社会派ダークコメディーを得意とする、『マネー・ショート 華麗なる大逆転』『バイス』などの監督、アダム・マッケイ。彼が監督・脚本・製作を務めた今作には、超豪華キャストが集いました。ミンディ博士にレオナルド・ディカプリオ、ケイト・ディビアスキーにジェニファー・ローレンスのほか、メリル・ストリープ、ケイト・ブランシェット、ジョナ・ヒル、ティモシー・シャラメ、アリアナ・グランデと、すごいことになっています。
『The Hand of God』短評
そして、アカデミー賞の授賞式で観客の度肝を抜いたのが、マラドーナへの感謝です。マラドーナがいたからこそ、今の僕がいると。どういうことなのか。今作では、ソレンティーノが映画監督になってからも、37歳にいたるまで住み続けたナポリそのものの不思議と、世界的スターのマラドーナがナポリへやってきたことがいかに多くの市民に影響を与え、例のワールドカップにおける神の手ゴールによって自分が文字通り生かされた体験の不思議を描いています。マラドーナがいたからこそ、今の僕がいるという趣旨の発言は、誇張でもなんでもないのだと、これを観ればわかります。
冒頭、美しきあこがれのおば、パトリツィアの身に起こる宗教的かつ俗っぽくもある奇妙なできごとのシーンがありました。彼女は聖人と妖精に出会ったというのだけれど、夫からは浮気だと罵られて大騒ぎになる場面。ファビエットは、彼女の不可思議な体験を信じるんですよね。理性や理屈を超えて、その話を受け入れるわけです。そのスタンスが全体を通して満ちています。思わずあっけにとられたり、固唾を飲んでしまう、現実ベースなのに現実離れした映像の数々は、鑑賞後にも不意に脳裏に蘇るほど、すごいです。ラスト、主人公がナポリを離れて映画の都ローマへとひとり列車で旅立つ場面。車窓の外側からとらえたファビエットの顔には、ガラス越しに外の景色が二重写しになっていて、それが流れていく。ナポリで彼が経験した数々のできごとを僕たちも反芻しながら、人の営みや時代、街の不思議と、その中で地に足つけて自分の生を紡ぐのだと一歩踏み出す勇気をじわじわたたえるラスト。ノスタルジックであり、シビアでもあり、愛おしくもあり、忘れたいが、思い出される… 遠いナポリのユニークな映画でありながら、オトナの階段を登る若者の普遍的な有り様をしっかり描く。ソレンティーノ、やはり巨匠の域です。入門としてもオススメ。フェリーニを継承するイタリア映画の最高峰のひとつ、ぜひどなたもご覧ください。
『ノイズ』短評
『CODA コーダ あいのうた』短評
『スティルウォーター』短評
『こんにちは、私のお母さん』短評
と、ここで興味深く鑑賞したポイント、ふたつめは、そうした古臭さやタイムトリップだからってご都合主義が多すぎるんじゃないかと思えた展開を、すべてカッコに入れてくくった上で相対化してしまう脚本の構成です。ラスト20分の流れには、思わず僕も落涙。笑いと涙の混じり合う様子は、僕はベニーニの『ライフ・イズ・ビューティフル』を連想しましたが、とにかく怒涛の畳み掛けで、それまでの2時間弱を相対化するというか、『カメラを止めるな』的に、見え方がまるっきり変わる体験をすることになります。これにはやられました。「親の心子知らず」と言いますが、僕たちはそれぞれに主観で世界を認識しているわけで、いくら肉親であっても、その心のうちはわからない。わからないからこそ、通じ合った時の喜びはひとしおなわけで、その種の体験・仕掛け・伏線回収にへなへなになります。あのオープンカーも、まさかここでこんな形で意味が生まれるとは… ジア・リン監督、お見事でした。
『ボス・ベイビー ファミリー・ミッション』短評
さ〜て、次回、2022年1月18日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『こんにちは、私のお母さん』となりました。中国映画で、コメディーで、なおかつタイムトリップもの。中国映画に明るくない僕なので、うかつなことは言えませんが、これは僕たちにとっては新しい映画体験になりそうな気がしています。コメディーと言いつつ、思わず落涙しそうな雰囲気もありますね。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!