京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画を作ったら』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 4月20日放送分

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あちこちの放送局のドラマや映画など、いつも複数の作品が同時進行している富士山麓の大きな撮影所バイプレウッド。最近は、濱田岳を中心とした若手俳優たちがチワワを主人公にしたSFファンタジー映画を自主制作しようと奮闘しています。ところが、そのチワワが現場から逃げ出してしまうなど、トラブル続き。見るに見かねた田口トモロヲ松重豊光石研遠藤憲一たちは、どうにかしてやろうと手を差し伸べます。数々の撮影現場にまたがる大小様々な騒動を横断的に描いていく映画バックステージもの群像劇です。

バイプレイヤーズ ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~ Blu-ray BOX(5枚組)

テレビ東京の人気ドラマ・シリーズの劇場版で、役所広司天海祐希有村架純など、主役を張るような役者から、いわゆるバイプレイヤーズまで、本当に約100人が集結しています。監督は、若手売れっ子で新作『くれなずめ』の公開を控えている松居大悟。
 
僕は先週水曜日の午後、Tジョイ京都で鑑賞してきました。大きなスクリーンにそこそこ入っていまして、ドラマからのファンなんでしょうね。世代と男女がバランス良いなっていう客層でしたよ。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

バイプレイヤーという映像業界の用語は、もともと和製英語なんですね。英語では、Supporting characterなんて言います。助演ってこれまた日本語に訳すと、準主役みたいなイメージも出てきますが、要するに、映画の中で、物語の中心にいる人物ではないが、そのキャラが登場することで全体が引き締まったり、要所でのみサッと登場して強烈な印象を残しながら主人公たちをサポートする存在。だから、定義としては広めです。また、他の作品では主役を張るような俳優が出演する場合には、ゲスト出演とか、友情出演としてクレジットされることもあります。ただ、冷静に考えれば、俳優の多くは主演することはまれであって、基本的にはバイプレイヤーとしてキャリアを重ねる人のほうが多いわけですね。特殊なケースを除き、集団芸術である映画製作には驚くほどたくさんの人が関わっています。俳優もそう。スタッフもそう。この作品は、そうした映画の制作システムそのものを愛おしく見つめています。
 
これまで3シーズンあったドラマ版から一貫しているのは、役者たちがそのままの名前で本人を演じていること。だから面白いんですよね。もちろん、フィクションなんだけど、田口トモロヲ田口トモロヲとして出ているから、劇中でも一般の観客から「あ、プロジェクトX!」みたいなことを言われていました。まさにそういう観客が持っているぼんやりめの知識や思い入れを活用する、あるいは逆手に取って生み出すおかしみを充満させていたわけです。その結果、脇役たちがこの物語では主役に躍り出る。改めて、このアイデアそのものが映画愛に溢れていました。

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©2021「映画 バイプレイヤーズ」製作委員会
今回はその劇場版ですから、「THE MOVIE」の常としてスケールアップが要求されるわけです。ドラマではシーズンごとにひとつのプロジェクトが軸にあって、その実現に向けて、おじさんレギュラー陣がやいのやいのとしていました。それが今回は、有村架純主演のネット配信ドラマ「小さいおじさん」を撮影するいつものおじさんたちに加え、濱田岳高杉真宙菜々緒柄本時生芳根京子たち、言わば若きバイプレイヤーズが作る自主映画というもうひとつの軸が出てきます。いや、もうひとつというか、若者たちの方が主軸で、おじさんたちはまた助演に戻るという格好でしょうか。つまりは撮影所での、映画製作における世代交代、バトンパス、継承、それがポンと渡されるんでなしに、ディープにクロスフェードしていく。さらには、映像業界の外資黒船がバイプレウッドスタジオを乗っ取るんじゃないかという噂がながれて、撮影所そのものの存続や意義もテーマに巻き込みます。
 
もちろん、例によって、見栄の張り合い、つばぜり合い、馴れ合い、じゃれ合い、不平不満に自慢も合わせて楽しませるうえ、同時進行している映画やドラマで垣間見える、過去の名作パロディーにもウキウキします。役者一人一人の演技については、もういくら時間があっても足りないので触れませんが、あえて言及するなら濱田岳です、今回は。最近だと『喜劇 愛妻物語』で見せていた、あのダメ男っぷり、小物っぷり、器の小ささを、今回は監督という立場でも観られます。自主映画撮ってるんでね。役所広司に出てもらおうってんで呼んできた時の手の震え。ビビリ具合。かと思えば、濱田さん、じゃなくて、監督って呼びかけてもらわないと振り向かないというあの権威主義っぷりとか、最低にして最高でした。

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©2021「映画 バイプレイヤーズ」製作委員会
ただ、登場人物がとにかく増えたことで、描かないといけない場面も多くなり、必然的にみんな少しずつ出ては強烈な印象、爪痕を残してもらう必要性が生まれるせいで、全体としては話の求心力が足りないとは言えます。結果として、スケールアップのつもりが、撮影所舞台のコント集になってしまったことは否めません。主演も助演も、とにかくすべての役者100名があくまで映像的に集う大団円への流れもかなり強引だよなと失笑してしまう人も出てくるでしょう。映画がその最初期から被写体にしてきた機関車と、撮影所そのものの歴史や、夢工場としてのあり方を合成という映画ならではの表現で見せる映画内映画。やりたいことはよくわかるし、その粗がある感じも狙いですらあるのかもしれませんが、大きなスクリーンで観るとなると、ちと物足りなさを覚えたのも事実です。画作りもあくまでドラマの延長という感じでしたから。
 
と、ぶつくさ言いたくなるところもあるものの、楽しいのは間違いないし、日本映画界にこの人達ありっていう夢の共演祭を傍から見てちゃもったいない。観た誰かとワイワイ楽しく語りたくなる、これからも彼らをスクリーンで観たくなる作品でした。
主題歌は、Creepy Nuts。R-指定のリリックの物語との距離が絶妙だと思います。

さ〜て、次回、2021年4月27日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『BLUE/ブルー』。ボクシング映画の傑作ってのはいくつもありますが、松山ケンイチ演じるボクサーの場合はどうか。監督の吉田恵輔さんもボクシングをされる方ということで、期待大。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!