京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『エア・ロック 海底緊急避難所』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 8月27日放送分
映画『エア・ロック 海底緊急避難所』短評のDJ'sカット版です。
アメリカ、カリフォルニア州知事の娘エヴァ。彼女は大学の卒業旅行に彼氏や友達と一緒にメキシコのリゾート地カボへと向かうところ。同じ飛行機には、他にも10歳のローザという女の子が、大好きな祖父母と乗り込んでいました。すると、安定飛行中、エンジンに鳥が突っ込んでしまったことをきっかけに飛行機はあえなく墜落。太平洋の海底へと沈んでしまいます。生き残ったのは、エヴァやローザを含む7人。傾いた飛行機の中で発生したエアロック、空気溜まりに身を寄せていますが、携帯の電波もなく、窓の外には人喰いザメがうようよしている状況。果たして、エヴァたちは生還できるのか。

海底47m(字幕版)

脚本とプロデュースは、アンディ・メイソン。イギリスの配給会社を立ち上げた人物として観客に見せる仕事をしてきた人ですが、製作にもたくさん関わって、同じサメ映画なら2017年の『海底47m』などで製作総指揮を務めました。そんな彼が監督として白羽の矢を立てたのが、スイス出身のクラウディオ・ファエ。エヴァを演じたのはソフィー・マッキントッシュで、他にもスタートレックにレギュラー出演していたコルム・ミーニイなどもキャストに名を連ねています。
 
僕は先週木曜日の夜、MOVIX京都で鑑賞してきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

サメ映画をこのコーナーで扱うのは初めてとなりますね。あたかもジャンル名のように僕が言うことに驚く人も中にはいるかもしれませんが、ヤクザ映画みたいなノリで、サメ映画というものは、ホラーやスリラーのサブジャンルとしてれっきと存在していますし、手っ取り早いところではウィキペディアにもページがあるんです。サラッと参照しておきますと、いくつか条件がありまして、人喰いザメが敵になること、サメと一緒に海の中に閉じ込められること、多くのサスペンス要素があること、サメに対峙するあるいは退治する勇敢なキャラクターが登場すること、そして水着姿の女性が出てくること。なるほど。いかにも、夏の映画という感じもありますが、そのイメージが定着したのは、やはりスティーブン・スピルバーグが1975年の6月下旬に公開した『ジョーズ』でしょうね。古くは1930年代からサメの出てくる映画は撮られていましたが、『ジョーズ』はジョン・ウィリアムズの一度聴けば忘れられないサントラの効果もあり、それまでのサメ映画をひっくり返しました。以降、たくさん作られてきたものの、マンネリ化が進み、いわゆるB級とかZ級の作品も増えまして、21世紀に入ると製作本数が激減。それがここのところまた持ち直してきたという流れです。その立役者となったのが、たとえば『MEG ザ・モンスター』であるとか『海底47m』です。その『海底47m』に製作総指揮として関わったアンディ・メイソンが新たな着想で企てたのが本作です。

©NWUP Limited 2023
詳しくは、読んでいてなかなか楽しい公式パンフレットに載っていたサメ映画ルーキーさんと中野ダンキチさんの対談を読んでみてほしいところですが、サメ映画はもう最近ではサメと何かを合体させたりなんていうあらぬ方向へと向かっていた中、これはある種正統派である、対談の言葉を借りれば、「ピュアなサメが来たな〜」ということになるんだそうです。確かにサメそのものはピュアなんですが、映画としてはきっちり合体させてあります。何かと言えば、サメ映画と航空パニックものの合体ですね。この合体は、僕はなかなか見事なお点前だと思っていまして、両者の面白いところを過不足なく組み合わせて融合させていますよ。全体の尺は90分ほど。昔のジャンル映画の長さの中で、展開が早いんです。キビキビしています。主な登場人物のキャラクター紹介と関係性をテキパキと示しつつ、とっとと飛行機に搭乗し、しっかり軽口を叩いたりしているうちに、あれれ〜と物語的にはスムーズに着水。ここまで30分もかかっていないんですよ。あとは、生存者7名が、知恵を出し合いながら、飛行機後方の狭い空間で、やがては無くなってしまう空気を共有しながら、来るかもわからない救助を待つのか、自分たちで脱出するのか、逃げ出すとすればどうすれば良いのか。それぞれのバックグラウンドと性格を踏まえた言動のバリエーションとその組み合わせで観客を楽しませます。ここで、サメが登場するわけですね。もちろん、飛行機の窓から海の中を泳ぐサメを見て、こりゃダメだってのもあるんですが、飛行機の横っ腹に穴が空いてしまっているので、そこから機内の水に浸かった部分に侵入してくるというのがまたたまらないものがありました。確かに、いま「底」にある危機なんですよね。あと、「志村うしろ!」的な見せ場もちゃんとありましたよ。

©NWUP Limited 2023
こういう映画は細かいところが面白いし、ネタバレはサメ以上に怖いですからこのあたりにしておきますが、全体としての印象は、日本では去年公開されたサバイバル映画『FALL/フォール』に近いなと思いました。ふたりの若い女性が、アメリカの砂漠の真ん中にある老朽化した高さ610メートルの電波塔に登って下りられなくなるだけの作品でしたが、僕は公開当時見逃していて、今月夏休み中に鑑賞したんですよ。高いところと海の底で舞台はまるで違う2本ですが、時間が経過すればするほど生き残るための手立てが失われていって、真綿で首を絞められるようにじわじわと絶望の淵に追いやられていく様が見事に表現されていました。本作のオリジナルのタイトルはNo Way Up。

FALL/フォール

『FALL/フォール』とは逆に、上への道が絶たれるわけですね。そこからの、今作での女性陣の活躍も忘れがたくって、サメ映画のそれこそ常套であるか弱い水着ギャルを勇敢な男性が救うみたいなのはとっくに時代遅れだということもビシバシ伝わってきて良かったです。僕はどちらもしっかり興奮しましたよ。なんか刺激が足りないんだよなというそこのあなた。ぜひ涼しい映画館で、背筋の凍る体験を。最後に、パンフの表紙に書いてあったフレーズを引用しておきましょう。Have a nice flight!!
いかにもアメリカ映画な舞台と物語でありながら、これはイギリス映画でして、主題歌もヨーロッパ、スウェーデンのポップなソウルシンガーSeinabo Seyを起用していました。

さ〜て、次回2024年9月3日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『フォールガイ』です。きたきたきた、いよいよ、きた! デヴィッド・リーチ監督とライアン・ゴズリングがタッグを組んでハリウッド映画の舞台裏をスタントマンの視点で描いていくとなれば、観るっきゃない! さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!