京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

スターチャンネルで配信中!『醜い奴、汚い奴、悪い奴』作品解説

Amazonプライム内「#スターチャンネルEX」で好評配信中、BS「スターチャンネル」で随時再放送!
僕・野村雅夫が選ぶ、イタリア映画の巨匠たちによる、知られざる名作シリーズ。

『愛と殺意』『狂った夜』『三人の兄弟』『ゴールデン・ハンター』『醜い奴、汚い奴、悪い奴』の5作品から、今回ご紹介するのはこちら。

醜い奴、汚い奴、悪い奴

『醜い奴、汚い奴、悪い奴』(原題:Brutti, Sporchi e Cattivi)

原題はわりと直訳で、『Brutti, Sporchi e Cattivi』。このタイトルは、明らかにセルジョ・レオーネ監督『続・夕陽のガンマン』(Il buono, il brutto, il cattivo、1966年)を意識したものだと思います。レオーネの方は「いい奴・醜い奴・悪い奴」。それぞれ該当するキャラクター3人が登場するウェスタンなのに対して、本作のタイトルはどれも複数形なんです。つまり、出てくるみんなまとめて醜くて、汚くて、悪い、と。

続・夕陽のガンマン

筆頭がニーノ・マンフレディ演じる大家族の父親です。太った妻と10人の子供たち、さらには義理の息子や娘といった親戚や車椅子のおばあちゃん。総勢20名程度の大所帯が狭くるしい一つバラックに暮らしているのですが、とにかくこの父親が異彩を放っている。仕事で片目を失ったことで得た補償金を隠し持っていて、誰かが自分の金を盗むんじゃないかと疑うあまり、家族だろうと撃ち殺す気満々でいつもライフルを抱いて眠るのです。そして、本能の赴くまま生きる彼が、ある日太っちょ売春婦に惚れ込み、自宅に連れ帰ったことから混乱は加速。大家族はあらぬ方向へ漂流し始めます。

混乱が加速

パゾリーニが同じくローマの下層社会を60年代前半に描いた『アッカトーネ』『マンマ・ローマ』『リコッタ』ってのがありましたが、それから10数年。今度はスコーラ監督が扱ったものです。正直、パゾリーニが描いていた高度成長から取り残された人たちよりも、さらにキツい感じがあります。でも、改めて観ていて、なんだろうこの感じはと思った時に、大胆なたとえをしますが、「もはやプロレタリア文学」と評されるマンガ『じゃりン子チエ』の世界に通じるものもあるかな、なんて。とすると、ニーノ・マンフレディ演じる最悪の父親はテツということになるわけですが、どうでしょうか?

じゃりン子チエ

興味深いのは、舞台設定です。彼らが住むバラックが建つのは、ヴァチカンにほど近い小高い丘。サン・ピエトロ大聖堂のクーポラが遠景に見えて、中景には画一的なマンションとそれが連想させる平均的な人々の平凡な暮らし。そして社会の底辺も底辺な粗野な大家族が暮らすバラックの暮らしが手前にある……。

キリスト教の総本山の見えるすぐそば。聖と俗がこんなにも近いところに混在している状況。警察にも見放され、まさにドブネズミのように扱われている父親、そして大家族の生きる様は、まるで、バンド、ザ・ブルーハーツリンダリンダで歌われるように、ドブネズミみたいに美しくなりたい的な世界観で、ろくでもない中に、生のきらめきが垣間見える瞬間があるんです。彼らは確かに醜く、汚く、悪いけれど、あくまで「粗野なだけ」で、本質的な悪人でもない。ある意味、純粋といえます。労働意欲なんてない反面、変な上昇志向もない。現代人が失ったものを思い出させてくれるというと、大げさでしょうか。本作でスコラはカンヌ国際映画祭監督賞を獲得しました。

この作品、そしてそのほかの僕が選んだイタリア映画も、ぜひスターチャンネルでお楽しみください!


【視聴方法】
・配信:Amazonプライムビデオ内「#スターチャンネルEX」にて。7日間無料体験!Amazonプライム登録要。
・TV:BS映画チャンネル「スターチャンネル」にて。BSが映るTVで有料視聴可。

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■作品情報
醜い奴、汚い奴、悪い奴
BRUTTI, SPORCHI E CATTIVI
1976年/イタリア/117分
監督/エットーレ・スコラ

 

■キャスト
ニーノ・マンフレディ

スターチャンネルで配信中!『三人の兄弟』作品解説

Amazonプライム内「#スターチャンネルEX」で好評配信中、BS「スターチャンネル」で随時再放送!
僕・野村雅夫が選ぶ、イタリア映画の巨匠たちによる、知られざる名作シリーズ。

『愛と殺意』『狂った夜』『三人の兄弟』『ゴールデン・ハンター』『醜い奴、汚い奴、悪い奴』の5作品から、今回ご紹介するのはこちら。

三人の兄弟

『三人の兄弟』(原題:Tre fratelli)

主な舞台は、イタリア南部の農村です。裕福な地域ではありません。高齢の母親が亡くなり、葬式のために実家に帰ってきた息子たち三兄弟の二日間を描く、あらすじをいうとただそれだけのストーリー。なんですが、これがなんとも味わい深いんですよ。

長男は50代でローマの裁判官、次男は40代でナポリの児童カウンセラー、三男は30代でトリノの労働者と、世代も違えば職業も今暮らす街も違う三人、久しぶりに言葉を交わすなかで立場や考え方の違いが浮き彫りになってくるんですね。特に長男と三男の意見がぶつかります。

長男(左)と三男(右)

南北の格差や確執を語ったり、「デモからテロに発展することもある」など、政治的な意見を戦わせたりという会話を通して、1981年当時の時代背景や社会のあり方も透けて見えてきます。

基本的に、兄弟たちはそれぞれがそれぞれの悩みを抱えており、言葉を交わしたとしても本質的にその考えが交わることはありません。このあたりはリアルですよ。交流も乏しかった様子というのを絵的にも、あまり同じカットに同時に映さないという見せ方で表現しているんですが、とはいえ、それぞれにもちろん母の死を悲しんではいるわけです。そんな兄弟たちが、ラスト近く、物理的な距離はありながらも、窓越しに揃うショットがラスト近くにあるんですね。3人はバラバラだけどそれぞれに母の死を悼んでいて、棺を運ぶという共同作業の瞬間、その人生が交わる。家族、そして人生を深く描いた名シーンといえます。

監督はフランチェスコ・ロージ。日本では彼の作品はそんなに公開されていないので知名度は低めですが、本国では巨匠であり、『ニュー・シネマ・パラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレ監督がこのフランチェスコ・ロージ監督に非常に影響を受けていると公言しているんです。言われてみれば登場人物のフィリップ・ノワレは、『ニュー・シネマ・パラダイス』で日本でも非常に有名な名優。本作では非常に重要な役どころとなる、三兄弟の長男を演じています。

ニュー・シネマ・パラダイス

フランチェスコ・ロージは、元々は『シシリーの黒い霧』『コーザ・ノストラ』など、マフィアと地元の関係を描くドキュメンタリーっぽい手法を好む監督だったんですが、この時期の作品はかなり文学的、ポエティックな映像表現が特徴的になってきていて、冒頭、母親の死の表現(うさぎの表現)や、三兄弟と父親がそれぞれの願望を夢見る表現などが特に印象的です。ロージ監督らしいネオレアリズモ風ドキュメンタリータッチの映像に、不意にポエティックな表現が滑り込んでくる。特に長男がテロに見舞われるシーンなどは、それが夢であるのかどうか、しばらく判然としないくらい、現実と夢の境が非常に曖昧に描写されています。

アカデミー外国語映画賞ノミネート、また、イタリアのアカデミー賞ともいわれるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で最優秀監督賞・最優秀脚本賞を受賞した本作。このたび日本初公開です。

この作品、そしてそのほかの僕が選んだイタリア映画も、ぜひスターチャンネルでお楽しみください!


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■作品情報
三人の兄弟
TRE FRATELLI
1981年/イタリア=フランス/115分
監督/フランチェスコ・ロージ

 

■キャスト
ラファエレ(長男):フィリップ・ノワレ
ロッコ(次男):ヴィットリオ・メッツォジョルノ
二コラ(三男):ミケーレ・プラシド
ドナート(父):シャルル・ヴァネル

『シン・仮面ライダー』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 4月11日放送分
映画『シン・仮面ライダー』短評のDJ'sカット版です。

仮面ライダー誕生50周年を記念に製作されたオリジナル作品です。人類を幸福に導くと謳う組織SHOCKERによってバッタオーグに改造された本郷猛。緑川弘博士、その娘ルリ子とともに組織を裏切り、逃亡を図ります。追手をプラーナによって得た力で殺してしまったことで苦悩する本郷でしたが、博士が殺され、ルリ子を託されたことで仮面ライダーと名乗り、SHOCKERとの戦いを決意します。
 
シン・シリーズですから、庵野秀明さんが監督と脚本を手掛けています。仮面ライダー本郷猛を池松壮亮仮面ライダー第2号一文字隼人を柄本佑、そしてルリ子を浜辺美波が演じた他、塚本晋也松尾スズキなどなど、ここではあえて名前を挙げませんが、びっくりするような豪華キャストが多数出演しています。
 
僕は先週木曜日の午後にTジョイ梅田のドルビー・シアターで鑑賞してきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

庵野秀明が手がけるシン・シリーズの4作目となりますね。ゴジラエヴァウルトラマン、そして仮面ライダー。マーヴェルのようなそれぞれのつながりやキャラの行き来はありませんが、シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバースと銘打たれています。中でも、仮面ライダーにはまたひときわ思い入れがあったということで、脚本は4本すべて庵野秀明の単独クレジットですが、今回は初めて単独で監督も手掛けていることからも、その情熱が伝わります。

(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会
僕は今回東映系列のTジョイ梅田のドルビー・シアターで観たわけですが、まず特に初代仮面ライダー特有のダークな雰囲気、71年から73年の若者たちのモヤモヤした葛藤が大いに反映されただろう、文字通りダークな画面を観るには、黒が本当に漆黒というレベルで味わえるドルビー・シアターは、僕は劇場の選択としても良かったと思います。あのクライマックス近くのトンネルの所とか、闇の中に増殖したキャラクターが浮かび上がって、まぁ不気味でした。このシリーズ、ユニバースは、ご存知の通り、「シン」がカタカナで表記されていて、そこには「新しい」とか「真」とか、いろいろ意味が重ねてあるわけですが、今回のアプローチは真の仮面ライダーを、芯を食った映像で見せるんだという気概みたいなものが感じられます。僕は決して詳しくありませんが、コマ割りまで参照して、それを映画のカット割りに持ち込んだという石ノ森章太郎の原作、というか、当時メディアミックスで出た漫画と、もちろん、藤岡弘が主役を張った初代の映像のテイストを50年経った今、スクリーンに反映させるんだということです。池松壮亮のキャスティングも良かったと思うんです。悩める若者の雰囲気が出るし、髪型や線の細い感じも、70年代風のファッションに合いますから。これは浜辺美波もしかり。特報を映画館で観た時なんて、70年代好きの僕としてはすごくワクワクしました。あの、複雑に入り組んだ電車のレールの上でふたりが相対する絵だけで、こりゃ期待が持てる。東宝円谷プロの特撮とは違う、あの頃の東映のザラッとしていて猥雑で暴力的で人間的な映像のテイストを今に蘇らせるんだという、それこそ芯を食った仮面ライダーにしたいのだという意欲が、僕は空回りしているところが多いように今作は思いました。

(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会
先日、製作の裏側を追いかけるドキュメンタリーがNHKで放送されて、そこでもわかるように、庵野さんはまずアクションにこだわったんですが、試行錯誤と自問自答を重ねた結果、わりと直球でCGを多用しているうえ、その狙ってそうしているんだろうチープさが、結局実写とチグハグな印象を与えていて、たとえばコウモリオーグ、怪人のところなんて、笑わせようとしているのかなっていう感じになっていましたよね。それから、役者ががんばって体張って現場で動いたアクションも、お得意の細かいカット割りの編集で細切れにしているせいで、重みが効果音頼みになっていました。編集し過ぎで何が起きているのかよくわからないし、話もどんどん詰め込んでいっているので、びっくりするような省略を多用した結果、場面転換が紙芝居ばりに飛ぶんですよね。怪人たちがなぜ怪人になってしまっているのかという心理的な袋小路、闇の部分もほとんど示されないので、なんだか怪人を倒していくのが段取りめいて映ってしまうという問題も生じていました。部分部分で見れば、今思い返しても好きなところはそりゃありますが、これをもって、少なくとも僕みたいな仮面ライダーに対して特に思い入れのないような観客が好きになるかと言えば、まずその可能性には乏しいと言わざるを得ないです。続編の構想もあるようで、作られるなら観たいですが、この路線だとちと厳しいかなと感じてしまいました。
この曲を劇場の大音量で聴くと、そりゃ気分が高揚しますね。あと、リスナーからの感想では、浜辺美波がすばらしいという、こちらも高揚しっぱなしという声が多数寄せられました。異存なし!

さ〜て、次回2023年4月18日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『パリ・タクシー』です。この番組では、以前ぴあの華崎さんが『ドライビング・MISS・デイジー』と比較しながら紹介をしてくれた作品です。タクシーを舞台装置として活用する映画は、面白いものが多いような気がするんですが、果たしてこちらはどうでしょう。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!

スターチャンネルで配信中!『愛と殺意』作品解説

Amazonプライム内「#スターチャンネルEX」で好評配信中、BS「スターチャンネル」で随時再放送!
僕・野村雅夫が選ぶ、イタリア映画の巨匠たちによる、知られざる名作シリーズ。

『愛と殺意』『狂った夜』『三人の兄弟』『ゴールデン・ハンター』『醜い奴、汚い奴、悪い奴』の5作品から、今回ご紹介するのはこちら。

愛と殺意

『愛と殺意』(原題:Cronaca di un amore)

 

僕も大好きな名匠アントニオーニ監督は、基本的には中流階級以上の男女のすれ違いを描くことが多い作家です。本作はそんなアントニオーニの長編デビュー作です。表面上はサスペンスの枠組みを借りながら、後に彼を世界に知らしめることになる「愛の不毛」というテーマと、幸せとはなんだろうかという普遍的な問いを盛り込んだ意欲的な1本だと思いますね。原題はCRONACA DI UN AMORE=「ある愛の記録」。ヴィスコンティパゾリーニベルトルッチの代表作に出演した俳優マッシモ・ジロッティが好演する、日本では劇場未公開作です。

時は1950年。ミラノの裕福な実業家が、若い妻パオラの結婚前の行動を疑い、私立探偵に過去の素行調査を依頼するところから話は始まります。

パオラを演じるのはルチア・ボゼー

美しいパオラは地元で大いにモテていたようですが、特にグイードという青年と関係が深かった様子。ふたりは、もうひとりの女とどうやら三角関係になっていたんですが、その女がエレベーターから転落死するんです。事故か自殺か、はたまた他殺か。曖昧な形で死んだのがきっかけで、パオラとグイードはそれっきり別れてしまいました。ところが、皮肉にも探偵が嗅ぎまわったことがきっかけとなって、ふたりは再び会うようになるんですね。

マッシモ・ジロッティ演じるグイード

戦後、日本よりも高度経済成長が早かったイタリアでは、当時、格差が広がっていました。玉の輿に乗ったパオラの家には、庶民は当時手の出なかった自家用車が3台もあって、オートクチュールの服に身を包み、高いお酒や外国産のタバコを吸うという、贅の極みをつくしていました。

ひとつ象徴的なシーンがあります。ある女性キャラクターが、キスチョコを食べて、中に入っていた愛の言葉、名言を、かたわらのビジネスマンに伝えて、これは誰の言葉かと聞くんです。男の答えは「金を持ってない奴さ」と答えます。これ、つまり、信じられるのは金だけだという価値観が広がっていたことを示唆しているんですね。

タバコをくゆらすパオラ

そんな拝金主義が広がる社会の変化についていけなかった人々もいます。パオラの元恋人グイードがまさにそうで、彼はもう少しうまくやれていれば成功できたのでしょうが、商売の才能には今ひとつ恵まれなかったかもしれない。少なくとも、悪知恵が働くタイプではないんですね。しかし、この映画では、上流階級を羨ましい感じにはまったく描かない。それこそ、アントニオーニ的テーマでしょうね。

再会したパオラとグイードは、情熱的に愛し合いたいと願う一方で、パオラはこんなことも口にします。でも、「今さら国産のタバコを吸うような貧乏に戻るのはまっぴら」。グイードが、彼女との間に隔たりを覚える瞬間です。

アントニオーニのうまさは景色の描写にあります。大事なことほど彼はセリフに落とし込むより景色の描写で見せようとする。本作で非常に印象的に使われているのがエレベーターという小道具です。過去、痛ましい事件があったエレベーターを、直接関係のない場面で、何度か登場させます。そのワンショットにパオラとグイードの心象風景を込めるんですね。また、上下する乗り物エレベーターですから、そこには経済成長の波に乗れる者と滑り落ちる者というメタファーも感じるわけですよ。

エレベーターが心象を示唆する

サスペンスの体裁をとりつつ、今の僕たちにも響く愛の記録になっています。幸せって、なんなんですかね。

この作品、そしてそのほかの僕が選んだイタリア映画も、ぜひスターチャンネルでお楽しみください!

 

【視聴方法】
・配信:Amazonプライムビデオ内「#スターチャンネルEX」にて。7日間無料体験!Amazonプライム登録要。
・TV:BS映画チャンネル「スターチャンネル」にて。BSが映るTVで有料視聴可。

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■作品情報
愛と殺意
CRONACA DI UN AMORE
1950年/イタリア/105分
監督/ミケランジェロ・アントニオーニ

 

■キャスト
パオラ:ルチア・ボゼー(『ラスト・ハーレム』)
イードマッシモ・ジロッティ(『郵便配達は二度ベルを鳴らす』『夏の嵐』)
カルローニ(探偵):ジーノ・ロッシ
エンリコ・フォンターナ(パオラの夫):フェルディナンド・サルミ

『雑魚どもよ、大志を抱け!』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 4月4日放送分
映画『雑魚どもよ、大志を抱け!』短評のDJ'sカット版です。

1988年の春から夏にかけて、地方の町に暮らす平凡な小学生の瞬は5年生から6年生へ。親友の隆造など、つるんでいた4人組はクラス替えでバラバラになり、成績が奮わない瞬は母親から塾通いを命じられます。そこで映画好きの同級生と仲良くなったり、妙な転校生がやってきたり、たちの悪いいじめを目撃したりするうちに、人間関係に微妙な変化が生じます。すると今度は、母親の体調に大きな変化が… 合わせて7人の男子小学生とその家族など周辺の人間関係を追った青春群像劇です。

弱虫日記 (講談社文庫)

2017年に小説として出版していた『弱虫日記』を、足立紳自ら共同脚本と監督で映画化した本作。主人公瞬を演じたのは、関西ジャニーズJr.の池川侑希弥(いけがわゆきや)。その親友隆造を田代輝(ひかる)、妹のワコを新津ちせなど、ゼロ年代後半生まれの少年少女が活躍しています。大人のキャストとして、瞬の両親を臼田あさ美、浜野謙太、隆造の父を永瀬正敏が演じています。
 
僕は先週水曜日の午後に梅田ブルク7改めTジョイ梅田で鑑賞してきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

88年、僕は主人公たちよりも少し下の小学3年生でした。ちょうど僕が近所のスーパーにできたレンタルビデオコーナーで『スタンド・バイ・ミー』を借りて観た頃です。だから、あの空気感はとてもよくわかります。僕の場合は、大津の外れのニュータウンでしたが、彼らはさらに地方のやはりニュータウンの外れって感じでしたね。ど田舎ではないが、小学校を中心としたテリトリーにはたくさんの自然が残っている感じ。似ているからこそ、違いが気になります。どこを切り取っても、どこでロケをしているんだろうと。遠景には、かなり高い山々がそびえていましたね。あれは岐阜県飛騨市だそうです。ロケハンをしたスタッフは、飛騨市を訪問して、「日本のキャッスルロックを見つけた」と喜んだとか。キャッスルロックとは、それこそ『スタンド・バイ・ミー』など、いくつものスティーヴン・キング作品の舞台となったアメリカの典型的な架空の田舎町です。今作では、飛騨市の全面協力があって、見事に昭和最後の日本のひとつの典型的な景観がスクリーンに蘇りました。彼らの行動範囲をまるっと見せてしまうような壮大な長回しを含むタイトルが出るまでの一連の流れがまず素晴らしいです。主人公瞬の家の自宅の窓に小石が当たる。それは相棒である隆造からの誘いの合図。彼は玄関から靴をこっそり持ち出し、自室に戻って、窓から外へ。落ち合ったふたりは、自転車で仲間の家を次々訪問。そして、そのまま学校や駄菓子屋へ。若き足立監督が師事して今作の元になる脚本も見せていた相米慎二監督の代名詞的な長回しを彷彿とさせる手振りに心躍りました。

(C)2022「雑魚どもよ、大志を抱け!」製作委員会
4人のキャラクターや背景のバランスがとても良かったです。隆造は前科者のヤクザの息子で、途中から戻ってきますが、家には母親がいなかった。喧嘩は強いが、だからといって学校を仕切るタイプではない。父のようにはなりたくないと思っている。新興宗教にハマったシングルマザーのもとで育ち、登校拒否気味でアトピーも吃音もあるが仲間に助けられている子。勉強はすごくできて最新ゲームにも強いがひ弱でお姉ちゃんはぐれかけていて、やはりシングルマザーのもとで狭い団地に暮らす子。そして、瞬はわりと平凡な家庭の子です。ただ、お母さんの乳がんの問題と、自らの成績不振による塾通いに不満を覚えている。こうした条件のもとで、いじめっ子がいたり、アクの強い教師がいたり、モデルガンマニアの転校生がやってきたり。絵画で言えば点描やモザイク画のように、ひとつひとつの細かいピースがうまくハマって、全体として確かにあの時代あり得ただろう名もなき子たち、雑魚どもの甘酸っぱくほろ苦い少年時代が浮かび上がっているんです。

(C)2022「雑魚どもよ、大志を抱け!」製作委員会
でも、それは決してノスタルジーに引っ張られたものではなくて、少年たちが彼らなりに人間関係と向き合いながら、倫理観や広い世界、まだ果てしなく遠くに思える漠然とした将来を見据え始める時期の飛躍的な成長を描くというしっかりしたテーマがあります。あの頃は良かったという感じでは決してない。それが証拠に、原作小説の舞台は現代なんですよね。おそらくは、スマホやなんかを排除したほうが主題をもっと引き出せるという狙いがあったのではないでしょうか。

(C)2022「雑魚どもよ、大志を抱け!」製作委員会
少年たちの演技はすばらしかった。プロダクションノートを読む限り、ワークショップやロケ中の過ごし方など、スタッフの工夫も功を奏したのでしょう。少年たちの変化が作品に刻印されていました。瞬と隆造がふたり向き合って心情を吐露する長いショットは奇跡的だったし、僕はとりわけ映画少年西野くんを演じた、演技ほぼ未経験の岩田奏(かなで)さんを推したいです。そして、5年後、10年後、リアルに成長した彼らを起用しての続編、スピンオフなんかを、僕は期待してしまうくらいに興奮してしまいました。足立監督、ご検討くださいませ。


結構長尺で2時間半ぐらいあるんですが、それでも退屈なんてすることはない流れも良かったし、この曲で余韻に浸れるエンド・クレジットまで目が離せませんでしたよ。

さ〜て、次回2023年4月11日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『シン・仮面ライダー』です。決まった瞬間に50代後半のスタッフが両手を掲げて立ち上がって喜んでおりましたが、仮面ライダーはカバーしている世代が広いし、それぞれのイメージがあるんで、当然賛否両論が出そうではあります。そこを庵野秀明さんがどう切り込むか。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!

スターチャンネルで配信中!『ゴールデン・ハンター』作品解説

Amazonプライム内「スターチャンネルEX」で好評配信中、BS「スターチャンネル」で随時再放送!僕・野村雅夫が選ぶ、イタリア映画の巨匠たちによる、知られざる名作シリーズ。

『愛と殺意』『狂った夜』『三人の兄弟』『ゴールデン・ハンター』『醜い奴、汚い奴、悪い奴』の5作品から、今回ご紹介するのはこちら。

ゴールデン・ハンター

『ゴールデン・ハンター』(原題:CASANOVA '70)

 

監督のマリオ・モニチェッリは、とにかく面白い痛快なイタリア式喜劇を撮る巨匠。そして主役は、イタリア映画永遠の主人公とも言うべきマルチェロ・マストロヤンニ最高のタッグで笑っていただきます。

マストロヤンニ演じるアンドレアは、NATOの将校。オリジナル・タイトルにはカサノヴァとあるのでわかるかと思いますが、邦題の『ゴールデン・ハンター』というのは、ガールハントのことなんですね。アンドレアは女性を誘惑するスペシャリスト、自他ともに認めるプレイボーイ、なんですが、実は性的に不能であるという自覚を覚えるようになるんです。そこで、高名な精神科医にみてもらったところ、危険な目にあわないと性的に興奮しないらしいとわかります。あとはもう、アンドレアがどんな危険な目にあうか、それはもう見てのお楽しみ。最後のオチまで、その暴走ぶりに笑えます。

無駄にキャラが濃い精神科医

まずはなんといっても見応えたっぷりのオープニングクレジット。おしゃれであるのと同時に、文字と文字がなんというか、ウッフンな感じというか、男女の関係を連想させますよね。まさにこの後始まる本編の内容を示唆しているわけなのです。

ウッフンに次ぐウッフンな展開

イタリアのエロティックな笑い話は、中世の『デカメロン』が有名で脈々とありますが、デカメロンではいろいろな登場人物がいろいろなエピソードを語って幅を広げていく小噺集であるのに対して、この作品ではマストロヤンニ演じるアンドレアがひとりで全部をこなすという、いわば「ひとりデカメロンですよ。

パゾリーニ脚本・監督『デカメロン

原体験ともいえる「竹馬のぞき」にはじまり、極限状態で愛の営みをどんどんエスカレートさせていきます。NATO将校であるという設定も手伝って、舞台がくるくる変わるのも観光映画的で楽しいですね。そうそう、マストロヤンニの衣装にもご注目。カサノヴァたるもの、おしゃれにも気を遣ってなんぼ。シーンごとの彼の衣装を見るだけでも楽しめます。

また、物語後半で特にアンドレアの危機として立ちふさがる骨董マニアの伯爵。見た目も性格もかなりぶっ飛んだキャラクターですが、これを演じるマルコ・フェレーリは、実は映画監督で、『女王蜂』『最後の晩餐』など、かなりぶっとんだ映画を撮ることで有名です。

マルコ・フェレーリ(左)

アカデミー賞脚本賞にノミネートされた本作、音楽はエットレ・スコラ監督の名作『あんなに愛しあったのに』でも有名なアルマンド・トロヴァヨーリが担当しています。

 

この作品、そしてそのほかの僕が選んだイタリア映画も、ぜひスターチャンネルでお楽しみください!

 

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■作品情報

ゴールデン・ハンター
CASANOVA '70
1965年/イタリア/127分
監督/マリオ・モニチェッリ
脚本:トニーノ・グエッラ(『禁じられた抱擁』)、スーゾ・チェッキ・ダミーコ(『山猫』)、ジョルジョ・サルヴィオーニ、マリオ・モニチェッリ、アージェ・スカルペッリ
撮影:アルド・トンティ(『鎖の大陸』)、
音楽:アルマンド・トロヴァヨーリ
製作:カルロ・ポンティ

 

■キャスト
アンドレア:マルチェッロ・マストロヤンニ
ジリオーラ:ヴィルナ・リージ(『女房の殺し方教えます』)
テルマ:マリーザ・メル(『潜行』)
ノエル(冒頭の女性):ミシェル・メルシェ(『可愛い悪女』)
精神分析医:エンリコ・マリア・サレルノ
客室乗務員:セイナ・セイン
客室係:ローズマリー・デクスター

『フェイブルマンズ』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 3月28日放送分
映画『フェイブルマンズ』短評のDJ'sカット版です。

1946年に生まれ、74年に『続・激突!/カージャック』で長編監督デビューを果たして以来、約半世紀に渡って数々の名作を生み出してきたスティーヴン・スピルバーグ。彼が映画監督になる夢を叶えるにいたるまでの原体験を描いた自伝的作品です。両親に映画館へ連れて行ってもらったことをきっかけに、映画に夢中になっていくサミー・フェイブルマン少年。科学者の父とピアノを弾く芸術家肌の母、そして妹たちとの関係を軸に、サミー少年が夢を抱き、追い求めていく物語です。
 
監督と共同脚本、共同製作は、もちろん、スティーヴン・スピルバーグ。音楽は現在92歳のジョン・ウィリアムズが手がけました。主人公のサミーを演じたのは、この作品で数々の賞を受賞したガブリエル・ラベル。名前を覚えておきたいですね。母親をミシェル・ウィリアムズ、父親をポール・ダノ、そして家族みんなの親友ベニーをセス・ローゲンが演じています。
 
僕は先週水曜日の午後にMOVIX京都で鑑賞してきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。


スピルバーグについては、評伝はいろいろ出ています。『地球に落ちてきた男』『映画の子』『スピルバーグ その世界と人生』などなど、国内外で彼がいかに映画を愛し、映画に愛されてきたのかっていうのが研究なり評論の対象となっているわけですが、本人はインタビューには答えても、自伝を書いていないんですね。つまりは、この『フェイブルマンズ』が、少なくともデビューするまでの自伝である。自伝は映画で発表するという心意気なんだろうと思います。

スティーヴン・スピルバーグ ; 映画の子 (KAWADEムック 文藝別冊) スピルバーグ その世界と人生

僕が興味深いなと感じたのは、この作品で描かれているエピソードの数々が、そのまま映画論になっていて、さらに彼の監督としてのスタンスの表明にもなっているということ。たとえば、セシル・B・デミルの『地上最大のショウ』で初めて映画に触れた主人公サミーが、その列車の衝突映像の迫力に恐れを興奮を抱くというくだり。家でそれを再現したいと、模型を用意してもらってやるんだけれど、普通の子なら走らせて満足するのに、サミーはわざとばんばんぶつけて衝突させるもんだから、困ったお母さんが、8mmフィルムで撮影しちゃえば、それを上映することで何度でも楽しめるじゃないと提案して実践するわけです。これは映画の再現芸術としての特性を体験として理解することなわけだし、そのモチーフが列車であることも、映画史のスタートにリュミエール兄弟の『ラ・シオタ駅への列車の到着』があることも忘れてはいけません。『地上最大のショウ』はサーカス団の話だから、他のシーンが気になっても良さそうだけれど、自分で再現するのは列車なんです。さらに、現実としてばんばんぶつけていたら困ったもんだとなる模型列車の破壊行為も、うまく撮影して見せれば、お母さんという観客を驚かせる迫力が出せるんだということに気づきます。現実が映像に変換された時に付け加わる魅力というものにサミーは開眼するわけです。さらに加えて、エンジニアの父親からは写真がどうして動くように見えるのかという技術的な解説を受け、芸術家の母からは映画がいかに人の心を動かすかを諭されるという、まさに映画の両輪を両親から学んだわけですね。そして、ショウビズ界にいた叔父からは、「芸術家の孤独」についても教え込まれてビビる。誰も別にサミーを映画監督に仕立て上げようなんてしていなかったのに、サミーはなるべくしてそうなったというか、自分にとって大切なエッセンスをきっちりキャッチしていたとも言えますよね。

(C)2022 Universal Pictures. ALL RIGHTS RESERVED.
どうも、この家族はよそとは違うらしいという、うすうす気づいていたけれど深く追求せずにいた問題の本質を見つけてしまうのも、カメラを通してでした。学校で頼まれていたみんなの旅行の記念映画では、現実を切り取った動画素材が、アングルや編集によってずいぶん変わって見えることや、被写体がそこにどんな反応を示すかということにも気づかされることになります。要するに、サミーは人生において大事なことの数々、歓びも悲しみも、弾けるような笑顔もこぼれ落ちる涙も、その多くを映画を通して学び、この作品の後にスピルバーグは映画を通してそれらを表現してきたんだということです。その広い意味での感謝もあるだろうし、映画なんて所詮は趣味だろうとした父のことも、自由奔放で家族を苦しめる側面のあった母のことも、ジャッジせず、かといって両論併記みたいに距離を置くでもない、その姿勢、バランスが結果としてとてもスピルバーグらしいなと感じました。

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これはパンフレットで南波克行さんが書いていることですが、映画業界に入っていくサミーを象徴する場面で、彼はスタジオが左右に林立するその間を歩くんですよね。『レイダース/失われたアーク』のラストにそれが絵的に重なるのだけれど、聖なるものと邪なものがひとつになったアークがその先にあるのであって、分断ではなく共存を目指すスピルバーグの意志がそこに表れていると分析されていました。あの場面はまた、サミーにとっての、つまりはスピルバーグにとっての映画の父親にあたる人物からの言葉を受けた遊び心も発揮されていて素敵でしたよね。
 
とにかく、僕はジョン・ウィリアムズのサントラも手伝って、うっとりと最後まで鑑賞しました。ほんと良質だし、演出はさらりとしていますが匠の技があちこちに光っています。どうぞ、映画館でやっているうちに!


さ〜て、次回2023年4月4日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『雑魚どもよ、大志を抱け!』です。脚本家出身の足立紳さんは、『喜劇 愛妻物語』がとにかくすばらしくて、興奮して評論したことを覚えています。あのダメ男への目線がもう最高でした。今回は弱虫の少年少女たちをどう描くのか。楽しみ楽しみ! さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!