、ジョニー・デップデイジー・リドリージュディ・デンチペネロペ・クルスなど、今回も主役級の役者が揃い踏み。『エイリアン・コヴェナント』『ブレードランナー2049』に続き、リドリー・スコットがこの作品でも製作に関わるという、秋冬リドリー祭り開催中ということも付け加えておきます。
 
それでは、僕野村雅夫が「灰色の脳細胞」を駆使した3分間の映画短評エクスプレス、今週も出発進行!

物語の面白さについては、もう折り紙つきなので、まだ内容を知らない人は、まずは何も考えずに触れてみてください。「そういうことかぁ」なんつって、ストーリーに驚きながら楽しめるはずです。ただ、何らかの形で結末や主人公ポアロのキャラクターを知っている人が大勢いるわけです。特に全70話のドラマシリーズは原作すべてを網羅して、再放送もしょっちゅう。デヴィッド・スーシェという役者が演じてきた確固たるポアロ像がもうあるわけですよ。どうしたって比べちゃう。僕もそうでしたもの。
 
そこで、新しいポアロを生み出すために、製作チームは脚本から綿密に準備しました。リドリー・スコットの息のかかったマイケル・グリーンの起用。彼は『セックス・アンド・ザ・シティ』などTVシリーズでならした人なんですが、今年は『LOGAN/ローガン』『エイリアン:コヴェナント』『ブレードランナー2049』、そして今作と4本の大作を手がけてる。乗りに乗ってるだけあって、新しいイメージはしっかり作れていると思います。まず、旧来より遥かにがっしりしていて、アクティブ。なんなら、ハードボイルド。よく動く。愛らしい老紳士じゃなくて、凛々しく肉体的にも頼れそうなんですよね。胸板厚い! 髭も髪もフッサフサ。その分、もともとある自信家キャラも増幅されていて、自信過剰なくらい。「物事には善と悪があり、その中間はない」だなんて言い放つ始末。このあたりのイメージ植え付けを、本編に入る前、オリジナルのイントロダクション、エルサレムのシーンでサッとやっちゃう手際の良さ。さらに、そのプロローグでは、今まさにトランプ大統領がトリガーを引いて問題になっているあの土地の3つの宗教・価値観というモチーフまで入れ込んでいる。これ、後から考えると、明らかなフリでしたね。

f:id:djmasao:20171215190404j:plain

クライマックスの謎解きの構図を思い出してください。乗客たち、つまり容疑者たちがズラッと長テーブルに並んでいる絵画的なやつ。どう見たって『最後の晩餐』ですよ。この中に裏切り者がいるっていう、聖書のあれ。つまり、今回のテーマは、宗教的な倫理観と、近代国家が秩序維持のために生んだ法律、このふたつの価値とどう折り合いをつければいいんだという苦悩である、と。ポアロも揺れ動く。善悪は単純に割り切れるものではないと気づいて成長する。これが、今回の映画化の僕は一番のポイントであり独自性だと思います。
 
ポアロの人間的成長って、ドラマシリーズには薄い要素でした。老紳士でしたしね。「オリエント急行」ってのは、原作では70以上ある話の中で8作目なんですよ。だから、ポアロがこれぐらい若くてキビキビしててもいいだろうという解釈でしょうね。ということは、人間的にもまだまだ成熟する余地のある存在であると。「おっす、俺、世界一の名探偵ポアロ」っていう雰囲気で登場しただけに、この「気づき」の要素はフレッシュに感じました。謎解きをしてから、彼自身も良心の呵責に苛まれますからね。実はこれ、7年前に制作されたイギリスTVシリーズと似た設定なんですが、こちらの若ポアロは、一通り悩んだら、「わいはポアロや、名探偵ポアロや!」ってな具合にサクッと復活してますね。それだけ、まだ若いと。

f:id:djmasao:20171215190446j:plain

ただですね、僕は今作、どうもまだしっくりは来ていないんです。ケネス・ブラナー監督も出ていた『ダンケルク』と同じ65ミリフィルムで撮影された、細密かつ迫力ある画作りとか、アップを多用して達者な役者たちの細かい演技を堪能できるとか、良いところはたくさんあります。乗車する時のカメラ横移動で列車を舐めるようなカメラワークも格好良かった。けれど、全体的に演劇的なバシッと決まった派手な構図が僕は多すぎるなと感じます。乗客たちの心理、背景、そして誰がどんな嘘をついているのか、じわじわ探るのが醍醐味なのに、この若ポアロはどうも全体に性急で、推理のプロセスを端折っていきなり核心をついた質問を被疑者にぶつけるもんだから、こちらがついていけない。

f:id:djmasao:20171215190622j:plain

さらに、アクションとケレン味、絵的な勢いで突破しようとしている箇所が目についたのが、僕はゲンナリ来ました。ジョニー・デップケネス・ブラナーのケーキを突きながらのやり取りなんて最高だったのに、ああいう絵は地味だけど味わい深い場面が、事件が起きて以降、極端に減るんですよねぇ。
 
監督のインタビューを読むと、同時期に舞台で取り組んでいたシェイクスピアを意識したという発言があります。そういう舞台映えしそうな重厚な画面構成が、平たく言えば大げさで作り物臭さ、演劇感を出しすぎて、それが若ポアロのキビキビしたアクションなんかと噛み合っていないんじゃないかと思うんです。
 
とはいえ、やはりこれだけの役者陣の演技合戦はそれだけで興奮します。次は『ナイルに死す』。エジプトにも最高のキャストが集うことを願っています。

さ〜て、次回、12月22日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』です。今年もこの時期がやってまいりました。僕も、誰が呼んだか大阪エキスポシティの大仏IMAX次世代レーザーで拝んできますよ〜。そう言えば、デイジー・リドリー2週連続ですね。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

『探偵はBARにいる3』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年12月8日放送分
『探偵はBARにいる3』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20171208234753j:plain

大泉洋扮する探偵と、松田龍平演じる大学院生の相棒高田が、札幌ススキノを舞台に事件を解決に導く凸凹バディーシリーズ。今回は高田の後輩からの依頼が発端。女子大生の彼女と連絡が取れないとのことで調査すると、怪しげなモデル事務所の美人オーナー、マリに辿り着きます。さらに、彼女の背後には、表と裏双方から社会を牛耳り始めている北条という黒幕が。探偵たちは知らぬ間にマリの罠にはまり、事態は見る間にのっぴきならないものになっていく。

探偵はバーにいる (ハヤカワ文庫JA) 探偵はBARにいる3 (ハヤカワ文庫JA)

例によって東直己の「ススキノ探偵シリーズ」が原作ではあるんですが、この映画はその第1作からいくつかネタを拝借しているものの、実質的には初のオリジナル・ストーリーで、ノヴェライズが出版されています。監督はこれまでの橋本一から吉田照幸に交代。『あまちゃん』や、このコーナーで扱った『疾風ロンド』の人ですね。脚本はいつも通り古沢良太。今回のヒロインとなるマリには、北川景子が起用されました。その他、前田敦子、志尊淳、リリー・フランキーなど初参加陣に加え、田口トモロヲ松重豊安藤玉恵などのレギュラー脇役陣も依然として存在感を発揮しています。
 
評の前に参考情報として加えておくと、これまでは、PG12という映倫の指定(小学生までは親に寄り添ってもらってくださいねっていう枠)が付いていたんですが、今回はG、つまり誰でも観ることができる一般公開となっています。
 
それでは、3分間の映画短評、今週もいってみよう!
 
まずはこのシリーズの特徴を整理しますね。
 
ハードボイルドというジャンルがあります。ミステリーの分野では、客観的でドライな刑事や探偵が、推理よりも行動で事件を片付けていくのが特徴。このシリーズの場合は、ハードボイルドを気取ってはいるものの、なんだかんだで「浪花節だよ人生は」ってな内面が隠しきれない、言わば、固茹でになりきれない半熟卵、「ハーフボイルド」なんですね(そう言えば、東直己の小説にも、「ハーフボイルド」って言葉がタイトルに踊るススキノ・スピンオフがありました)。平たく言えば、この探偵はいつもカッコつけてる2枚目半。ルパン三世シティーハンター、あるいはコミカル路線の007作品にも通じる、あの笑いがそこかしこに漂っています。

新装版 ススキノ・ハーフボイルド (双葉文庫) 探偵はBARにいる

さらに、映像的な味付けにも特徴が。手持ちカメラやスローモーション、そして画面のギラッとした色味など、松田龍平のお父さん、松田優作の出ていた一連の作品やら、東映実録ヤクザものやらを髣髴とさせるような、70年代に量産された古き良き邦画大人向け娯楽作品のテイストを受け継いできました。大人向け娯楽作だから、エロスもバイオレンスも、裏社会の様子も、わりとしっかりまぶしてあった。主題歌も、カルメン・マキ鈴木慶一ムーンライダーズでしたからね。渋い! こういったすべての要素が、2010年代にあっては、レトロで懐かしくもフレッシュだった。それが注目された要因だろうと思います。
 
で、この3作目。シリーズ初のクリスマス・お正月タイミングの公開ということもあり、恐らくはもっとお客さんの裾野を広げていこうという思惑も働いたのでしょう。監督を交代して、明らかな変化がありました。それが奏功したのか(僕はそうは思ってませんが…)、公開初日からの3日で16万人を動員。これまでで一番好調な滑り出しです。興行的には、ね。映画も商売ですから、それで良いと言えば良いです。ただ、僕はこのシリーズの熱心ではないが確実な一ファンとして釘を差しておきたい。3作目のこのテイストを続けると、今後飽きられやしませんか? そんな懸念を持っています。
 
話の構造は毎度のこと一緒なんで、そこは敢えて触れません。何が変わったって、演出です。これまでは、R指定のひとつ手前、PG12という映倫の指定が付いていて、小学生までは親に寄り添ってもらってくださいねっていう枠だったのが、今回はG、つまり誰でも観ることができる一般公開となりました。実際、性描写もバイオレンス描写も、一部を除いてマイルドになっています。喫茶モンデのウェイトレスの露出度も下がってるし、シリーズで初めて探偵が依頼人のマドンナとベッドを共にするというのに、肝心の描写はすっ飛ばしてる。喧嘩のシーンもわざわざタイマン勝負の場面を用意したのに、早回しを使った撮影方法が機能していなくて迫力が弱い。トレードマークだったギラッとした画作りも、妙にそつがない、要するに特徴がないものになってる。

f:id:djmasao:20171209000146j:plain

代わりに(僕に言わせれば必要以上に)増幅されてるのが、コミカルな要素。あくの強いサブキャラクターも多いし、ススキノが舞台のご当地映画なんで、シリーズならではのお決まりの笑いがそもそも作りやすいんですね。それはむしろシリーズの財産であり魅力であって、決して悪いことじゃないんだけど、安易にそれを膨らませて、安定の笑いに頼るのは褒められたことじゃないでしょう。
 
例外もありました。冒頭のシーン。これまでで一番探偵が探偵っぽいことをするんです。つまり、「この中に真犯人がいる。それはあなただ」みたいなくだり。あれは、面白かったんですよ。これまでの決まり事をひっくり返したと一旦は見せかけるような展開だから。まさにつかみはOK。そして、努力なんか見せたことのない相棒の高田が妙に汗かいてるのも良かった。でも、あとはですね、違うんです。これまであったお約束シーンを大げさにした上に数を増やすばかりでは、シリーズのファンほど食傷してしまいますよ。
 
一方で、音楽は今回も70年代アングラ日本語ロックのはちみつぱいが採用されていて渋みがある。だから、全体として演出のバランスがおかしなことになっているんです。
 
原因は監督の交代です。もし製作陣がより幅広いお客さんを獲得しようと色気を出して吉田監督を起用したんだとしたら、「その近視眼的な発想はどうなんだ」と僕は言いたい(見当ハズレな僕の邪推ということもありえますが…)。たとえば、このコーナーで今年扱った『ローガン』を思い出してください。あれは真逆の発想で作られていました。アメコミ原作なのに、R指定を付けてまで、映画としての完成度を優先して評価された。翻って、このシリーズはもともと大人向けなんだから、12歳以下をなぜ取り込む必要があるんでしょうか。もしそうしたいなら、ルパン三世の『カリオストロの城』ばりに、事件の内容や探偵のキャラクターをうまく改変する必要があるんだろうけど、このシリーズにおいて、それは時期尚早、あるいはそんな必要はないと僕は思います。

さ〜て、次回、12月15日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『オリエント急行殺人事件』です。先日、誕生日にゴディバのチョコレートをいただきまして、その品はなんと、この映画とのコラボでしたよ。Funky802 Special Weeksにふさわしい話題作。ネタバレも何も、オチは多くの人が知っていても、それでもなお面白いことを願いながら、あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

 

映画『火花』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年12月1日放送分
映画『火花』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20171201134437j:plain

中学時代の同級生とスパークスというコンビで漫才をしている徳永。芽が出ずにくすぶっていたところ、営業先の熱海の花火大会で中堅の先輩芸人、神谷と出会います。「あほんだら」というコンビでぶっ飛んだ笑いを追求する神谷のスタイルに惚れた徳永は、その夜に弟子入りを志願。「俺の伝記を作ってくれるなら」という条件を受け入れた徳永と神谷の、コンビもキャリアも超えた芸人同士の熱い友情関係が始まります。漫才を愛し、漫才にすべてを捧げるふたりの、10年にわたる交流の変遷を描く青春絵巻です。
 
原作は、言わずと知れた又吉直樹芥川賞受賞作。昨年、Netflixオリジナルドラマ全10話が配信スタートして、こちらにはCiao! MUSICAお馴染みの白石和彌監督も関わっているんですが、それに続いて、今度は板尾創路監督のメガホンによって劇場映画化。徳永を菅田将暉。神谷を桐谷健太が演じる他、徳永の相方に2丁拳銃の川谷修士、神谷の同棲相手に木村文乃が扮しています。
 
それでは、中学時代に漫才コンビを結成して、修学旅行先の箱根の旅館の楽屋で緊張に打ち震えていた僕がどう観たのか。3分間の映画短評、今週もいってみよう!

 板尾監督がビッグバジェット作品で初メガホンということで、どんな映像から始まるのか、それがまず気がかりだったんですが、いきなり僕は心掴まれました。黒い画面を2つの花火が上っていく。そこに、スパークスのふたり、徳永と山下がかつて交わした言葉だけが重ねられる。これは原作にない場面のようですが、とても映画的な叙情があってすばらしいなと感心しました。漫才師として一花咲かせたいふたりの夢を、これだけで想起させてくれるわけです。だけど、花火は不発に終わるかもしれない。うまく弾けたとしても、それはもっと大きな花火にかき消されるかもしれない。それでも、ふたりは闇に向かって自分たちを燃やして光を放った。タイトルでもある火花というメタファーを、簡単に実物を見せられてしまう映画で見事に表現するオープニングでした。これはお笑いという特殊な世界をモチーフにしてはいるけれど、エッセンスとしては、人生を何かに捧げる、夢中で何かを追い求めて生きる若者の葛藤と挫折を描いた、普遍的な青春物語なわけで、その切なさの予感をのっけからさりげなく映画的に提示してみせる板尾監督の手腕には目を見張るものがありました。

 

 小説と違って、そのまんまを生き生きと見せられるという映像の特性を、この物語で最大限に発揮できるのは、もちろん漫才のシーンです。だから、そこはたっぷり見せる。監督も漫才師なわけだし。原作以上にキャラクターを膨らませた徳永の相方山下に、2丁拳銃の修士さんというプロを配役した意図もそこにあるはずです。この映画で誰もが固唾を呑んでしまうのが、クライマックスで披露される「思ってることと逆のことを言う漫才」です。字面でしか表現できない小説を映画なら超えられると踏んだからこその名シーンでした。

f:id:djmasao:20171201165825j:plain

 でも、僕が本当に感動したのは、その後です。挫折した徳永と神谷が、10年前にふたりの出会った熱海に戻り、例の居酒屋で話し込むところ。漫才はひとりで作ってるんじゃない。まずふたり以上いないとできない。売れる売れないという淘汰はあるけれど、売れた奴らも、売れなかった奴らのがんばりがあったからこそ輝けるわけで、そう考えれば、テレビに出られなかった奴らだって絶対に無駄じゃないんだという趣旨の会話が繰り広げられる。これって、音楽にも、僕らラジオパーソナリティーにも、いや、どんな人にも当てはまる人間への肯定じゃないですか。10年経って、ふたりがその境地に辿り着くことに僕は涙しました。そう。「生きている限り、人生にバッドエンドはない」という強いメッセージです。冒頭で徳永と山下が闇夜に花火を打ち上げたことは無駄じゃなかったんです。

 

 シーンによってはソフトフォーカスがトゥー・マッチだとか、伝記の件がうやむややなとか、話運びのリズムがうまくいっていないところがあるんじゃないかとか、評をまとめる前は色々と茶々を入れようと考えてたんですが、思い返した時に浮かんでくる今挙げたシーンたちのほとばしりが強すぎて、結局のところ心を揺さぶられている自分に気がついたしだいです。本来なら評論としてはもっと冷静であるべきですが、僕はこの作品を劇場で観たことにまだ興奮しているのが現状です。

 

 特に神谷に対してだと思いますが、「感情移入しづらい」との声が出るのもわかります。ただ、僕はあの「お前、それダメだろ」って行動に対して、倫理観を振りかざす前に、人間臭さを感じて憎めないままなんです。

 いずれにしても、物語そのものに惹かれました。原作にも、そしてタイムスパンがまったく違うNetflixのドラマにも触れたい。また個人的に比較しながら、こいつらにまた会いたい! そう思いましたね。


さ〜て、次回、12月8日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『探偵はBARにいる3』です。僕がかなり好きなシリーズ最新作来た! 大泉洋さん、そして松田龍平さんとは、先日の大阪キャンペーンでご一緒したので思い入れもあるのですが、つとめて冷静な眼で改めて鑑賞してきます。観たら、あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

探偵はBARにいる 探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点

 

『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年11月24日放送分
KUBO/クボ 二本の弦の秘密』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20171124180925j:plain

江戸時代でしょうか。もう少し前でしょうか。遠い昔の日本。主人公のクボは、魔法の三味線で折り紙を操る片目の少年。大道芸で日銭を稼ぎながら、身体の弱い母親とふたりで暮らしていました。不吉な子供だと一族から命を狙われていたクボは、ある日、邪悪な伯母たちに見つかって襲われるのですが、母親が最後の力を振り絞って魔法をかけたことで、命拾いをします。ひとりになってしまったクボを助けるのは、母の力で命を吹き込まれた猿。伝説の3つの武具と自分の出自を探す旅に出ます。その道中、記憶を失ったクワガタの侍も仲間入りするのですが… 勇敢で心優しい少年のストップモーション冒険活劇アニメです。
 
制作はコマ撮りアニメに定評のあるスタジオ・ライカ。監督は、その代表で日本びいきのトラビス・ナイト。今年のアカデミー賞では、アニメ映画賞と視覚効果賞に堂々のノミネート。イギリスのアカデミー賞では、『ファインディング・ドリー』『モアナ』『ズートピア』を退けて、アニメ映画賞を獲得しています。僕は字幕版を鑑賞しましたが、サルをシャーリーズ・セロン、クワガタをマシュー・マコノヒーが演じるなど、声優陣も充実していますよ。
 
それでは、恒例の3分間の映画短評、今週もいってみよう!

たとえば琵琶法師がかつて『平家物語』をストリートで弾き語る存在だったように、クボ少年はストーリーテラーとして、音楽と語り、そして折り紙を使った伝説の武士とその敵となる怪物というキャラクターで民衆を惹きつける存在として登場します。彼のエンターテナーっぷりを見せつけるハイライトが始めの方に用意されているんですが、ここがいきなり凄まじいんですよ。クボが三味線を奏でると、観客たちが取り囲むサークルの中に積まれた折り紙が見る間に折られてミニチュアの武士が現れる。それが動き出したと思ったら、今度は火を吹くめんどりがまたスルスルとひとりでに折られていく。クボによって魂を吹き込まれた折り紙が路上で生きているかのように戦いを繰り広げる。僕は今「魂を吹き込む」という表現を使いましたが、これこそアニメーションの本来の意味。それだけだと動かないものにアニマという魂が与えられて動き出すのがアニメーションなんです。

f:id:djmasao:20171124211317j:plain

この作品はコマ撮りをベースにCGを組み合わせて作られています。コマ撮りというのは、原初的な特撮で、1秒あたり24コマ、それだけだと動かないキャラクターを少しずつ動かし、そのコマを高速で再生することで動いているように見せる手法です。実際に人形を動かしてるんですね。このライカスタジオは世界トップレベルのテクニックと膨大な労力を惜しみなく投入しているから、動きはとても滑らか。でも、それでも、フルCGアニメとはどうあがいたって違う、作り物感が残るんです。不完全なんです。その完全じゃないってことが実はコマ撮りの大きな魅力で、たとえば僕らが人形浄瑠璃を観る時と同じように、観客のアクティブな想像力が入り込む余地も出てくる。この作品では、手のひらサイズの人形が、さらに小さな折り紙人形を動かしてストーリーを語るところを僕らが観ているという入れ子構造になってるんです。スタッフのインタビューを読むと、「不完全さの中に存在する美というのは、わびさびにつながる価値観じゃないか」と言ってる。舞台を日本にするだけじゃなく、日本文化の価値まですくい取っているというリスペクトぶり。嬉しいじゃないですか。

 

クボに戻ると、彼の大道芸にはいつもエンディングがない。実は彼にもわからないんですよ。なぜなら、彼が物語っているのは、彼も知らない、自分ののルーツの話でもあるから。そこで、旅に出るわけです。

f:id:djmasao:20171124211439j:plain

三味線というのは、一の弦は父親、そして二の弦は母親にたとえることがあるらしいんですが、言わば三の弦のクボはまさにその二本の弦の秘密を探り当てようとする。この映画ではお盆の灯篭流しが大事なモチーフとして出てきます。クボは三種の神器ならぬ三種の武具を巡るイニシエーション的な旅の果てに成長し、この映画の終わりに、自分の命の先祖からの流れを知る。そして、そのルーツが彼が語ってきた物語の結末、死とは何か、さらには僕ら人間にとって物語が必要な理由ともリンクする。しかもそれは、ここ日本を中心とした東アジアの死生観を反映している。僕ちょっとお盆の意味を「そうだそうだ」って考え直しましたもん。そんな作品がアメリカで作られた嬉しさときたら。

 

とまぁ、作品全体のテクとか構造について話してきましたけど、そんな小難しいこと抜きに、誰が観てもワクワク面白い映画です。浮世絵や版画のような構図。黒澤映画のアクション。宮崎駿的ダイナミックなファンタジー展開が一緒になった日本昔ばなしを、どうぞあなたも劇場で!

予告にもチラッと出てきますが、気の遠くなりそうな労力の一端を知ることができるこのメイキングを見るとさらにこの映画が好きになるはず。

 

ただ、クボっていう名前はないわ! 言わずもがなだけど、ファースト・ネームじゃないやん! とりあえず、文句はそれだけ! 「三種の武具の意味ってあれだけ?」なんて声があるけれど、あれはイニシエーションだから。アイテムそのものよりも、そのプロセスに意味があるんじゃないでしょうかね。

さ〜て、次回、12月1日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『火花』です。僕、結局原作は読んでないんですよ… Netflixのドラマはチラッと観たってくらい。そんな僕がガツンと食らったりするものなのか? 802スタッフにも「やられた〜」って人が結構いっぱい。観たら、あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく!  

『ザ・サークル』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年11月17日放送分
『ザ・サークル』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20171117162052j:plain

利用者30億人という、世界一のシェアを誇る巨大SNS企業サークル。大学を出てからも満足のいく仕事に就けずに地元でくすぶっていたメイは、サークルの幹部として活躍していた大学の同級生から中途採用の面接に誘われ、見事パス。ある事件をきっかけに、社内でカリスマ経営者ベイリーの目に留まった彼女は、サークルの新しいサービス「シー・チェンジ」のモデルケースに抜擢されます。これは、あちこちに仕掛けられた高性能の超小型カメラによって、自分の24時間をネット上に公開するというもの。メイは瞬く間にネットアイドル化し、1000万人以上のフォロワーを獲得するものの、プライバシーをめぐる事件が起こって… という、ネットワーク社会の相互監視をテーマにした作品。
 
メイを演じるのは、実人生においてTwitterのフォロワーが2500万人というエマ・ワトソン。経営者ベイリーには、トム・ハンクスが扮します。監督は、ジェームズ・ポンソルト。僕と同い年の39歳、まだ長編2本目の俊英です。これ、2013年にアメリカで出版された原作がありまして、作者はデイヴ・エガーズ。今回、彼も脚本に参加しています。トム・ハンクスがこのエガーズを高く買っている模様で、エガーズ原作の映画への出演は、『王様のためのホログラム』に続いて2度目ですね。
 
それでは、僕もしっかり劇場で監視してきましたんで、恒例の3分間の映画短評、今週もいってみよう!

なんかアメリカであんまり受けが良くなかったとかいう前情報もあるようですが、そうやってSNSでの評判を映画を観る前からチェックする行為そのものも、観ればためらわれてくるような、とても居心地の悪い作品です。
 
僕は今回の宣伝コピーがなかなかいいなと思ったんですよ。「『いいね!』のために、生きている。」なんて、やだやだ、そんなの。僕なんか死んでも言いたくないけど、楽しかったことを僕らはすぐさまSNSにアップしてますよね。なんなら、流行語大賞にノミネートしている「インスタ映え」なんて、もう「楽しかったこと」ってやつを演出して作ろうっていう現代人の承認欲求をまんま表した言葉なわけです。子どもの頃、誰しもが一度は言っているだろう言葉に「見て見て、こっち見て」ってのがありますが、それをバーチャルに肥大化させたのがSNSの存在意義のひとつなわけで、そりゃ居心地悪いですよ。極端なことを言えば、僕らはいくつになっても「誰かに見てもらいたい」し、キツい言葉を使えば「誰かに監視されたい」と、心のどこかで思っている。ただ、その潜在的な欲望を、徹底した技術力とシステムで、民間企業が実行した場合、そこにあんぐり口を開けるのは、ユートピアではなく、ディストピアかもしれないですよねっていうお話です。僕らはもうSNSを使わないっていう選択肢はないところまで、たった10年弱で来てしまいました。街中いたるところに監視カメラだってあるわけです。だからこそ、気味が悪いし、後味も悪い作品なんですよ。
 
ちなみに小説では映画以上に後味の悪い結末を迎えるようですが、今回のエマ・ワトソントム・ハンクスというキャスティングが僕は見事だったと思います。子役からトップ女優の現在まで、実人生を衆人環視の下で生きてきたエマと、泣く子も黙る名優としてデキた役をよく演じるトム。このふたりが、それぞれにそのイメージとギャップを活かせる役柄になっていたし、ここは作品を評価しない人もうなずけると思いますが、実際にとても好演しています。特に毎週金曜日に行われるサークルの定期プレゼンのシーンが良かった。ストーリーラインを文字でなぞるだけだと、「そんな飛躍ありえるのか!?」っていう展開も、あのうまいプレゼン能力でだまくらかされる感じは、今回の映画化の醍醐味と言えるでしょう。
 
サークルという巨大企業が、気づけば新興宗教のようになっていく、あの取り返しのつかなさ。その流れをポンソルト監督も適切なテンポで映像化していたと思います。惜しむらくは、心の闇をえぐり切れなかったところかな。各キャラクターの心の距離感はそこそこ見えたんですが、その虚無感までは可視化できなかったと言われても仕方がないでしょう。
 
ただ、最後に擁護するなら、あの幕切れは、もっと「ざまあみろ」なカタルシスを多くの観客は求めていたと思うんだけど、あえてそうしなかったこと、つまり、それこそ趣味のカヤックに乗っているメイの危ういバランス感覚が現代人そのものという風刺だと捉えれば、この映画のメッセージそのものという気がするので、僕はむしろ気に入っているところです。
 
観る価値はありますから! 評判なんてどこ吹く風で、SNSを使っている人こそ、観に行って考えてみてください。

リスナーの評を眺めていると、結構割れていまして、テーマはうなずけるんだけど、どうも脚本が詰めきれていないんじゃないかとか、肝心の技術の見せ方がどうなんだってつっこみたくなったという意見が多かったです。

 

確かに、あの小型カメラが出てきた時の、「こんなもんか!」感は否めないですね。でも、僕はその感じも含めて、「あり得そう」と思ってしまった口。脚本も、ところどころ、何かをすっ飛ばしたような一足飛びな展開が残念ではありました。がしかし! それでも僕はメイのストーリーにしっかり寄り添って観てしまいました。途中、サークル社の旗が日の丸に見えた時がまた恐ろしさ倍増でしたよ。

さ〜て、次回、11月24日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』です。気の遠くなりそうなプロセスを経て完成させたんだろうストップモーション、いわゆるコマ撮りのハリウッド・アニメは、まさかの日本が舞台! 字幕で観る? いや、吹き替えか? 迷いつつ、観たら、あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく!  

 

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年11月10日放送分

f:id:djmasao:20171110155747j:plain

アメリカの一見静かな田舎町では、児童失踪事件が頻発していた。ある大雨の日、内気な少年ビルの弟も、近所の路上に大量の血痕を残して姿を消した。何とかできなかったのか。自責の念を感じていたビルの前に「それ」が姿を現し、以来彼は恐怖に取り憑かれてしまう。どうやら「それ」を目撃しているのはビルだけではないらしく、学校で日陰者として生きるいじめられっ子の友人たちも皆、それに遭遇していることが判明。彼らは夏休みを利用して、ビルの弟を捜索しながら、事件の全体像に迫るのだが…

シャイニング (字幕版) スタンド・バイ・ミー  (字幕版)    ショーシャンクの空に(字幕版)

 『シャイニング』『スタンド・バイ・ミー』『ミザリー』『ショーシャンクの空に』など、映画化作品に名作の多い作家スティーブン・キング。90年にアメリカでテレビドラマとして映像化された『IT』が、今回27年ぶり(この数字が物語内容と符合していて不気味!)に劇映画としてリメイクという流れ。

Mama (字幕版) 【Amazon.co.jp限定】シンプル・シモン(ポストカード付) [DVD]

監督はアルゼンチンのアンディ・ムスキエティ。やはりホラー映画の『MAMA』以来、これが2本目の長編作品です。予告でも出まくってるわけなんで言っちゃいますけど、「それ」aka不気味なピエロのペニーワイズを演じているのは、スウェーデンの俳優ビル・スカルスガルド。2010年の『シンプル・シモン』という、僕の好きな映画で主役シモンを演じたのが、主演デビューのはず。まだ公開中の『アトミック・ブロンド』でも、シャーリーズ・セロン演じるスパイの作戦を手引する東側のスパイとして好演していました。結構、イケメンなんですけど、見る影もないくらいにピエロになりきってます。文字通りの怪演!
 
それでは、映画を観終えて手元のスポーツウォッチを確認したら、明らかに心拍数が上がっていたホラーの苦手な男マチャオによる、恒例の3分間の映画短評、今週もいってみよう!
 
チャーリーとチョコレート工場』の原作で知られるロアルド・ダールという作家がいます。高校生の頃に英語の授業で読んでから好きになって、一時期ハマっていたんですが、『あなたに似た人』という短編集に入ってる『お願い』っていう短いお話があるんです。子供の頃に、横断歩道の線なんかを踏んだら、そこには蛇がいて噛まれるとか、逆に線を踏み外したら、深い闇に落っこちるとか、そういう妄想遊びをしたことがある人なら、絶対に面白く読める小説で、僕はこの『イット』を観ていて、途中からその『お願い』を思い出しました。要するに、想像力の問題。
主人公たちはみんないじめられっ子。ビルは吃音の症状があるし、ユダヤ教徒や、支配欲の強い母親のいる男の子、でぶっちょもいる。そして、紅一点のベバリーちゃんは父子家庭で、どうもその父親から性的な虐待を受けているっぽいし、おまけに学校でも町でも尻の軽い女であるかのように噂されてる。誰もが心に傷を負っているがために、自分だけの世界を構築して、そこをシェルターのようにしながら、それぞれに何か怖いものから逃れているわけです。そこへ現れるのが、問題の「それ」なんですね。
 
怖い絵が動き出したり、暗いところであらぬものを目撃したり。「それ」というのは、自分の恐怖が反映されたもの。ベバリーちゃんが最もわかりやすいです。男の気を惹くからと自分で切った髪の毛。そして、初潮を迎える時の血がストレートに反映しますからね。自分の怖いものをこそ、見てしまう。これは多かれ少なかれ、誰でも経験があるはずです。ただ、この話の面白いのは、「それ」の姿がある程度共通してクラウン、ピエロであると。普通なら、それぞれに違うものを見るはずなんだけど、なぜか27年ごとに起こる町の失踪事件のことや、仲間の弟や同級生が姿を消したこともあいまって、言わばコックリさん的に集団催眠のようにして似たような幻影を見るわけです。もちろん、大人には見えない。このあたりから、どれが幻影でどれが現実か、その境が無くなってシームレスになるから、ますます怖くなるわけですね。
 
いきなりビルの弟の腕が噛みちぎられたりして、グロテスクな描写もあるものの、全体としてはそこまで絵的に怖がらせることなく、あくまで心理的に攻めてくる演出で、それが物語のテーマとも合致しているので好感が持てました。すべて合理的に説明のつかないものだから余計に怖いわけで、それがホラー映画というジャンルの良さでもあるわけだろうから。
 
オリジナルのドラマを当時レンタルして観ている人もいるだろうから言っちゃいますが、今回の劇場版はこれ単独では終わりません。だから、あのクラウン、ペニーワイズの正体は明らかにはなりません。続きが再来年公開される模様なんですね。なので、消化不良気味なのは否めないんですが、僕はこれはこれとして楽しく観ました。『スタンド・バイ・ミー』や『グーニーズ』にあるような、はみだしっ子たちの連帯。『IT』という代名詞は、鬼ごっこの鬼を指す言葉でもあるし、性的な隠語という側面もあるわけで、受け皿の広い言葉ですよね。思春期特有の性への興味と恐怖が描かれる、チームでの成長・ジュブナイルものとして、爽やかにすら観られるパートもあって、実は間口の広い映画だとも言えます。彼らがどんな大人になるのか、30年後を舞台とするのだろうチャプター2が今から楽しみです。
 
あのデブッチョくんがヘッドホンで逃げ込んでいたのが、New Kids On The Blockの音楽でしたね。ポスターが出てくるとこの演出には笑いましたよ。

さ〜て、次回、11月17日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ザ・サークル』です。ただでさえ、SNSを意識しすぎているのが現代人なのに、24時間すべてを公開するとか、ほんとダメでしょ。それこそ、『IT』とは別の種類のホラーになるんじゃないの? なんて、あらすじを読みながら思いましたが、どうなんでしょう。あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく!  

 

寿命が面白い!ーFM802やわか通信よりー

僕が毎週せっせと書いているFM802 Ciao! MUSICAの番組メールマガジン「やわか通信」で、先週(2017年11月3日)は『寿命図鑑』という書籍を紹介しました。生放送スタートと同時に登録者に無料配信している読み物ですが、この本を手に取ってもらう機会が増えますようにと、今回はこのブログに転載します。
 
ちなみに、やわか通信は各番組で配信されていて、基本的にはその日の番組内容をお知らせするものですが、僕みたいにエッセイ的な読み物をおまけとして付けているDJもいて、なかなか面白いですよ。登録はこちらからどうぞ→RADIPASSをはじめよう!
 
★★★
 
どうも、僕です。寿命が面白い! 野村雅夫です。
 
いきなり何の話だってことですけど、92年に出版されてブームを巻き起こした『ゾウの時間 ネズミの時間』って知ってますか? 簡単に言えば、身体のサイズが違えば、動くスピードも違うし、寿命も違って、果ては時間の流れる速さまで変わってくるんだという、目からウロコな本でした。
ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)

ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)

 
あれから、24年が経って、昨年、『寿命図鑑』という本が出たんです。版元は、京都のいろは出版。先日、ひょんなことからその出版社の方と知り合ったことをきっかけに手に取ったんですが、これがまぁ面白いんです。
 寿命図鑑 生き物から宇宙まで万物の寿命をあつめた図鑑
図鑑と銘打ってはいますが、どちらかと言えば、科学書というよりは、可愛いイラストに気の利いた短い読み物が散りばめられた絵本です。
 
人間も、たとえば骨や赤血球、脳といったパーツごとに寿命をざっくり割り出しているし、さらには国・地域や時代ごとに分類してもいるので、寿命の捉え方がまるで変わってしまうことうけあい!
 
人も虫も無機物も天体も、いつかは死んでしまう。その「いつか」にフォーカスすることで、僕たち自身の命もそうだし、世の中の見方も変化してしまうかもしれない。
 
パッと数字だけ見て子供と一緒に楽しむこともできるし、キャプションを細かく読むことで大人が深く考える材料にもなる。オールカラーの大型書籍なので3000円ほどしますが、それこそこの本の寿命は長いので、自分や誰かへのプレゼントと考えれば、高くなんかない!
 
先週の放送で少し喋りましたが、今日から関西書店祭が始まります。僕の紹介する文庫2冊とその手書きポップが、関西一円50ほどの書店で展開されるとか。せっかくなので、追加してここでも1冊ご紹介しました。
 
そう言えば、今日続編を短評する映画『ブレードランナー』も寿命が大事なテーマだよなぁ。レプリカントの命は4年と定められていて… いかん、ブレードランナーのことまで書き出したら、いくら時間があっても足りない! 
 
それでは、現在38歳の野村雅夫が関西の三連休を末広がりに演出するCiao! MUSICA。今週もそろそろ始めチャオ!