京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『唐人街探偵 東京MISSION』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 7月20日放送分
『唐人街探偵 東京MISSION』短評のDJ'sカット版です。

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バンコク、ニューヨークと、これまで難事件を解決してきた中国の探偵コンビ、タン・レンとチン・フォン。ふたりは日本の探偵野田昊(ひろし)から協力を依頼されて東京へ。同じ頃、タイの元刑事でやはり探偵のジャック・ジャーも同じ事件を解決するため、日本へ飛んでいました。その事件とは、東南アジアのマフィアの会長が密室で殺害されたもの。容疑者として起訴されたのは、ヤクザの組長、渡辺。今回のミッションは、渡辺の冤罪を証明することなのですが、果たして…。

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©WANDA MEDIA CO.,LTD. AS ONE PICTURES(BEIJING)CO.,LTD.CHINA FILM CO.,LTD “DETECTIVE CHINATOWN3”

中国のスター俳優が共演し、世界中のチャイナタウンで事件を解決するミステリーコメディ・シリーズ3作目。前の2作は日本未公開だったのですが、2作目のニューヨーク編も年内に公開されることになったようですね。監督・脚本は、78年生まれで、俳優から監督へとキャリアを移して大ブレイクのチェン・スーチェン。中国の探偵コンビを、ワン・バオチャンとリウ・ハオランがシリーズを通して演じている他、今回は日本のキャストが豪華です。前作から登場している探偵の野田に扮する妻夫木聡の他、浅野忠信長澤まさみ三浦友和染谷将太鈴木保奈美なども大事な役どころで出演しています。
 
僕は先週水曜日の午後、TOHOシネマズ二条で字幕版を鑑賞してきました。日本語吹き替え版も考えたんですが、中国語と日本語が入り乱れる感じが楽しいだろうと字幕を選んで大正解。ちゃんと言語の壁を越えるような仕掛けもあるので(ご都合主義的だけれど、そこはご愛嬌)、どうせなら字幕を強くオススメします。そして、劇場はわりと入っていましたね。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

 

今年のマサデミー賞では、中国新世代の才能の塊、『ロングデイズ・ジャーニー この世の涯てへ』のビー・ガンさんに監督賞を授けました。僕の貧弱な映画体験だと、日本で観られる中国の映画というのは、そういったアート系や歴史超大作が多いなという印象でしたが、ここ10年ぐらいはハリウッドにもばりばり資本を投下しているわけで、大衆娯楽エンタメとしての作品だってそりゃ出てきてるわけだよなと、遅まきながらこのシリーズで知ることになりました。先週当たった時には、前の2本は観てない、まずいなって言っていましたが、それもそのはずで、現時点で、日本を舞台にしたこの3作目が本邦初公開です。
 
とはいえ、その辺は親切設計になっていまして、「東京MISSION」から入る観客を想定して、冒頭にこれまでのダイジェストがテンションアゲアゲでしっかり挿入されます。007方式と言いますか、そもそもが1本ごとに完結する物語だし、新キャラも多いので、置いてけぼりを食らうような心配はしなくて大丈夫です。公式サイトでも、「全ジャンルメガ盛り」という言葉がギラギラ踊っているその看板通り、観光映画、コメディー、ミステリー、アクション、ヒューマンドラマと、それこそ大衆娯楽映画の人気ジャンルがすべて入っています。しかも、つまみ食いどころか、ひとつひとつ本格的で尺も割いているので、満漢全席状態。お腹いっぱい夢いっぱい。シリーズの人気がうなぎのぼりで、今作が754億円の興行収入を生み出したってのもうなずけます。パンフで評論家のくれい響さんが書いていたことですが、中国では検閲の問題が今もなおしっかりあるので、違法とされる私立探偵を主人公にするというのは難しいそうです。じゃぁ、海外で事件を解立決すりゃいいじゃんってことで裏をかいたのが本シリーズ。背が低くお調子者でお笑い担当の便利屋タンと、その甥っ子で天才肌の推理オタクのイケメンであるチン。この凸凹バディが海外を飛び回るんだから、そりゃ面白いですよ。

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©WANDA MEDIA CO.,LTD. AS ONE PICTURES(BEIJING)CO.,LTD.CHINA FILM CO.,LTD “DETECTIVE CHINATOWN3”

今回であれば、我らが日本で象徴的なところで言うと、東京都内で6ヶ所、関西は兵庫県を含む16ヶ所で大規模なロケが敢行されています。これは後に、聖地化することを考えれば、ポスト・コロナの観光資産になるはずです。さらに、現地ロケが難しい場所として、渋谷のスクランブル交差点があって、2000人のエキストラを動員したシーンが展開されるんですが、あれはまるまるオープンセットを栃木県に作ったそうです。日本ならこのセットの建築費用で映画一本撮れるという資金力。唸る他ありません。

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©WANDA MEDIA CO.,LTD. AS ONE PICTURES(BEIJING)CO.,LTD.CHINA FILM CO.,LTD “DETECTIVE CHINATOWN3”

全体を通して、笑いの取り方がクドいとか、大げさなんだよとか、ツッコミを入れたくなることが何度もありました。ただね、たとえば、秋葉原で突如おっぱじまるアニメコスプレ大会に象徴されているんですが、やるからにはとことんやるって感じで、あの場面には『金田一少年の事件簿』の原作者、天樹征丸(あまぎせいまる)さんがチラッと出演していたりとか、事件解決のくだりでは、日中の歴史の闇の部分にしっかりストーリーの背景を透かせてみせたりしているんですよ。各方面へのリスペクトも感じるから、憎めない、どころか、わかってんなぁっていうキャスティングも含め、ばっちり面白い。『Sherlock』だよねっていうスタイリッシュな編集術とコテコテのギャグが同居するんですから。僕はかなり好意的に観ています。
 
順番は逆になりますが、年内には2作目が日本でも公開されるし、4作目はロンドンが舞台とされているということで、いずれも期待大です。「配信でもいいので、1本目も観せてほしい!」ってどこに言えばいいのかわからないので、ラジオで言っておきました。
結構、大事な、キメの場面で、角川映画のわりと有名な曲を持ってくるというのにびっくりしましたが、悪くはない! 色々書きましたが、語り甲斐のある作品で、僕はとにかく内容も製作の枠組みも、興味深くてしょうがなかったです。


さ〜て、次回、2021年7月27日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『竜とそばかすの姫』となりました。カンヌ国際映画祭の栄えあるオープニングに選ばれた細田守監督最新作にして、僕もデビュー前から交流のあるシンガーソングライター中村佳穂さんが歌のみならず声優としても大車輪の活躍って、そりゃ期待大です。当たって良かった! 大画面で観るのが楽しみでなりません。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!