京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『アンドレアとマルタの冒険』(IL VIAGGIO DI ANDREA PORCELLO E CAPRA MARTA ):ロベルタ・ゴルニ

長い旅から帰ってきたコウノトリの土産話を聞いた、
こぶたのアンドレア君とこやぎのマルタちゃん。
二匹はいてもたってもいられなくなって、旅に出ることにします。
しっかり長旅の準備をしたにもかかわらず
おいしいお菓子のにおいに誘われてさっそくの寄り道。
そこで二匹が出会ったものは…。

今回は日本では翻訳されていないイタリアの絵本です。
作者はロベルタ・ゴルニ(Roberta Gorni)さん。
日本ではあまり知られていませんが
とても素敵なイラストを描くイラストレーターであり絵本作家です。
イタリアではこの絵本以外にファタトラック(Fatatrac)から4冊、シリーズ絵本を出していますが
現在は拠点をスペインに移し、
作品も主にスペインで発表・出版しているようです。

今回取り上げた絵本はファタトラックから出版されているもの。
絵本の内容を詳しく見てみます。


主人公である、こぶたのアンドレア君とこやぎのマルタちゃんは
越冬の旅から帰ってきたコウノトリたちの土産話を聞きに行きます。
コウノトリたちの冒険話に二匹は驚き、うらやましくも思います。
そして二匹はついに決心。
「わたしたちも旅に出よう」。
さっそく荷造りをして、準備万端で出かけた二匹。
しかし、出発してまもなく美味しい匂いに誘われてふらりふらり。
寄り道したのは一軒のお家。
その窓際にはケーキが置かれていました。
そして、その先にいたのは
ママと歩く練習をしている人間の赤ちゃん。
赤ちゃんは窓の外にいるアンドレアとマルタに気付き、窓の方へ歩きだします。
これがなんと赤ちゃんの初めての一歩。
人間の赤ちゃんが歩くのを見た二匹は
そのお話をコウノトリたちにしてあげるのでした。

お話としては冒険もので、よくあるパターンだと思うのですが、
人間が動物の世界へ行く・動物の世界に出会う、というのではなく
動物が人間の世界に出会う・垣間見る、という構造です。
なんてことないのですが、結構新鮮だなぁ、と思いました。
動物の世界から見た人間の世界。


でも、動物の世界から見た人間の世界を描くなら
登場人物たちは、擬人化しなくても可能だと思います。
しかしこの絵本での動物たちはしっかり擬人化されています。
動物を主人公にした絵本、擬人化された動物が出てくる絵本というのは
本当にたくさんありますが、
どの程度擬人化されているか、というところが絵本によってそれぞれ違っています。
二本足で立って歩いているとか、洋服を着ているとか。
その他にも、行動や考え方においても、より人間寄りのものか、そうでないか。
この擬人化の程度の差で印象がずいぶん変わってくるともいえます。


今回とりあげたこの絵本ではどうでしょう。
擬人の度合いが低いと見受けられる個所は

  • アンドレアとマルタをはじめ、動物たちは基本的には洋服は着ていない(一部例外あり)
  • 体つき、手足はあくまでも動物らしく(でも、顔には眉毛が描かれていたりする)

一方、擬人の度合いが高いと見受けられる個所をひろいあげてみると

  • 二足歩行
  • 家:ドア、素敵な壁紙、時計
  • 遊び道具:サッカーボール、お絵かき、シャボン玉
  • 旅支度の品:リュックサック、食糧(ビスケット)、懐中電灯、方位磁石

こぼれているものもあるかと思いますがざっとこんな感じです。


登場人物たち(動物)は、イラスト的には、
野性が残された、動物そのままに近い印象ありますが、
二足歩行し、人間のような行動をしています。
そして、その登場人物たちのまわりにあるものは、動物の世界のものではなく、
人間世界のもの(これらは背景や、登場人物などとは少し違い、より本物に近いリアルな表現方法で描かれています。そのせいで、“いびつ”“違和感”というほどではないにしても、読者にはこれらのアイテムが目立って見えるようになっているのがおもしろいです)。


擬人化された動物たちが登場する絵本を読むとき
読者は「親近感・親和感」といったものを抱き
また、その動物たちが、同じ世界で生活している“人物”であるかのように感じます。
しかし、この絵本のように、イラストとして動物たちに野性味が残されている場合はどうでしょう。
ここに、「どの程度登場人物を擬人化して描くか」という点での違いが現れてくるように思うのです。
つまり、擬人化の度合いが高い場合、
そのお話の出来事は人間の世界での出来事のように感じられ
逆に、擬人化の度合いが低い場合、
そのお話はあくまでも動物の世界での出来事のように感じられるのではないか。
というのが私の考えです。

アンドレアとマルタが冒険をして人間の世界を垣間見、
人間の赤ちゃんが動物に刺激されて初めての一歩を踏み出す、という
この絵本では、二つの世界はあくまでも別でないといけません。
そこで、生活様式をほぼ人間的にすることで
読者に親近感を抱かせ、物語をわかりやすくする。
その一方で動物たちの姿かたちには、動物らしさを残し
人間との違いを明確にし、一定の距離感を持たせる。
こうすることで、
あたかも、動物の世界でこのようなことが起こったのだ
というような印象を読者に持たせることができているのでしょう。


このようなお話を読むことで
読者はただ、お話を楽しむだけでなく、
自分の生活、生きている世界をカッコに入れて
視点をひょいと少しずらしてみてみる、
そういう客観的視点というものを養っていくのではないかと思います。
そういう意味でも
この絵本においては、
動物と人間ほど大きく世界が隔たってしまうよりは、
擬人化した動物と人間ほどのマイルドな距離感が望ましいのではないかな、と思うのです。
だから、登場人物たちは洋服を着ていてはいけないし、
四足歩行で、もの言わぬキャラクターではいけないのだと思うのです。


今回のお話はこのへんでおしまい。
冒頭でも話しました通り、ロベルタ・ゴルニさんの絵本はイタリアではこの他
4冊(シリーズもの)が出版されています。

こちらも大変かわいらしく楽しい絵本ですので
またいつかご紹介したいと思います。
それにしても、今回のアンドレアくんとマルタちゃんのお話を含め
ロベルタ・ゴルニさんの絵本は内容もイラストもとても素敵です。
日本ではあまり知名度が高くないようですが
知られれば、とても人気がでそうですね。