1982年に公開され、映画のみならず、音楽、建築、ファッション、そして倫理など哲学的な分野に及ぶまで、多大な影響を与えた、まさにエポックメイキングな作品『
ブレードランナー』。2019年のLAを舞台に、現実の社会問題を踏まえた
ディストピア的世界観(僕は気軽に使う言葉じゃないけど、ここは「世界観」としか言いようがない)を提示してみせたわけです。そこには
レプリカントと呼ばれる人間以上の能力を備えたアンドロイドたちが奴隷として過酷な労働をさせられているんだけれども、
レプリカントにも感情が芽生えるようになって、人間様に歯向かう連中が登場した。そこで、
ブレードランナーと呼ばれる警察の特殊捜査官が彼らを始末していたわけです。主人公は
ハリソン・フォード演じる
ブレードランナーの
デッカード。彼と
レプリカントとの追跡撃を、
フィルム・ノワールとして、陰気に、ハードボイルドに、それでもかっこよく描いてみせたわけです。
まずもって、どう考えてもハードルが高い続編を、皆の予想を超える出来栄えで作ってしまっています。オリジナルのスピリットをこれほど継承して、なおかつテーマを深めたり、技術的にも前に進めたりしているという点で、完璧な続編と言って差し支えないんじゃないでしょうか。
『ブレードランナー』が描いていたのは2019年という、言ってみれば再来年の話だったわけです。テクノロジーの飛躍的な進歩がある一方で、エネルギー問題と連動する環境破壊や食糧問題、グローバル化、そしてレプリカントという人間が生み出した新たなる奴隷との相克など、考えたくないけれど、現実の延長線上にありえる近未来をリドリー・スコットは見せつけた。でも、正直なところ、2017年に初めて『ブレードランナー』を観る人は、何度も焼き直された未来像なだけに、もはや新鮮には感じなくなっているわけですよ。
そこで、ヴィルヌーヴが取り組まなければならなかったのは、現実の2017年に我々が抱える諸問題を踏まえて、今から30年後にあり得そうな近未来を映像でポンと見せることです。あのLAが今度はこうなっているのかと、僕らに腕組みさせつつ、ワクワクでもゾクゾクでもいいけど、心を動かすこと。それができてるんだなぁ。LAの様子もちょこちょこ変化してはいるんだけど、ここはオリジナルファンへのサービスが多めというか、大胆には変えられない部分ですけど、今回眼を見張るのは、LAの外です。クラクラするほどおびただしく並べられた太陽光パネル。海水レベルが上昇して、LA居住区に流入しないように設けられた巨大な壁。住めなくなった地域に捨てられていく大量のゴミ。砂漠に飲み込まれ、放射能にも汚染されて放棄された娯楽産業都市。こうした悪夢的にシミュレーションされた未来を、バチッと決まった構図で不気味なまでに美しく見せます。さらに、とにかくオリジナルは画面が闇に沈んで暗かったんですけど、今回はその闇と雨にプラスして、雪の白、砂漠のオレンジも加わるもんだから、やっぱりゾッとする未来を見せてくれたぜ、スピリットを継承しつつアップデートしてるぜと気分が最高潮にアガります。今ここにある懸念の未来予想図がスクリーンにデカデカと映し出されるわけですからね。オリジナルを新鮮に感じなかった人でも、これならイケる!
テーマも深まってます。オリジナルでは、
レプリカントには無かったはずなのに育まれてしまった心が生み出す葛藤が問題でした。なぜ俺たちの寿命は4年しかないんだ。そして、愛情ですね。捜査官
デッカードとレイチェルの間に芽生えてしまった愛情とその結果としての逃避行。さぁ、それが30年経ってどうなっているのか。
デッカードは予告にある通り、登場するわけですよね。では、レイチェルは? ここで僕がやはりそう来たかと思ったのは、
リドリー・スコットがエイリアン・コヴェナントで提示してみせたクリエーション、創造というテーマが重ねられるわけです。僕たち人間は、生まれ落ちて死ぬまでに、体験とその記憶を蓄積し、人によっては何かをクリエイトする。何かを後世に残す。では、AIにはそれはできないのか? してはいけないのか? このテーマがホラーと結びつくのがエイリアン前日譚3部作であり、
ノワール・ハードボイルドに展開すると
ブレードランナーになるのではないか。
リドリー・スコットがどこまで総指揮したのか調べきれませんでしたが、そこは彼の中で一貫しているように思いました。
さらに、実は恋愛要素も今回はより深まっていて、より切なくなっています。仕事でくたびれ果てたKを癒やしてくれるガー
ルフレンド、アナ・デ・アルマス演じるAIのジョイね。ホログラム的なもので肉体すらないプログラムだから、完璧な美貌と従順に寄り添うように仕組まれたただのプログラムなんだけど、どう見たって、もうあれは感情なんですよ。そんなジョイとKのシーンはどこを切り取っても切ない。特にあのラブシーンはですね、ア
イデアも技術も、こんなの見たことないという驚きに満ちていて、思い出すだけで悶絶!
なんてクドクド喋ってると理屈っぽい小難しい映画と思うかもしれませんが、感覚的に楽しめるエンターテイメントです。Kの来てる緑のコート、かっこいい。マジで買いたい。おなじみの空飛ぶ車スピナーがドローン付きになってる。乗ってみたい。それを観に行くだけでもいいです。まずオリジナルを観ないといけないのが面倒だと思うかもしれないけど、これは今劇場で絶対に観るべき、いや体験すべき作品です。
もちろんパンフレットは買いました。写真はもちろん、内容もなかなか充実しているので、オススメします。関連本としては、とりあえずオリジナルの凄さがわかるものとして、町山智浩さんの『ブレードランナーの未来世紀』(新潮文庫)と、ブレードランナーを皮切りに映画そのものについても深く考えてみたいという方向けには加藤幹郎『ブレードランナー論序説』もプッシュしておきます(こちらは中古しかなくて5000円くらいするけど…)。慣れてないと読みにくいし独断もあるけど、面白いのです。
さ〜て、次回、11月10日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』です。このコーナーへの
Twitter参加常連組にして、最近映画ライターデビューもされた@eigadaysさんがこんなツイートをしていました。「私はホラー映画は大好きですが、苦手な人はこれは相当怖いと思います。ジェットコースターが嫌いな人がフライング
ダイナソーに乗るようなものです。心して映画館に行って下さい」。今週の『
ブレードランナー2049』は長尺だったから、鑑賞にあたって水分摂取を控えましたが、来週は失禁を未然に防ぐ意味でカラッカラで臨みたいと思います。てか、失禁じゃなくて失神せんようにせんと。あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく!