京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『離ればなれになっても』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 1月10日放送分
映画『離ればなれになっても』短評のDJ'sカット版です。

1982年、ローマ。16歳の女子高生ジェンマは、同級生のパオロと恋に落ちます。彼の親友、ジュリオやリッカルドとも仲良くなり、4人は共に青春を謳歌します。ところが、母を突然亡くしてしまったジェンマは、ナポリの伯母の家に引き取られ、パオロとは離ればなれに。それから7年、パオロは高校教師、ジュリオは弁護士、リッカルドは映画評論家としてそれぞれに社会に歩みだすのですが、別人のようになったジェンマと再会することになります。これは、それから2022年までの40年にわたるイタリア現代史を背景に、4人の半生を組紐状に描いた作品です。

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監督・共同脚本は、ハリウッドとイタリアどちらでも活躍するガブリエレ・ムッチーノ。共同脚本としてもうひとり、日本でもリメイクされたコメディ『おとなの事情』を手がけたパオロ・コステッラもクレジットされています。音楽は、『ライフ・イズ・ビューティフル』の名匠ニコラ・ピオヴァーニ

歓びのトスカーナ(字幕版)

ジェンマを演じたのは、『吸血鬼ゾラ』『歓びのトスカーナ』などのミカエラ・ラマッツォッティ。高校教師になるパオロをキム・ロッシ・スチュアート、弁護士になるジュリオを国際的にも活躍するピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、映画評論家リッカルドクラウディオ・サンタマリアが演じています。
 
僕はパンフレットへの執筆もあって、去年の秋にいち早くメディア試写で鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

作品を観る前に、あらすじを読んだ時、僕はふと思い出した映画があるんです。それは、1974年に公開されたイタリア映画、エットレ・スコーラ監督の『あんなに愛しあったのに』です。あなたのオールタイム・ベスト10を挙げなさいと言われたら、実は僕が必ず入れる1本なんです。第二次大戦中にパルチザンとして行動を共にした3人の青年と、彼らが戦後出ていったローマで出会うひとりの美しい女性の交流を、映画が作られた70年代にいたるまで、激動の現代史を背景に描くという物語で、設定が本作とそっくりだったから思い出したんですね。はっきりと銘打たれているわけではありませんが、鑑賞してはっきりしたのは、これはもう実質その『あんなに愛しあったのに』のリメイクです。時代はもちろん違いますね。本作は80年代前半からこちら40年ほどを描いているわけですから、当然背景に登場するできごとがまるで違います。一方で、これも設定を合わせてあるのは、男性たちが就く職業です。たとえば、弁護士になるジュリオ。『あんなに愛しあったのに』でも、世の中を正すのだ、弱者の立場に立つんだという気概を持って法律の世界に飛び込んだ結果、成金資本家の女性と結婚をして、まんまと社会に丸め込まれる人物が登場します。やはり、似ていますね。今作ではリッカルドが映画の世界に身を置くんですが貧乏暮らしで家族となかなかうまくいかない。スコーラの作品でも、映画マニアの物書きがやはり出てきました。

構成も似ています。まず現代での4人の再会シーンがあって、そこから一気に時代を戻して馴れ初めと言いますか、キャラクターの出会いを見せて、あとは記録映像をうまく挟みながら、現代まで進めていく。スコーラの場合は、映像をモノクロからカラーに切り替えたり、あのフェリーニの名作『甘い生活』の代表的な場面トレヴィの泉でのロケ現場に主人公たちが居合わせるなんていう見せ場を用意して、監督自身の映画オマージュが散りばめられているんですが、ムッチーノ監督としては今作全体がオマージュなのだからということでしょうね、そうした映画的なしかけはむしろ控えめにして、4人のすったもんだを丁寧に見せることに腐心しています。

(c)2020 Lotus Production s.r.l. - 3 Marys Entertainment
なにしろ40年間ですから、いつも一緒なわけではもちろんないし、ひとりとして何もかもうまくいくわけではありません。恋愛だって、情熱的に燃え上がるのはいいけれど、生活していくとなると、挑戦を求めるか安定を求めるかで齟齬が出てくる。家族との折り合いもある。結婚式で誓いあった永久の愛はものの見事に氷河期を迎える。子どもが大きくなってくれば、どうにもわかりあえなくなってくる。それが時の流れというもの。でも、彼らは時に交錯しては互いの現在地を確認し、握手を交わし、相手を小突き、言い合いをし、抱擁し、乾杯をする。ムッチーノ監督は、車や鳥、階段、それぞれの実家や田舎の家といった小道具・大道具を随所に挟みながら時の経過を印象づける他、挿入歌にも気を配って物語を語らせるような効果を発揮しているのが巧みです。

(c)2020 Lotus Production s.r.l. - 3 Marys Entertainment
巧みな点をもうひとつ挙げると、それは編集です。40年の時の流れは、すべてを等しく描くわけではなく、もちろん濃淡があります。僕たちが実際にそう感じるように、年を重ねるほど時間が速くなる。その感覚が僕は映画にも流れているように思えたんです。4者4様、観客は誰かひとりに感情移入することもあるかもしれませんが、多くはあの人のあの性格、この人のこの行動、みたいにあちこちにちょこちょこ自分を重ね合わせることになるでしょう。だからこそ、時折彼らがカメラ目線で観客に語りかけながらその時の状況や心境を語ってみせるという一見突飛な演出も、すんなりハマるんですね。それぞれにあっての、あの居酒屋談義の場面とか、最後の年越しですよ。花火がドーン! Buon Anno! 新年おめでとう。アウグーリ! からの乾杯に誰しもがじんわり来てしまう。憎いね。うまいね。40年前に学生運動を野次馬的に見に行ってケガをしたリッカルドは、「よく生きのびた」ってことで、それ以来「イキノビ」っていうあだ名で呼ばれるんです。これはまさに、彼らが、そして現代を生きる僕たちが何とか生きのびて映画館にこうして集うことができたということ、みんなの人生を祝福する映画でもあると僕は考えています。
こちらは原題と同じタイトルの主題歌です。このイタリア語は、最良の時代という意味です。人生最良の時ってのは、いつでしょうね。


さ〜て、次回2023年1月17日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』です。ついにきてしまいました。ジェームズ・キャメロンの気合い入りまくっているし、なにしろ長いし、3Dを始め上映形式も多彩だしと、正直敬遠していたところなんですが、それではいけませんね。映画の神様からのご託宣をたまわりましたので、つつしんで没入してまいります。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!