京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ゴジラ -1.0』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 11月14日放送分
『ゴジラ -1.0』短評のDJ'sカット版です。

第2次世界大戦末期、1945年の日本。特攻の命令を受けたものの、戦闘機の不具合で整備を担っていた小さな島に着陸した主人公の敷島浩一。彼は、そこでゴジラを目撃するものの手も足も出ないままでした。生き延びた敷島でしたが、戦後東京の自宅に戻ると、そこは焦土と化していて、両親の姿はありません。戦争とゴジラのトラウマを抱える敷島は、そこで典子という女性と出会うのですが、ゴジラは今度は東京へと向かってくるのです。
 
特撮怪獣映画の金字塔『ゴジラ』の生誕70周年を記念して製作された実写ゴジラの30作目にあたります。監督、脚本、そしてVFXは、ヒットメーカーの山崎貴。主人公の敷島を神木隆之介、典子を浜辺美波が演じる他、安藤サクラ佐々木蔵之介吉岡秀隆青木崇高山田裕貴などが脇を固めています。
 
僕は先週金曜日の朝、Tジョイ京都で鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

ついつい、先週の放送で、おみくじを引いた時に、「こりゃ、正直面倒だな」と口走ってしまったゴジラです。今年で70年というゴジラ。作品の数も多いし、『シン・ゴジラ』でも賛否両論が渦巻きましたし、海外でもファンや影響力が大きい、日本の特撮怪獣映画の代名詞だっていうだけでも情報量や意見が多いところに、今回は山崎貴監督という、それこそ大衆的な映画のヒットメーカーである一方で、アンチも結構いるという人がメガホンを取るということで、論じるポイントを絞るのが大変そうだという気持ちが、とっさに言葉として出たのが、「こりゃ、正直面倒だな」だったわけです。で、観に行きました。僕はしっかり最後は泣いてました。落涙はしたけれど、一方で、いかがなものか、というか、納得しかねるというところもやはりありましたので、そこを整理してお話します。

(C) 2023 TOHO CO.,LTD.
ゴジラというのは、原子力放射能と切っても切れない、戦争そのものの象徴として、1950年代、それこそ70年前に登場しました。脚本も手掛けた山崎監督は、その初代への思い入れやリスペクトをキープしつつ、今回は戦後復興していく前、戦争の終わりから戦後すぐの東京に主な舞台を設定したというのは、確かにタイトル通りでもあるし、何より戦争の総括と、コロナ禍に右往左往した記憶も新しい現代の観客へ向けたメッセージにしたいという思いも重なり、これは妙案だったなとまず認めざるを得ません。ノスタルジックに過去を描くきらいのある方ですが、ノスタルジーどころか、敗戦のショックとゴジラを相手に何もできずに生き残ってしまった主人公の気持ちをトラウマという後悔と贖罪の意識でまとめた格好です。そこに、『ジョーズ』であるとか、『ダンケルク』であるとか、敗戦からは技術力で巻き返していくんだという日本の戦後の物語みたいな、きっと監督が好きな要素をバランス良く配置しながら、大作なんだけれど、緩急のある脚本で2時間ほどにしっかりまとめてしまう。技術力で勝負というところも、それこそハリウッド版のゴジラとはまったく違うだろう予算規模でもここまで面白くできるんだという作品自体の立ち位置と一致する痛快さがありました。「生きて、抗え」というキャッチコピーが付けられているように、戦時中の日本軍のシステムやスタンスに違和感を覚えてきたキャラクターたちのルサンチマンがお話の燃料になっている面もあり、これは真っ当なことだとも思います。元軍人たちが「お国のために死んでこい」と言われていたことへの立派な回答にもなっている。

(C) 2023 TOHO CO.,LTD.
神木隆之介の鬼気迫る演技はすばらしく、特にトラウマを乗り越えようとする決意が何より表情に表れていて説得力があったし、浜辺美波や近所の安藤サクラ、あるいは仕事仲間たちとの広い意味での家族のあり方、助け合いの精神も、くどいノスタルジーではない程度に抑えられていて良かったです。VFXの技術もますます上がっていて、ゴジラを前にした時の絶望感はひしひしと伝わってきました。

(C) 2023 TOHO CO.,LTD.
ただし、なんですよね。ただし、最終的には美談に流れていく、涙腺を刺激する方向に大きくかじを切ってしまっているため、確かに泣かされはするのだけれど、ロジカルにはおかしいだろうと多くの人が感じる物語運びだったことも間違いありません。民間主導でなんとかするんだっていうのは、これはきっと戦後復興を支えた日本の技術力へのノスタルジーだろうし、コロナ禍で国を頼りにできなかったことへの目配せもあるんだろうが、いくらなんでも、あんなゴジラみたいなものを海軍の生き残りが市民を巻き込んで対処するっていうのは無理がありましょうよってことだし、最終的に気合とか覚悟に結局なっちゃってるじゃないかというのもノイズになっていました。最後の涙腺刺激畳み掛けポイントも、人によってはご都合主義と切って捨ててしまうかもしれません。そして、民間で何とかするんだ、政府なんて当てにならんというのは、その心意気や良しとも思う反面、昨今の極端なリバタリアニズム新自由主義的な考え方と相性が良いので注意が必要だぞ、とも思うんですね。なおかつ、演技が悪いのではなく、舞台じゃないんだからっていう大げさな演出をところどころしてしまうのも、気になる人が出てくるのは当然です。
 
その上で、それでも、僕は前半で話した理由から、山崎貴監督、かなり良い仕事をされた見応えのあるゴジラをものにされたなとも思います。と、結局ごちゃごちゃしてしまいましたが、ぜひ劇場で観て、泣いて、でも、ちょっとあれはないんじゃないの、などとごちゃごちゃ喋っちゃう体験をしていただきたい!

さ〜て、次回2023年11月21日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、マーベルズ(The Marvels)」です。MCUはもう配信ものも含めて数が多すぎるからと脱落気味、つまみ食い上等でここまで来てしまっている情けない僕です。でも、観るとやっぱりテンション上がるんですよね。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!