もちろん実在した王室や貴族の秘話を描いた歴史もの。もともとは脚本家のデボラ・デイヴィスが『Balance of Power』、つまり「権力のバランス」というタイトルで書いていたプロットが10年前にラジオドラマになり、そして今回映画化という流れです。監督として白羽の矢が立ったのは、ギリシャ出身ののヨルゴス・ランティモス、45歳。『籠の中の乙女』『ロブスター』『聖なる鹿殺し』など、特に日本では映画通の間では知られた人です。カンヌでは主要な賞を既に2度獲得している他、アカデミーにも何度かノミネートしていました。人間の欲望や社会の常識をグロテスクなまでに極端に描き、どす黒い笑いで風刺してみせるという作家性がある人です。
監督は、兄弟監督の「マネッティ・ブラザーズ」。日本ではDVDストレートとなっていました『宇宙人王さんとの遭遇』。そして、僕たち京都ドーナッツクラブがイタリア映画特集上映イベントで紹介した2013年の作品『僕はナポリタン』(下のポスター)が出世作。『愛と銃弾』が長編では7本目かな。これで一気に第一線に躍り出た人たちです。ホラー、サスペンス、アクション、警察モノといったジャンル映画を偏愛している監督なので、大衆娯楽作へのオマージュが多いです。今回も、『マトリックス』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、アメリカの青春映画『フラッシュダンス』(What a Feeling)も出てきます。デヴィッド・フィンチャー『パニック・ルーム』、ミュージカルでは78年の『グリース』。果ては、マイケル・ジャクソンの『スリラー』まで。
この作品にはそんな思わず笑ってしまうシーンや大笑いしてしまう台詞が多くあり、そうかこれはコメディでもあったのかと気づく。アクションもミュージカルもロマンスもコメディも、あらゆる要素が含まれていてとても一言では形容できない映画だ。登場人物が歌うのも、ポップなものからナポリ民謡風、ラップと多種多様だ。時折「これは演歌?歌謡曲?」と思うコテコテ具合にナポリらしさも感じる。もちろん台詞は翻訳者泣かせのナポリ弁だ(原題の“Ammore e Malavita”の”Ammore”もナポリ弁の”愛”)。