京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『レディ加賀』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 2月20日放送分
映画『レディ加賀』短評のDJ'sカット版です。

加賀温泉にある老舗旅館の一人娘、由香。小学生の頃に見たタップダンスに魅了された彼女は、プロを目指して上京。舞台にも立つようにはなったものの、思うようには活躍できず、実家に戻って女将修行をスタートさせます。ただ、全国から集まった女将を目指す女性たちに気後れし、なかなか思いに火がつかずにいたところ、加賀温泉を盛り上げるためのプロジェクトが始まることに。ここで奮闘せずにどうすると、由香は新米女将たちを集めて、タップダンスのイベントに向けて準備を始めるのですが……。

カノン

監督と共同脚本は『カノン』の雑賀俊朗(さいがとしろう)。由香を演じたのは、小芝風花。その母親で老舗旅館の女将に檀れいが扮したほか、佐藤藍子森崎ウィン、そしてタップダンサーのHideboHなども出演しています。
 
僕は先週火曜日の夜になんばパークスシネマで鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

ご当地映画という言葉で括られる作品がありますね。古くは『二十四の瞳』の小豆島とか、大林宣彦尾道三部作もそうでしょう。物語や俳優に加えてロケ地の魅力もスクリーンを通して観客に伝わった時、その舞台は聖地巡礼の対象にもなりますし、その拠り所として記念館なんかが作られることもしばしばです。寅さんとか釣りバカ日誌みたいなのは、ご当地映画のシリーズ版とも言えるだろうし、撮影が決まるとその自治体からは歓迎を受けるなんてこともありました。でも、たまたまロケ地に選ばれるのを待たず、地域おこしや自分たちのコミュニティの個性をアピールする、再確認することを目的に作られるご当地映画というものもあって、実は今世紀に入ってからの一大ジャンルになってもいます。これが成功したケースの一つに『フラガール』がありますね。2006年の公開で観客動員は130万人、キネマ旬報のベストテンで1位、読者選出でも1位という大ヒットと評価を得ました。福島県を舞台にしたご当地映画であり、実話に基づきながら、ダンスで町おこし事業を展開していく様子を劇映画化したという流れは、『レディ加賀』にも同じことが言えます。

(c)映画「レディ加賀」製作委員会
こちらは加賀温泉が舞台ですが、主人公の由香を含め、20代でまだ自分の生き方を決めきれていない状況だった女性たちが、それぞれのバックグラウンドと想いを抱えながら、女将を目指した養成講座に参加し、由香の得意なタップダンスでレディ加賀を結成。SNSを使いつつアピールしながら、イベントをやろうと盛り上がるものの、トラブルもそりゃ続々と発生して、クライマックスはイベントそのものになる。だいたい予想通りにことが運んでいきます。

(c)映画「レディ加賀」製作委員会
その意味で、のんびり見られる、お約束重視の作品ですから、脚本も演出も全体的にゆるいです。コメディ演出は大げさで突発的な大きな言動で何とかしようとするし、だいたいのシーンで演劇的にただ立って人の話を聞いているだけのキャラクタがー登場するし、旅館の後継者不足の問題やそれぞれの女性たちの背景や人生の乗り越えるべき困難の切り込み不足により、全体的に軽い印象になってしまっています。観光コンサルタントを呼んできて、あとはぶら下がって太鼓持ちをしてしまっている町役場の人間とか、もうちょい突っ込んでも良さそうですが、そこはご当地娯楽映画が積極的にカバーするところではないのでしょう。とりあえず、イベントが上手くいけば万事OK的なクライマックスへと向かうわけですが、そこでもいろいろトラブル満載ですよ、それは。なんじゃそりゃっていう事態がどんどん起こります。もうシッチャカメッチャカで、演出も演技もそれに呼応したものになっているんですが、それをみるみるワンチームになった若者たちが解決していく。何とか形にする。それを見守る年長者たち、という構図。でも、それがですね、地元のお祭とかイベントの類のあの独特なゆるさとマッチしているというか、物語の内容と映画のスタイルが望ましくない形で合致しているんだよなとぼんやり思っていたら、ハッとしました。

(c)映画「レディ加賀」製作委員会



佐藤藍子演じる厳しい女将が修行中の若い女性たちにこう話すんです。加賀温泉にはこれまで3つの危機があった、と。それは2007年に起きた能登半島地震であり、東日本大震災やコロナ禍における観光産業の不振だったということ。それが、今こうして全国公開されている時点で、製作時には予想もしなかった4つめの危機に見舞われているわけです。実話を基にしたフィクションがまた新たな現実を迎えている中で見られているということになるわけで、レディ加賀を、そして石川県内の観光振興を願わずにはいられなくなるんですよね。華麗なタップダンスのようにキレの良いウェルメイドな映画というわけではありませんが、観ているとハラハラして妙に応援したくなるチャームもあります。タップがモチーフとあって、足元をうまく切り取って畳み掛けるところとか、もちろん良いところもあるよ。配給収入の5%が義援金として石川県に寄付される他、映画館によっては独自の義援金システムを設定しているところもありますよ。ゆるくご覧になってみてください。
潔い終わり方のところに、エンディングとして眉村ちあき書き下ろしのこの歌が光っていました。

さ〜て、次回2024年2月27日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人』ジョニー・デップが、ここに来てすごい演技を見せているという評判も聞きますよ。しかも、フランス語を駆使して。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!