読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

『疾風ロンド』短評

ラジオ 野村雅夫(ポンデ雅夫) 映画

FM802 Ciao! MUSICA 2016年12月2日放送分

『疾風ロンド』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20161208005819j:plain

大学の研究所から盗み出された違法な生物兵器K-55。犯人は研究員で、国民を危険に晒したくなければ3億円を用意しろという要求を所長にするものの、あえなく交通事故死。K-55の存在を世間に知られたくない所長は、研究主任の栗林に秘密裏の回収を指示するのだが、犯人がK-55を隠したのは、日本最大級のスキー場だった。

白銀ジャック (実業之日本社文庫) 雪煙チェイス (実業之日本社文庫)

スキー場を舞台にした東野圭吾のシリーズ2作目を単発の作品としてコミカルに映画化。監督・脚本は、あまちゃんサラリーマンNEOの演出で知られる吉田照幸。栗林研究主任を阿部寛、パトロール隊員には関ジャニ∞大倉忠義スノーボードの選手で捜索に協力する女性を大島優子。他に、ムロツヨシ柄本明生瀬勝久など個性派俳優が参加しています。
 
それでは、いつものように3分間の短評、いってみよう。

最近、似たような設定の映画をこのコーナーで扱いましたね。生物兵器がどこかに隠される。犯人は映画の冒頭で死亡する。主人公は降って湧いた災難に巻き込まれる形で必死に兵器を捜索する。そう、『インフェルノ』です。そういう骨格は似ているけれど、アプローチはまったく違う。『インフェルノ』が、シリアスなムードで緊迫感を持って演出していたのに対して(人類がどっさり死んじゃうっていうんだから当たり前ですけど)、この作品はコミカル時々人情噺。『インフェルノ』が予算をふんだんに使って世界遺産ロケを敢行する観光映画で、ラングドン教授が切れ者だったのに対し、こちらは場所はほぼ野沢温泉です。ほぼ動きません。そして、主人公栗林はもともとしがないという枕詞を付けたくなるような中間管理職の研究者だから、推理も何もなくて行き当たりばったりの素人探偵。こういう違いを踏まえて、吉田監督がテレビで培った演出術をベースに脚本も手がけて笑いを取りにいったということはわかるんです。コメディーに思いっきり振るっていうこと自体は、僕も悪くないと思うんです。

インフェルノ(上) (角川文庫)

ただですね、今回ばかりは吉田さんの手腕がうまく機能しているとはとても言えないんです。まず原作からの改変で恐らく最も大きなものは主人公をすげ替えたということですね。原作ではパトロール隊員の大倉忠義スノーボーダー大島優子のバディーものシリーズであって、東野圭吾作品によく登場する「うだつの上がらない男、栗林」が主役ではない。ところが今回は単発での映画化だから、思い切って、目指すコメディー要素の強い栗林を格上げして、あくまで彼を軸にお話を再構成した。これも、実は悪くないと思うんです。
 
僕が問題として指摘しておきたいのは、「だったら、それに合わせて、全体をもっと剪定しなきゃ」ってこと。今振り返ると、K-55の騒動を幹にして、色んな話が同時進行するんですね。栗林と息子、シングルファーザーと反抗期の息子のぎくしゃく。スキー場地元中学校のインフルエンザに端を発する噂と娘を亡くしたヒュッテのおかみさん。パトロール隊員とボーダー、オリンピックという夢と恋の行方。もうね、要素が多すぎる! 要素が多いと映像だけで説明しきれなくなって、登場人物はみんな思ってることを全部言葉にして説明してしまう。つまり、映画的な喜びが大きく減退してしまう。
 
もう、みんな、とりあえず炭疽菌をちゃんと探して! この辺りのエピソードを整理してスリム化しておかないから、話が脱線ばかりしてしまう。ちゃんとゲレンデにいて! お話のシュプールをきれいに描いて!
 
お話がツギハギでシーン同士がスムーズに有機的につながって見えないのは、もうひとつ演出的な理由があります。それは、笑いです。吉田監督の得意分野なんだけど、作りがコントなんですよね。シーンごとに笑いを構成しているから、通してみると、テレビみたくコント集みたいになっちゃう。せっかくこれだけの役者を呼んできてるのに、そこはもったいない。キャスティングもね、もちろん悪くないんだけど、あえて言うと、阿部寛ムロツヨシを筆頭に、みんなそれっぽいことをスクリーンでする。はまり役すぎると突き抜けないんだなってことを再確認する結果となりました。
 
もう、ひとつひとつのエピソードのほころびは言うまい。なんで偽造パスポートなんだよ! とか、これは『インフェルノ』もそうだったけど、犯人の動機づけが弱くないか? とか、言うまい。
 
とまあ、なんだかんだ厳しく分析してしまいましたが、観終わった後にはしっかりスキーがしたくなってスキー板をスマホで調べて選び始めるぐらいにはテンションが上がったことは付け加えておきます。
 
☆☆☆
 
あの中学生の行動はギョッとしてしまいました。思っただけでもダメだろって僕は審判を下してしまいましたよ。

疾風ロンド (実業之日本社文庫)

栗林は確かにうだつが上がらないけど、いい父親なんじゃないでしょうか。ていうか、人情噺を作るために原作から改変してシングルファーザーってことにしないで。お母さんを殺さないで!


さ〜て、次回、12月9日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様から授かったお告げ」は、『マダム・フローレンス! 夢みるふたり』です。あなたも鑑賞したら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!