京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ザ・サークル』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年11月17日放送分
『ザ・サークル』短評のDJ's カット版です。

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利用者30億人という、世界一のシェアを誇る巨大SNS企業サークル。大学を出てからも満足のいく仕事に就けずに地元でくすぶっていたメイは、サークルの幹部として活躍していた大学の同級生から中途採用の面接に誘われ、見事パス。ある事件をきっかけに、社内でカリスマ経営者ベイリーの目に留まった彼女は、サークルの新しいサービス「シー・チェンジ」のモデルケースに抜擢されます。これは、あちこちに仕掛けられた高性能の超小型カメラによって、自分の24時間をネット上に公開するというもの。メイは瞬く間にネットアイドル化し、1000万人以上のフォロワーを獲得するものの、プライバシーをめぐる事件が起こって… という、ネットワーク社会の相互監視をテーマにした作品。
 
メイを演じるのは、実人生においてTwitterのフォロワーが2500万人というエマ・ワトソン。経営者ベイリーには、トム・ハンクスが扮します。監督は、ジェームズ・ポンソルト。僕と同い年の39歳、まだ長編2本目の俊英です。これ、2013年にアメリカで出版された原作がありまして、作者はデイヴ・エガーズ。今回、彼も脚本に参加しています。トム・ハンクスがこのエガーズを高く買っている模様で、エガーズ原作の映画への出演は、『王様のためのホログラム』に続いて2度目ですね。
 
それでは、僕もしっかり劇場で監視してきましたんで、恒例の3分間の映画短評、今週もいってみよう!

なんかアメリカであんまり受けが良くなかったとかいう前情報もあるようですが、そうやってSNSでの評判を映画を観る前からチェックする行為そのものも、観ればためらわれてくるような、とても居心地の悪い作品です。
 
僕は今回の宣伝コピーがなかなかいいなと思ったんですよ。「『いいね!』のために、生きている。」なんて、やだやだ、そんなの。僕なんか死んでも言いたくないけど、楽しかったことを僕らはすぐさまSNSにアップしてますよね。なんなら、流行語大賞にノミネートしている「インスタ映え」なんて、もう「楽しかったこと」ってやつを演出して作ろうっていう現代人の承認欲求をまんま表した言葉なわけです。子どもの頃、誰しもが一度は言っているだろう言葉に「見て見て、こっち見て」ってのがありますが、それをバーチャルに肥大化させたのがSNSの存在意義のひとつなわけで、そりゃ居心地悪いですよ。極端なことを言えば、僕らはいくつになっても「誰かに見てもらいたい」し、キツい言葉を使えば「誰かに監視されたい」と、心のどこかで思っている。ただ、その潜在的な欲望を、徹底した技術力とシステムで、民間企業が実行した場合、そこにあんぐり口を開けるのは、ユートピアではなく、ディストピアかもしれないですよねっていうお話です。僕らはもうSNSを使わないっていう選択肢はないところまで、たった10年弱で来てしまいました。街中いたるところに監視カメラだってあるわけです。だからこそ、気味が悪いし、後味も悪い作品なんですよ。
 
ちなみに小説では映画以上に後味の悪い結末を迎えるようですが、今回のエマ・ワトソントム・ハンクスというキャスティングが僕は見事だったと思います。子役からトップ女優の現在まで、実人生を衆人環視の下で生きてきたエマと、泣く子も黙る名優としてデキた役をよく演じるトム。このふたりが、それぞれにそのイメージとギャップを活かせる役柄になっていたし、ここは作品を評価しない人もうなずけると思いますが、実際にとても好演しています。特に毎週金曜日に行われるサークルの定期プレゼンのシーンが良かった。ストーリーラインを文字でなぞるだけだと、「そんな飛躍ありえるのか!?」っていう展開も、あのうまいプレゼン能力でだまくらかされる感じは、今回の映画化の醍醐味と言えるでしょう。
 
サークルという巨大企業が、気づけば新興宗教のようになっていく、あの取り返しのつかなさ。その流れをポンソルト監督も適切なテンポで映像化していたと思います。惜しむらくは、心の闇をえぐり切れなかったところかな。各キャラクターの心の距離感はそこそこ見えたんですが、その虚無感までは可視化できなかったと言われても仕方がないでしょう。
 
ただ、最後に擁護するなら、あの幕切れは、もっと「ざまあみろ」なカタルシスを多くの観客は求めていたと思うんだけど、あえてそうしなかったこと、つまり、それこそ趣味のカヤックに乗っているメイの危ういバランス感覚が現代人そのものという風刺だと捉えれば、この映画のメッセージそのものという気がするので、僕はむしろ気に入っているところです。
 
観る価値はありますから! 評判なんてどこ吹く風で、SNSを使っている人こそ、観に行って考えてみてください。

リスナーの評を眺めていると、結構割れていまして、テーマはうなずけるんだけど、どうも脚本が詰めきれていないんじゃないかとか、肝心の技術の見せ方がどうなんだってつっこみたくなったという意見が多かったです。

 

確かに、あの小型カメラが出てきた時の、「こんなもんか!」感は否めないですね。でも、僕はその感じも含めて、「あり得そう」と思ってしまった口。脚本も、ところどころ、何かをすっ飛ばしたような一足飛びな展開が残念ではありました。がしかし! それでも僕はメイのストーリーにしっかり寄り添って観てしまいました。途中、サークル社の旗が日の丸に見えた時がまた恐ろしさ倍増でしたよ。

さ〜て、次回、11月24日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』です。気の遠くなりそうなプロセスを経て完成させたんだろうストップモーション、いわゆるコマ撮りのハリウッド・アニメは、まさかの日本が舞台! 字幕で観る? いや、吹き替えか? 迷いつつ、観たら、あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく!