京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『シンデレラ』(2021)短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 10月5日放送分
『シンデレラ』短評のDJ'sカット版です。

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いつも、まずあらすじを僕なりにまとめて紹介していますが、『シンデレラ』をまったく知らないっていう人はいないんじゃないかというくらいのおとぎ話ですよね。主人公のエラは、継母とその連れ子である義理の姉ふたりに日々いじめられていました。日の当たらない部屋で暮らし、灰かぶり姫「シンデレラ」なんて言われています。孤独なエラの夢はドレスのデザイナー。ある日、お忍びで町へやって来たハワード王子に出くわしたことで、彼女の運命が大きく動き出します。

シンデレラ (字幕版)

監督・脚本は、『ピッチ・パーフェクト』シリーズの脚本家、ケイ・キャノン。実写版としては2015年にディズニーが製作していましたが、今回はアマゾン・スタジオの製作で、ポップソング満載のミュージカルとして生まれ変わりました。シンデレラを、映画初主演となるカミラ・カベロが変じるほか、国王役でピアース・ブロスナン、女王役でミニー・ドライヴァー、シンデレラの継母役でイディナ・メンゼルが登場します。
 
僕は先週木曜日の夜に、自宅のテレビで鑑賞しましたよ。それでは、今週の映画短評、いってみよう。


やはりディズニーの印象が強い、というより、ディズニー・プリンセスの象徴と言えるシンデレラですから、6年前の実写版の際にも、この看板の姫に傷をつけてはいけないとばかりに、ガラスの靴を割らないように注意を払った演出が行われていたと思います。対して、本作はAmazonで配給されていますが、もともとはソニー・ピクチャーズで企画されていたもので、コロナ禍で劇場への足取りが重くなっているファミリー層へ向けた結果、ソニーは劇場公開をあきらめて配信に舵を切った格好です。ともかく、ディズニーじゃないわけですから、シンデレラをもっと自由に大胆に演出できるという背景があります。さっきはガラスの靴を割らないようにしたディズニー実写版って言いましたけど、Amazon版ではガラスの靴をシンデレラが文字通り投げますから。そして、それこそ企画の意図であり、ケイ・キャノン監督のブッキング理由だと推測できます。

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eigadaysさんのTwitterより
要するに、シンデレラは古典のビッグタイトルであるがゆえに、そのプリンセス像や価値観がかなり時代遅れになっているわけです。リスナーのeigadaysさんが先日番組のTwitterタイムラインで教えてくれていました。彼は今ロンドンへ出張中で、街で見かけた大きな宣伝看板のコピーにはこんな表現が使われていましたよ、と。Every Girl Dreams of Marrying the prince. 「女の子ならだれでも、王子との結婚を夢見る」というフレーズの後ろに線が引かれて消されていて、残るはEvery Girl Dreams 女の子には夢があるという言葉。それがどんな夢であるかは人によって違うのだから、後ろに余計なものを足して一般化するでないということですよ。現代の女の子には、古くさい女らしさの檻からするりと抜け出る自由と権利があって、それはシンデレラも同じなんだ。むしろ、シンデレラのような古風かつ保守的な匂いのするプリンセスをこそ大胆にアレンジしてみようじゃないかってのがねらいです。
 
そこで、ケイ・キャノンです。「ピッチ・パーフェクト」シリーズでは途中から製作もしていたし、価値観の更新に音楽をうまく掛け合わせて表現できる女性映画人ということで、今回抜擢されたわけです。

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(C)Amazon Studios
以上のことは、よくよく伝わってくるのだけれど、僕にはよくわからない設定と展開があったのも事実で、どうも乗り切れないなぁと正直なってしまいました。まず、シンデレラが地下室に閉じ込められて抑圧されまくっていたわりにはわりと明るい性格だし、明るいどころか、広場で人が集まってて何が起きているか見えないから銅像によじ登るなんておどろ木ももの木の行動に出るんですよ。お転婆を通り越して、それはダメでしょうよ。百歩譲って、あの物語世界では女性が自分の店を持つどころか外で働くことも稀なんだろうから、それを打破するためにはあれぐらい奇抜な行動を取る必要があるのかもしれないが、あっけにとられてしまいました。

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(C)Amazon Studios
そして、これも現代的な改変として、悪役を単純に真っ黒な存在にしていませんでしたね。それはいいんです。イディナ・メンゼル演じる継母の過去にフォーカスして、彼女にも実は夢があったのだが…という展開。これは面白いのだが、せっかくいろいろと踏み込むなら、諸悪の根源は男性優位どころか、女性にまともな権利がない世の常識や価値なのだから、継母を追い込んだ男に煮え湯を飲ませるなんて流れがあっても良かったのかなと思います。そうすれば、女同士の妬み嫉みにまとめるのではなく、むしろシスターフッド、連帯の話にはっきり持っていけたと思うんです。
 
と、テーマ的なところは今ひとつ踏み込みが浅いなと感じたんですが、音楽の使い方はやはりうまくて、特にポップソングのマッシュアップ的な組み合わせでひとつひとつの歌唱とダンスパートを比較的コンパクトにできたことで、ミュージカル入門的な楽しさと豊かな色使いで楽しく観られるし、カミラ・カベロのアイドル映画的な製作意図は達成できていると思います。まとめれば、良くも悪くも、軽い現代版という印象は残りますが、うまくまとめた作品でした。
Camila Cabelloが歌う主題歌は、さすがの歌唱力で引き込まれます。


さ〜て、次回、2021年10月12日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『TOVE/トーヴェ』となりました。ムーミンの作者であるトーヴェ・ヤンソンの伝記映画ということですが、ムーミンについては何冊か本を読んだり、映画を観たり、展覧会に出かけたりしてきたものの、考えてみれば、トーヴェの人生についてはほとんど知らないので、この機会に理解を深めたいところ。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!