京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

映画『ゴールデンカムイ』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 1月30日放送分
映画『ゴールデンカムイ』短評のDJ'sカット版です。

20世紀初頭、日露戦争での鬼気迫る戦いぶりから自他ともに不死身と呼ばれる杉元佐一。ある目的から一攫千金を狙う彼が、北海道の山中で砂金採りをしていた時、アイヌ民族から強奪されたという埋蔵金の存在を知ります。杉元とアイヌの少女アシリパ帝国陸軍第7師団の鶴見中尉、戊辰戦争で死んだとされていたはずの新選組副長土方歳三など、それぞれの思惑が入り乱れる中、埋蔵金の在処をめぐる争いの準備が進んでいきます。

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野田サトルの大ヒットマンガ実写映画化。『キングダム』シリーズや『ONE PIECE』劇場アニメの黒岩勉が脚本を担当し、MV出身で『HiGH&LOW』シリーズを手掛けてきた久保茂昭が監督を務めました。
 
杉元佐一に山崎賢人アシリパに山田杏奈、鶴見中尉に玉木宏土方歳三舘ひろしがそれぞれ扮した他、マキタスポーツ高畑充希、眞栄田郷敦、工藤阿須加なども出演しています
 
僕は先週木曜日の午後にTOHOシネマズなんばで鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

僕はマンガに疎いので、流行っているのは知ってましたけれども、原作は読んでないし、アニメも観ていないという、恥ずかしながらまっさらな状態で観に行きました。それはそれで良かったのかなと思います。というのも、アイヌ民族が登場するとか、明治末期の話ってことくらいはわかってましたけれども、アイヌ文化にしても、日露戦争にしても、あんなにはっきり克明に描かれているとはつゆ知らず、僕としては興味はあるけれど無知な部分でもあったんで、なんなら引き込まれて前のめりで鑑賞することになりました。

(C) 野田サトル集英社 (C) 2024 映画「ゴールデンカムイ」製作委員会
まずは旅順二百三高地における日本陸軍とロシア軍の文字通りの死闘がなかなかの迫力で、120年前の戦争の肉弾戦とかなり踏み込んだゴア描写にゾッとしつつ引き込まれてしまうんです。尺はそんなに長くないものの、戦闘後の死屍累々の絵面は強烈で、ここで生き残れば、そりゃ不死身とも言われるわという説得力がありました。そして、今度は杉元佐一の砂金採りシーン。思ったようには取れないんですね。そりゃそうだろうと思いながら、雪の降り積もった川で、そんな消沈気味の杉元を見ていたマキタスポーツ演じるガラの悪そうなおっさんが、一升瓶片手に埋蔵金の話を始めるわけです。「昔は小豆大の砂金がわんさと採れたもんだが」なんてところから始まって、その在処を示す地図が、網走刑務所に収監されていた犯罪者たちの体に入れ墨として彫られているんだけど、そいつらを集めないと全体像がつかめない。本当かよと思っていたら、そのおっさんにも入れ墨があるやないか! 杉元も当初は半信半疑でしたが、これはマジかもと思っているところへ、命の危機が訪れ、冬山を知り尽くしたアイヌ若い女アシリパに助けてもらい、ジェンダーエスニシティを超えたバディーとしての金塊を巡る冒険が始まるんですね。

(C) 野田サトル集英社 (C) 2024 映画「ゴールデンカムイ」製作委員会
アイヌ語は文字を持たないので、音をカタカナ表記したものですが、冒頭からアイヌ語の引用があるし、アシリパバイリンガルなものの、アイヌの集落を舞台にしたシーンでは、日本語は字幕表記になります。何を言っているのかさっぱりわからず、なるほどアイヌ語が日本語とは系統の違う完全に異言語であることもわかります。といった具合に、アイヌ文化を杉元が学んでいくシーンがどれも良いんですよ。特に食文化にまつわるパートはカルチャーギャップによるコミカルな演出もあいまって、劇場でも笑いが起きていました。京都珍肉博覧会というイベントを主催するひとりとして興味深かったのもあるんですが、山崎賢人演じる杉元の、狂気もあるが根っこには情に厚い利他的な男というキャラクターが、アシリパの澄んだ瞳が映す純真な心やルーツに誇りを持ちながら異文化への興味も旺盛で、つっけんどんで大人びているけれど子どもっぽい未熟なところもあるという要素と良いハーモニーを作り出していて、微笑ましいし、そうそう、新しい文化というのはこうして生まれていくんだろうなと思わせます。こうした繊細な感情やおかしみを醸す場面と入れ代わり立ち代わり登場するのが、本作の見せ場となるようなアクの強い面々が割拠するパートです。

(C) 野田サトル集英社 (C) 2024 映画「ゴールデンカムイ」製作委員会
原作は全31巻あるうちの、今回の映画化では実は3巻ぐらいまでしか描けていません。だから、はっきり言って主な登場人物の紹介という側面があるんですよね。それもあって、まぁ、どのキャラクターも濃ゆいです。もちろん、いかにも漫画的な荒唐無稽さもあるんだけれど、さすがは「ハイロー」シリーズでぶっ飛んだキャラクターと大勢の喧嘩を撮りまくってきた久保茂昭監督だけあって、ここ一番のかぶいた画面の作り方や動きも巧いし、西部劇風とか任侠映画風とか時代劇風とか、アイデアや型も豊富なので観ていて飽きません。これが原作の功績ですが、明治末期という近代国家としてまだまだ未熟だった日本のさらに北海道みたいに東京から遠く離れた場所なら「こんな描き方や設定が可能だろう」と想像力の翼を広げられるところに大風呂敷を広げた、これはピカレスクロマンなんですよね。だから、漫画的なキャラクター設定や描写も許容できる範囲に収められていると思います。実際の歴史との距離感がちょうど良いので、僕はなんなら『キングダム』よりも実写映画化として向いていると思うし、ヒットしているから続編はきっとできるんでしょうが、うまくすれば『キングダム』以上の評価を得られるのではないかと早くも今後に期待しています。アイヌ文化への興味も相当湧いたので僕も知識を蓄えながら次回作を待ちます。
ACIDMANの大木さんは、主題歌書き下ろしの依頼が来た時に興奮してすぐにアイデアを膨らませたようです。自然と共に生きるアイヌの人々の生きざまと土を忘れ欲望を追い求めてしまう人間の儚い生き様を歌にしたいなと思ったそうですよ。

さ〜て、次回2024年2月6日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『サン・セバスチャンへ、ようこそ』ウディ・アレンお得意の恋愛劇ですが、今回は国際映画祭が舞台ということもあり、映画の引用がいろいろとありそうで、さらに楽しそう。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!