京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ルパン三世VSキャッツ・アイ』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 2月7日放送分
映画『ルパン三世VSキャッツ・アイ』短評のDJ'sカット版です。

1981年の東京。昼は喫茶店を営み、夜は怪盗キャッツ・アイとして世間を騒がせる来生家の美人三姉妹、長女から泪(るい)、瞳、愛。彼女たちの今回のターゲットは、美術展に出品されている、彼女たちの父親ミケール・ハインツの絵画。同じ頃、ルパン三世もやはりハインツの絵画を狙う。どちらも三連作「花束と少女」の1枚なのですが、残る1枚を狙うのはルパン一味とキャッツ・アイだけではないようで、国際的な武装組織も動いている他、峰不二子も暗躍。そして、ルパンを追う銭形警部とキャッツ・アイ逮捕に意欲を燃やし続ける内海敏夫がタッグを組み、絵をめぐる騒動はどんどん大きくなる中、そこに秘められた謎も明らかになっていきます。

ルパン三世 : 1 (アクションコミックス) CAT’S EYE 1巻

ルパン三世のアニメ化50周年と、キャッツ・アイ原作40周年を記念して、初のコラボレーションが実現です。監督は、劇場版名探偵コナンシリーズを数多く手がけてきた静野孔文(しずのこうぶん)と、CGを得意とする瀬下寛之(せしたひろゆき)のふたり。音楽では、ジャズバンドfox capture planがオープニングテーマなど、劇伴のあちこちで活躍しています。
 
1月27日からアマゾンプライムビデオで独占配信されているこの作品、僕は先週金曜日の夜に鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

いずれも泥棒もの、なおかつ、ひとりではなく、チームで動くケイパーものであり、お色気もあって、笑えて、音楽がとびきりかっこいい。そして、日本だけでなく世界のあちこちでアニメがTV放送されてきた大人気シリーズということで、それは期待が高まるというもの。僕もわくわくして再生ボタンを押しました。どっちも小学生の時にテレビで再放送を見ていたので、少なからず、僕のアニメ鑑賞経験の基礎になっているんです。それだけに、まず絵の違和感が正直言って拭えなかったです。3DCGを使いつつも、セルルックにしてあるというのが、公式サイトでもウリ文句になっています。要するに、昔懐かしのセル画アニメの作画感を出しながらも動きそのものは滑らかでリアリティーのある表現になる、日本ではまだ黎明期の技術が用いられています。お金かかってるんですね。確かに、かなりアクションシーンが多い作品なので、3DCGの利点を活かしながらも、懐かしの伝統あるシリーズなので、セル画の雰囲気は残したいという気持ちはわかります。ただ、僕は観始めてしばらくは1981年という設定に気づかなかったくらい、ものの描写が克明なので、キャラクターのセル画感がどうもヌルヌル見えて上滑りしているように思いました。また、キャラクターデザインが特にキャッツ・アイ三姉妹の現代化が著しすぎて、これも1981年という時代設定にむしろそぐわない印象でした。逆にレトロ方向に舵を切ってデザインしてほしかったなというのが正直なところです。アニメはやはり絵の雰囲気とそれがどう動くのかってことが鑑賞の快楽に直結するので、今作のデザインと制作技法が、どういうロジックで描く物語に合致すると考えられたのか、僕には疑問がかなり残ります。
で、描く物語ですが、当初こそターゲットの絵をそれぞれに盗む「対決」の構図があるものの、それがやがて共通の敵に立ち向かうチームへとシフトしていくのは想像通りでした。そりゃ、どちらのファンも結局はそれを望むわけだし、物語の起伏も生みやすいので、安心して楽しめる妥当な流れです。そして、どちらにも警察に属する名キャラクターがいますね。銭形警部と内海敏夫。彼らが先輩後輩として妙にうまくやっていくのは笑えるし、全体を通しての存在感もちょうどいい塩梅ですばらしかったです。問題の泥棒たちについてですが、これはもうはっきりとルパン三世の長編シリーズの枠組みにキャッツ・アイが飲み込まれていました。確かにルパンはこれまで長編がたくさんあって、物語の型があるので、たとえばカリオストロの城におけるクラリスのように、ルパンがうぶな女の子を連れて動き、その子にいろいろと教え諭していくのは、これも安心して楽しめる要素です。今作では、三女の愛がルパンの教え子となるわけですが、僕はそこがストーリー的に一番もったいないなって考えています。だって、僕はお姉ちゃんふたり、泪と瞳が好きなんだものって趣味は置いておくとしても、活躍がアンバランスなんですよ。さらに言えば、ルパンが愛のメンター的に導いていくのは年齢的にも経験からいってもわかるんですが、キャッツの上のふたりがもっとルパンを感心させるような手口を見せてくれないと、ますます存在が薄くなるんです。だから、結局不二子にいいとこ持っていかれてしまうんですよ。人数が多いので難しいのはわかりますが、全体の構図として、ルパンとキャッツが張り合う、あるいは両者が力を合わせるからこそ敵を打ち負かすことができるのだというところは維持したかったです。
なんて具合に、僕みたいなライトなファンでもこういて色々言いたいことが出てくるぐらいだから、もっと熱心なファンならもっとでしょう。でも、いいところだってたくさんありました。音楽はfox capture planの抜擢が当たってスタイリッシュだったし、オープニングクレジットもあそこだけ見直したいくらいにシャレてます。あと、会話の中にとにかく猫の慣用句や言い換えをたくさん入れてあるのは楽しいし、そういう細かいところはとても大事だと思います。そしてなにより、こんなコラボが曲がりなりにも成立するなんてという胸の高鳴りはちゃんとあるので、時間泥棒では決してないし、一定以上の楽しさは間違いなくありますから、ぜひご覧になってみてください。
それにしても、冴羽獠のカメオ出演が話題となっていますが、シンプルに遊び心なのか、それとも布石なのか、それも気になるところですよ。


さ〜て、次回2023年2月14日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『仕掛け人・藤枝梅安』です。原作の池波正太郎、生誕100年を記念しての2部作の1本目なんだとか。豊川悦司の迫力がすごい。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!