京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 1月17日放送分
映画『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』短評のDJ'sカット版です。

神秘の星であるパンドラは、地球からの移住先を探す人類にとっては、支配してしまいたいところ。かつてそうして星に乗り込んだけれど、今はパンドラの一員となった元海兵隊員のジェイクは、現地ナヴィ族の女性ネイティリと愛を育み、生まれた子どもたちと平和に暮らしていました。ただ、そこへ再び人類がやって来ます。しかも、前作でジェイクが倒したはずの海兵隊大佐クオリッチが、人間のDNAの記憶を埋め込んだ特殊な自立型アバターとして復活し、ジェイクに復讐しようと襲ってきたから大変です。ジェイク一家は住まいとしていた神聖な森を離れ、海の部族の元へと身を寄せるのですが…

アバター (字幕版)

世界歴代興行収入ナンバー1を記録したあの『アバター』、13年ぶりの続編です。原案、脚本、製作、そのどこにもリストに名前があり、監督はもちろん単独で務めているのが、ジェームズ・キャメロンです。ジェイク役のサム・ワーシントン、ネイティリ役のゾーイ・サルダナシガニー・ウィーバーなど、おなじみのキャストが続投です。
 
上映形式がいろいろな本作ですが、僕は3D字幕版をMOVIX京都のドルビー・シアターで、それも普通の映画の倍のコマ数、毎秒48コマというハイフレームレートでのプログラムで鑑賞してきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

僕はアバター1で3Dが新たに映画史に復活してきた際に、技術として面白いとは思いつつも、その後しばらく、なんでもかんでも3Dを後付けするような、なんちゃって3D映画が乱発される状況を苦々しく思っていた口です。立体映像であるという物語的な意味があればいいんですが、なんでもかんでも飛び出せばいいってことでもないだろうと。その点、アバターには3Dの必然性があったわけです。それは、パンドラというキャメロンが生み出した惑星の様子を体験してもらいたいという強い意志です。地球に似てはいるけれど、当然誰も行ったことがない場所。独自の生態系を備えた美しい星に旅した感覚を観客に味わってもらってこそ、そこで人類が行ってしまう蛮行に対して、より深いレベルで感じ入ってもらえるのではないかという信念が、あんな大変で過酷で予算と時間のかかる技術開発にキャメロンを駆り立てているのだと推察します。

(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
前作では、まず未知のパンドラを見せる、いわば顔見せであって、みんなをあっと驚かせました。特に、何かが飛び出るギミック的なものよりも、奥行きをとても深く感じさせるパノラマティックな映像効果と3Dの相性の良さを知らしめました。そして、今作では、主人公一家を海の民のもとへと移り住ませることで、森や空だけでなく、新たにパンドラの海とそこに暮らす生き物たちという新たな世界を見せているわけですね。キャメロンという人は、実は3000時間以上の水中滞在記録を持つダイバーであり探検家です。だからこそ、水中の生態系や生き物が泳ぐ感覚そのものまでを映画館に持ち込むために心血を注いだわけです。僕も映画館で観ていて、自分がまるで海に潜っているような気分になりました。特にハイフレームレートで見ると、絵の動き質感のヌルヌルしたかんじがまた、水と相性がいいんですよね。これ、どうやって撮ってるんだよっていう驚きに満ちた疑問も、早々と泡となって弾け飛びました。そんなクールではいられないということです。この時点で、もう映画館でいつもより高いお金を払っている分は取り返しているというか、補って余りある体験でした。

(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
では、物語が技術に従属してしまっているのかと言えば、そうでもないというか、これが驚くほどシンプルにわかりやすく面白いんですね。多くの人が指摘するように、構造としては西部劇です。文明人を自認する人たちが開拓するフロンティアがある。そこには先住民族がいる。武力と文明の衝突が生まれる。簡単に言えば、そういう構図ですね。今回はその続編でありながら、それでも物語は複雑化していません。追い払っても、開拓あるいは植民地化を目指す人類はパンドラにやって来る。主人公ジェイクは、敵となる元海兵隊のクオリッチからすれば、同じ人間、同じ組織にいたはずなのにパンドラの現地民に寝返った裏切り者です。自分の肉体が滅ぼされたという恨みもある。新たな衝突が始まるわけです。ここにジェイクたち森の民と海の民との交流という要素も絡んで、確かに物語は続編らしく一歩進んでいるものの、むしろもっとわかりやすくなっているかもしれないと思うのは、大雑把にまとめれば、ジェイク一家、そしてパンドラの民の武器は強い絆と連帯であるということです。王道にして普遍的、とても感情移入しやすいストーリーです。一方で、地球と似て非なるあの惑星に、SFの利点である置き換えを巧みにほどこしながら、鑑賞することで、ここ地球の歴史や現在の課題について思いを馳せるように導いていきます。撮影の裏話など技術的な面に注目が集まって、インタビューやら撮影現場の動画やらいろいろと出回っていますね。もちろん、それもわかるのだけれど、実は脚本と設定に相当な時間を割いているということも伝わっていて、僕はその成果に正直興奮しました。

(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
3時間以上という尺は、確かに長い。長いのですが、物語が長いわけではないんです。むしろ、ストーリー展開は意外なほどキビキビしています。その合間に体験としてのパンドラ探検が挟まるような感じで、むしろこちらはのびのびとじっくり見せてきます。その緩急もいいです。正直なところ、文明の衝突が個人レベルの憎しみの連鎖に矮小化されているきらいはありましたが、これが5部作に発展する2本目、その過渡期だとすれば、水に流して良いレベルでしょう。前作を漠然としか覚えていない人も、そもそも観ていないという人も、あえて言います。単純明快に楽しめる映画なんで、臆せず観るべし。シンプルにして、あの画面同様、奥行きのあるキャメロンの世界、また恐れ入りました。
 
The Weekndの主題歌はばっちりハマッていて、壮大なエンディングを盛り上げていました。


さ〜て、次回2023年1月24日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『ドリーム・ホース』です。この番組ではぴあの映画担当華崎さんに推薦いただいていた作品ですね。ウェールズの田舎から始まる競走馬をその馬をめぐる人々の物語。予告編のサムネイルの表情が最高だ。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!