京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『劇場版おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2019年9月5日放送分
映画『劇場版おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』短評のDJ's カット版です。

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もともとは2016年の年末にテレビ朝日が単発のドラマとして放送したものが反響を呼び、昨年の春、土曜日のナイトドラマ枠で連続ドラマに拡大し、それが一大ブームを巻き起こしたのは記憶に新しいところです。不動産会社に務めるモテない男、33歳の春田創一が、会社の上司である黒澤武蔵、そして後輩の牧凌太、2人の男性から告白されるという、年齢は超えるが、性別は超えない、三角関係のラブコメディー。Twitterで世界トレンド1位となるなど、大旋風を巻き起こしました。今回は、連ドラが終わって1年後を描いた劇場版となります。
 
香港でのプロジェクトを終え、帰国した春田創一。天空不動産第二営業所へ戻ると、熱い歓迎を受けるのですが、そこへ会社が新たに発足した大規模な複合リゾート施設のプロジェクトチームGenius7のメンバーが割り込んできます。リーダーの狸穴が率いるGenius7には、本社に異動したという牧凌太の姿も。動揺する春田ですが、新入社員の山田正義(ジャスティス)が彼を元気づけます。さらには、黒澤部長も焼けぼっくいに火がついたように春田に猛アプローチ。5角関係に発展した恋とプロジェクトの行方は?

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田中圭吉田鋼太郎林遣都が、それぞれ春田、黒澤、牧を演じるというキャスト陣はもちろん続投。そこに、狸穴プロジェクトリーダーの沢村一樹、新入社員ジャスティスの志尊淳という新たな役者も加わりました。
 
監督は、バラエティ番組出身で、ドラマ版の演出も手掛けていた、79年生まれと若手の瑠東東一郎。脚本も、ドラマ版から変わらず、こちらも監督と同い年で40歳の徳尾浩司です。
 
僕はドラマを観ていなかったので、お告げを受けてから劇場へ向かう前に予習しておきたいなとは思ったものの、すみません、スケジュールがそれを許さなかったので、簡単におさらいできるダイジェスト動画的なものに目を通しつつ、あとは知識としてどんな設定なのかってところは何とか押さえての鑑賞となりました。それでは、制限時間3分の短評、そろそろいってみよう!
 
 
おっさんずラブ」未体験の人が抱いてしまう先入観として、「要するにボーイズ・ラブBLものなんでしょう」っていうのがあると思います。それはそうなんだけど、実はBLそのものに焦点を当てることが本質ではないんですよね。これはウィキペディアにも出ている脚本の徳尾さんの発言ですが、「男性同士の恋愛の中で萌えを提示するというよりは、男女の恋愛と同様に『恋愛ドラマを描く』というところが出発点」なんだと。つまりは、あくまで普通のラブコメをやろうってことですよ。性的マイノリティーの恋愛だからといって、特殊なものとして扱うのではなく、どんな恋愛にも普遍的な要素を抽出して物語を組み立てることで、結果として恋愛の多様性を当たり前に感じてもらうようにしようということですね。それはこの企画に通底する価値観だと思います。その多様性ってのには、ゲイだけではなく、年の差の大きな恋愛だったり、数は多いのに後ろめたさを覚えがちなオフィスラブだったりも含まれます。要は、恋愛ってもっと自由でいいんじゃないかっことを、わりとあっけらかんと描写しているのが新鮮で評価されたってことじゃないでしょうか。それが証拠に、本当ならそこにつきまとう社会通念上の葛藤や性生活は物語から周到にカットされていて、食い足りなさを覚える一方で、どんな恋愛でも同列に扱っているのが特徴でしょう。

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さて、大枠を踏まえたところで、劇場版について具体的に言及します。はっきり言っちゃいますが、映像面での目新しさはないです。監督もドラマ版から交代していないですし、もともとテレビマンということもあり、画作りがスクリーンという大画面の醍醐味を活かしたものになっていないんです。冒頭の指輪を巡る香港での追っかけも、クライマックスの廃工場での救出劇も、特にアクション描写はカット割りから俳優の動かし方から、お世辞にもうまいとは言えないぎこちなさがつきまとっています。リゾート施設建設予定地を示す空撮映像も明らかに使いまわしているし、花火大会のシーンの合成もこれみよがしなだけで、全体として、お金をかけたはずなのに空回りしている印象は否めません。

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お話自体も、劇場版なんでとりあえずスケールアップしときましたって感じで、この設定が持っているちんまりした魅力を削いでしまっているんですよね。だって、基本的に小さな話なはずでしょ? オフィスラブですもん。部内とその周辺でくっついたり離れたりしてる、そのぐしゃぐしゃした感じが面白いのに、強引にスケールを大きくしようとするから、どうしてもチグハグになっています。

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なんて具合に、テレビよりも映画をよく観ている人には正直しんどいシーンが多いのは間違いないんですが、実はそこも計算のうちというか、製作陣はこれまたあっけらかんと開き直って撮っているようにも感じました。「とりあえずスケールアップしときました(笑)」みたいな、「すべてひっくるめてのコントでござい!」っていう感じ。とりわけクライマックスの誘拐&救出劇なんて、コントそのものじゃないですか。なんですか、あの時限爆弾のふざけた設定は? 現在地を巡る騒動は? だいたいがポスターでも、燃え盛る炎がハートの形してるんだもの。みんなリアクションが過剰だしさ。っていう意図もわかるんだけど、僕としては、あのサウナシーンのようなバカっぽいけど、それが故に愛おしいやり取りをどんどんやってほしかったです。むしろ、「劇場版なのにスケールアップしませんでしが、何か?(笑)」ってな方向で、彼らのちまちました恋愛模様を生活とともに見せてほしかった気はします。

 

と、主に演出に触れました。同様に、脚本にも色々言いたいことはありますが、そろそろ時間いっぱい。新キャラのミスリードのうまさとか、旧キャラへの愛情のなさとか、やはり良い面と悪い面がありますが、ドラマから引き続いて、こうしたテーマの作品に多くの人が接するという事態そのものは僕は大歓迎していますので、ぜひあなたも劇場でご覧ください。
 
主題歌については、さすがはスキマスイッチという出来栄えで、切なさを醸すサウンドメイクと、歌詞が物語をなぞるのではなく程よい距離感で示唆する言葉のチョイスになっていました。
 

 さ〜て、次回、2019年9月12日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』です。さぁさぁさぁ! やってまいりましたよ、タランティーノ監督最新作。しかも、ブラピとディカプリオの顔合わせ。そのうえ、映画業界の裏側を描くってんですから、期待が高まらないわけがない。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!