FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 10月12日放送分
『TOVE/トーベ』短評のDJ'sカット版です。
日本を含め、世界中で愛され続ける児童文学、ムーミン・シリーズの作者トーヴェ・ヤンソンの伝記映画です。1914年にヘルシンキで生まれた彼女は、保守的で厳格な彫刻家だった父のもとで、むしろ自由な気風を備えた画家に成長します。第二次大戦で傷ついた青春の日々を取り戻すかのように、彼女は戦後、いくつもの恋をし、実は順風満帆ではなかった芸術家としての葛藤を覚えながら、ムーミンを生み出していく。この映画は、トーヴェの主に30代を丹念に描写しています。
フィンランドで大ヒット、ロングランとなった本作。アカデミー賞国際挑戦映画賞のフィンランド代表にもなりました。監督は、1977年生まれの女性、ザイダ・バリルート。トーヴェを演じたアルマ・ポウスティは、フィンランドやスウェーデンで活躍する俳優で、これまでにやはりトーヴェの人生を舞台化した作品で彼女を演じたり、アニメ『劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス』に声優として参加していました。
僕は先週金曜日の昼に、京都シネマで鑑賞しましたよ。それでは、今週の映画短評、いってみよう。
作品についてあまり調べずに映画館へ行って、ポスターやなんかの情報から受けた印象と中身は違った。っていうこと、この高度情報化社会ではすっかり減ってしまったことですが、僕が思い出したのは、そんな映画体験でした。最近は予告もすぐにwebで好きな時に観られるし、なんなら誰かのレビューを目にして面白いのかそうでないのか予め査定して、座席もしっかり予約してっていう時代なので、こうした「未知との遭遇」が減っていることを僕はもったいないなとも思っています。
ムーミンの原作者の伝記映画だって聞かされたら、ムーミン・トロールたちの生まれた経緯がよくわかるもんだと思うじゃないですか。全然そんなことはないんですよね。むしろ、こういう女性が生み出した世界だったのかと、困難な時代を生き抜いて創作に打ち込んだ女性の生き様そのものを描いたもので、僕が予想したものとは違ったけれど、これがとても良かったです。
困難な時代と言いました。まずは戦争があったわけですね。彼女が部屋の蓄音機で鳴らすジャズで身体を揺らしていると、爆撃の音がドーンと割り込み、画面はヘルシンキの荒廃した街の様子のロングショットに切り替わります。この音と空間の対比が視聴覚的にうまくいっていて、冒頭からバリルート監督の確かな手腕が光ります。この時点で、こりゃこの映画うまくいくだろうなと期待が高まるというもの。
劇中に、トーヴェが脚本を書いて、彼女の女性の恋人が演出した舞台、ムーミン谷の彗星、上演シーンが出てきます。この名作は人形劇として映画化されていました。その主題歌を担当していたのが、ビヨークでした。この曲ですね。
さ〜て、次回、2021年10月19日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』となりました。こりゃ、大変だ。僕は公開初日にIMAXで観ておりますが、ダニエル・クレイグの卒業作だし、これまでの彼の5本と、シリーズ全体を見渡しつつ、この長尺の作品を語るなんて… こりゃ、大変だ。でも、映画ファンなら観ない手はないとも言える話題作ですから、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!