京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 1月9日放送分
映画『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』短評のDJ'sカット版です。

2019年にまさかの大ヒットを記録した『翔んで埼玉』の続編。前作では、東京都知事の息子で名門私立高校生徒会長の壇ノ浦百美が、埼玉解放戦線を率いる帰国子女の転入生麻実麗と出会い、埼玉を開放する戦いに向かっていくという都市伝説が描かれましたが、今回はその3か月後が舞台です。東京への通行手形制度が撤廃されたのは良かったものの、埼玉県人は横のつながりが薄いという問題が浮上します。麗は埼玉県人の心をひとつにするため、越谷に海を作ることを計画。仲間と和歌山の白浜へと向かうのですが、関西は大阪府知事、神戸市長、京都市長支配下にあり、滋賀県ジン、和歌山県人、奈良県人が非人道的な扱いを受け、白浜も大阪人のためのリゾート地になっており、通行手形がない者は入ることができないシステムになっていたのでした。

翔んで埼玉 翔んで埼玉

原作は魔夜峰央ですが、続編の今作はオリジナルのストーリー。監督は前作に続き、『のだめカンタービレ』『テルマエ・ロマエ』『ルパンの娘』シリーズの武内英樹。キャストは、GACKT二階堂ふみ加藤諒益若つばさといった前作からの面々に加え、杏が滋賀解放戦線の貴公子桔梗を演じる他、大阪府知事片岡愛之助、神戸市長を藤原紀香京都市長川崎麻世がそれぞれ担当しています。
 
僕は先週水曜日の夕方にMOVIX京都で鑑賞しました。ほぼ満席! それでは、今週の映画短評、いってみよう。

前作も僕はラジオで評していまして、2019年2月のことでした。その内容はブログで読めますので、良かったらご一読ください。日本映画史上最大の茶番でありながら、そしてローカル極まりないトピックを扱いながら、実はかなり普遍的な寓話でもあるコメディーだと言っていまして、それが奇跡的にうまくいったのは、お話のメタ的な構造にあると分析していました。今回は学校が出てくる場面が少ないのでなおのこと忘れそうになりますが、GACKT演じる麻実麗は高校生だし、二階堂ふみ演じる壇ノ浦百美は男子なんです。ムチャクチャなんだけど、そんな話をそのまま見せるんじゃなくて、あくまで埼玉で絶大な人気を誇るラジオ局NACK5でDJが語る寓話、都市伝説であるという入れ子構造にしてあるから、現実と程よい距離感を確保できているんですね。今回もその仕掛けが採用されていまして、さらなる利点としては、話が関西に飛び火することで肝心の埼玉の影が薄くなることを回避しています。現実の埼玉でとある家族がラジオで聴いている話にしてあるので、現実の埼玉の物語、今回は地域対抗綱引き大会という綱、いや、話の軸も並行して走らせることで、麻実麗たちが関西へ出向くという、これまた突拍子もないとしか言いようがない設定が空中分解するところをぎりぎりのところでうまく収めているんですね。

(C)2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会
そして、今回のメインとなる関西の設定ですが、僕は前作が公開された時から、これ、関西でやるなら埼玉のポジションは我が故郷、滋賀がしっくり来るんじゃないかと思っていたもので、今作の情報が世に出たその日から番組でも前のめりな期待感をあらわにしておりました。滋賀出身の作家の姫野カオルコさんが書いた『忍びの滋賀:いつも京都の日陰で』という名著にもあったように、日本一スルーされる県とも言われる滋賀県にこうしてスポットが当たったことをまずは喜びたいです。やれ、滋賀作だ、やれ、ゲジゲジナンバーだ、京都洛中で働こうものなら、やれ産地偽装だと揶揄されまくってもめげずに琵琶湖のような広い心で笑って流してきた滋賀県解放戦線が犠牲を払いながらも一矢報いて関西に平和をもたらそうとする様子には、特に涙は出ませんが、たとえば杏演じる桔梗の面白いのになぜか感動的ですらある血気盛んな演説など、グッと来てしまうところがあります。

忍びの滋賀~いつも京都の日陰で~(小学館新書)

そして、出ました伝家の宝刀「琵琶湖の水を止める」という作戦で京都大阪に対抗するにあたり、その蛇口の部分である南郷洗堰、瀬田川洗堰というピンポイントに僕の故郷が大事な決戦の舞台となっていることも嬉しいかぎりでした。なんていう郷土愛をくすぐられるのは、僕が滋賀出身だからですが、こういう狭い地域でそれぞれの風習をいじったり、差をあげつらうなんていうのは、およそ人間が生きている世界中どこだってあることなんですよね。一歩引いてみればどんぐりの背比べだし、大同小異だと思うようなことで延々とぐちゃぐちゃやっている。それは傍目に見れば笑っちゃうようなことなんですよ。その笑っちゃうようなことを大真面目にやっているからなお笑えるという構図がまさにこの映画なわけです。だからこそ、関西いずれのいじりも、笑って済ませられるものになっているし、その姿勢はパンフレットで美術を担当された棈木陽次さんがしていた巧みな表現「ゼロ・リアル」なやり過ぎ演出の数々に結実しているのだと思います。

(C)2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会
僕も実際に何度か声に出して笑ってしまいましたが、ただただ笑うだけの演芸的な映画化と言えば、僕はそうでもないと思っていて、それが端的に感じられるのは片岡愛之助演じる大阪府知事の繰り広げる日本、あるいは万博を通しての世界大阪化計画だろうと思います。何度か劇中で出てくるセリフ「昔の大阪人はもっとおおらかで人が良かった」というもの。それがここしばらくの間にすっかり変わってしまったと嘆く人が出てくるのは… なんていうのは、はっきり現実の風刺だと思いますね。という具合に、なかなか踏み込んだ表現にもなっているし、僕はそのあたりまで読み解くと、ますますこの映画は、このシリーズは面白いと思います。

(C)2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会
風吹けば止まる湖西線。とびだしとびた君。滋賀の人間に信楽焼は割れません。比叡山は大津の世界遺産やねん。あと、最高だった、大阪の阪と書いての「阪流」ブームのくだりとか、小ネタの数々はいくら時間があっても足りないくらいなので割愛しますが、片岡愛之助藤原紀香の夫婦共演などのキャスティングも最高でした。たい焼きの尻尾まであんこが詰まっているようなネタ過積載な本作、ぜひ劇場でやっているうちに笑いに行ってください。
 
主題歌をお送りしても良かったんですが、ここはやはり滋賀のミュージシャンがいいなと思いまして、滋賀のほんわかバンド、ゴリラ祭ーズの最新アルバムExtreme Ennui Super Ultra Popからのインストナンバー、グッドバイをオンエアしました。

さ〜て、次回2024年1月16日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『PERFECT DAYS』です。お賽銭箱に貯まっていた13.600円を一度リセットしてもうちょい金額を増やし、能登地震ガザ地区での人道支援のためにそれぞれ1万円ずつ寄付をしたことが功を奏したのか知りませんが、映画ファンなら押さえておきたい話題作をきっちり当てることができました。ヴィム・ヴェンダース役所広司を主演に迎えて日本で撮影したこの作品。僕の周囲でも非常に高い評価の声を耳にします。行くぞ! さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!