京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 12月19日放送分
映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』短評のDJ'sカット版です。

幼い頃から母親と一緒においしいチョコレートの店を開きたいと夢見ていたウォンカ。一流のチョコレート職人が集まるチョコの街へと向かうのですが、いきなりお金をめぐるトラブルに巻き込まれてしまいます。それでもめげないウォンカの生み出す魔法のチョコレートは見事人気を博すのですが、地元のチョコレート組合に目をつけられてしまい、あの手この手の妨害を受けることに。さらには、ウォンカを付け狙ってくる小さな紳士ウンパルンパも登場して、事態はますます大変。ウォンカはチョコレート店を作れるのか。

チョコレート工場の秘密 ロアルド・ダール コレクション パディントン2(字幕版)

ハリー・ポッター』シリーズをヒットさせた敏腕プロデューサーのデイビッド・ヘイマンが製作を手掛けていて、監督と共同脚本は『パディントン』シリーズのポール・キングが担当しました。原作はもちろんロアルド・ダールですが、出演もしているサイモン・ファーナビーと監督がオリジナルストーリーに仕立てました。ウィリー・ウォンカを演じたのはティモシー・シャラメウンパルンパにはヒュー・グラントが扮した他、ローワン・アトキンソン、オリビア・コールマン、サリー・ホーキンスなど豪華な面々が出演しています。
 
僕は先週金曜日の昼にMOVIX京都のドルビーシネマで鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

現代のレオナルド・ディカプリオ、あるいはジョニー・デップと言われることのあるティモシー・シャラメが主演するウィリー・ウォンカの若い頃の話というと、ティム・バートンが監督した『チャーリーとチョコレート工場』でジョニー・デップが演じた特徴あるウォンカ像がすぐに思い浮かんでしまうわけですが、シャラメはその強すぎるぐらいのイメージをうまく煙に巻いて、独自の夢ある青年としてのウォンカと作り上げることに成功しているし、ポール・キングも演出でそこにうまく誘っていました。それぐらいにしっかり別物だし、71年に同じダール原作として彼が脚本にも関わったカルト作『夢のチョコレート工場』ともまた違った味わいのオリジナルストーリーに見事に昇華しています。

© 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
船に乗ってチョコレートの街にウォンカがやってくるところからスタートするこの物語。ウォンカはまず1曲歌い踊りながら、映画のスタイルを観客に過不足なく提示します。そう、これは要所要所で歌が物語を引っ張るミュージカルの体裁を取っています。夢を持った若き男がやって来たのが、実は夢を持つなんてことを禁じられた街であること。だけれど、苦境に追い込まれても、お金がなくても、夢を捨てずにチョコの魔法を信じ続けるほどに、お人好しでもあるし、邪気のないウォンカ。そういう基礎的な世界観を始まってすぐに、言葉ではなく、その身のこなしと音楽の調子と歌詞、そして色の使い分けで表現してしまうセットアップがすごく巧みです。僕は決してミュージカルが好きではない、ミュージカル映画にしてみれば招かれざる客なんですが、それはなぜかと言えば、ミュージカルという硬直化したジャンルが要請する歌によって、物語が停滞するばかりか、下手をすると後退しているんじゃないかと思うことがあるんですよ。その点、本作はウォンカの夢と音楽がもたらす高揚感などの感情、そしておいしいチョコを食べた時のうっとりする感覚が手に手をたずさえて、物語をがっちり強固にしてそのアクセルを踏み込んでいるのがすばらしいです。

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ロアルド・ダールらしい毒っ気もちゃんとあります。ガレリアの四つ角にそれぞれ店を構える3店舗がカルテルを結び、その甘い魅力でチョコの街の市民を魅惑することを完全に越えて支配しているその仕掛けなんて最高です。教会権力を抱き込み、警察権力も手なづけている。そして、完全に詐欺を働いて金と労働力を巻き上げ続けるブラックな経営者もいる。そんな悪党どもまでを、決してシリアスにではなく、楽しく戯画化して描き、そこにひとつひとつ落とし前をつけるっていうか、ギャフンと言わせるのが楽しいんですね。そこに一役買っていたのが、ウォンカのチョコレート作りに生かされるあの小さな小さな工場を始め、たくさんのバリエーションが登場する機械仕掛けの数々。下水道を駆使して警察の目を逃れながら仕事をするウォンカ一味という流れでは、街全体をひとつの魔法がかった機械に見せていたともいえるでしょう。加えて、善悪のはっきりしないウンパルンパみたいな存在も忘れないのが、世の中の大半はグレーなのだからと、あんなに奇抜だけれど妙に頷いてしまいました。多彩なチョコレートが画面に登場しましたが、複雑な味わいを見せるチョコを作るには、実は甘いだけではない材料が大事なこととか、ひとつ入れるものを間違えれば毒にもなりかねないこととか、板チョコは割って分けやすい誰かとその喜びを分かち合うものだとか、人付き合いや社会にとって大切なことのメタファーとしてチョコをうまく働かせていたのも、素敵な演出レシピといったところでしょう。

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ポール・キングは「パディントン」シリーズで培った良質なファンタジー・メイカー、大人もばっちり目を丸くして楽しめる作品の造り手としての才能を本作でも遺憾なく発揮していて、ひとつの到達点だと思いますし、スーパーヒーロー映画には出ないと決めている作品選びに慎重を期すシャラメは、その甘いマスク、目尻の少し垂れたあの瞳が失わないきらめきもウォンカにぴったりで、きっと後に代表作と言われる役柄になったと思います。これは年末に見るのにも自信を持っておすすめできる1本です。
 
いい曲がたくさんあって迷っちゃうサントラですが、やっぱり頭のところ、夢を詰め込んだハットを被ってウォンカが登場します。なけなしのお金をポッケに入れてやって来たけれど、たった4分程度のこの曲の間に無一文になってしまうという、切なくもウォンカ青年の人柄を表す内容になっているのが巧みです。

さ〜て、次回2023年12月26日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『ポトフ 美食家と料理人』です。年末年始とごちそうを用意している方も多いかと思いますが、互いが互いを高め合うような関係が描かれているのかどうか、そして画面を彩る料理の美しさはどんな塩梅か。生唾ゴクリなタイミングが多そうなんで、適度に小腹に何か入れてから劇場へ行こうかしら。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!